社会との共有価値企業ナレッジを活用した“体験型コンテンツ” が育む知的好奇心【協和キリン×アシックスジャパン】

スマートフォンや家庭用ゲーム機が普及した現代、身近に溢れる情報やコンテンツの裏で、失ってきたものがある。自らの五感を通した“体験”だ。

それは子どもたちにとっても例外ではない。

文部科学省の発表によれば、多くの情報に囲まれた環境で育つ現代の子どもたちは、“世の中についての知識は増えているものの、その知識は断片的で受け身的なものが多く、学びに対する意欲や関心が低いと指摘されている。

この課題を受け、ナレッジを活用した“体験型コンテンツ”を開発、提供し地域住民や教育機関から支持を得る企業がある。アシックスジャパン株式会社と協和キリン株式会社だ。

両社が“体験型コンテンツ”を通じて伝えたいこととは――。担当者に開発の経緯や目的、今後の展望について聞いた。

  • 文部科学省 中央教育審議会中間報告「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について 第4節子どもの育ちの現状と背景(2005)」より引用

対談者プロフィール

田邉直樹 (たなべ なおき)
アシックスジャパン株式会社 事業戦略部
サステナビリティ推進 日本地域担当

サッカー指導者を経て、2011年に同社へ入社。より多くの子どもたちにスポーツの楽しさや、可能性を伝えるため「One Future Project」を発足。中心メンバーとして活動する。好きな言葉は「スポーツは世界のことば」。

夏目由香理(なつめ ゆかり)
協和キリン株式会社 研究開発本部 東京リサーチパーク 研究推進グループ

現在は、同社研究所の人事担当として業務を行う傍、主に近隣の小学生、中学生、高校生を対象とした理科実験教室「バイオアドベンチャー」町田校の企画・運営を務める。

「科学」はいつでも身近な場所に:バイオアドベンチャー(協和キリン株式会社)

画像:夏目由香理(協和キリン株式会社)

–両社が提供する「体験型コンテンツ」について教えてください。

夏目由香理(以下、夏目)協和キリン株式会社では、2000年からバイオテクノロジーと健康をテーマとした理科実験教室「バイオアドベンチャー」を開催しています。

プログラムは大きく「微生物編」「免疫編」「遺伝子編」「薬作り編」に分けられており、参加者の年齢や実施場所などの条件に合わせてプログラムを提供しています。

画像:【写真上】遺伝子編(DNA工作イベント)で作製する模型。チューブとモールでDNAの二重らせん構造を再現する。色分けされた4つのチューブ(塩基:A,T,G,C)によってDNAが形作られていることを楽しみながら理解できる。
【写真下】博士認定証(表面・裏面)。同プログラムの終わりには、オリジナル博士認定証が手渡される。参加者にとって嬉しいお土産だ。
画像:中学生/高校生を対象に抗原抗体反応を学ぶ「免疫編」で使用される抗体と抗原の模型。抗原と抗体がぴったりとはまることで情報が伝達され、外敵からカラダを守る免疫機能が発揮される。鍵と鍵穴のように特異的に結合する抗体の性質を模型で実感する。

「バイオアドベンチャー」を開始したきっかけは子どもたちの「理科離れ」が社会問題となったことでした。身の回りにあるものを題材とし、分かりやすい言葉でシンプルに科学の面白さを伝えるというコンセプトは当時から変わっていません。

分かりやすさを重視しているとはいえ、現役の研究員が講師を務め、創薬の現場で実際に使われている機器や実験方法を取り入れるなど、本格的な体験ができるよう意識しています。

スポーツで子どもたちへ活力を:「One Future Project」(アシックスジャパン株式会社)

画像:田邉直樹(アシックスジャパン株式会社)

田邉直樹 (以下、田邉)アシックスジャパン株式会社では、「One Future Project」を発足し、子どもたちにスポーツを好きになってもらうことはもとより、発見や自立につながるよう運動の機会の提供に努めています。

「One Future Project」は昨年発足したばかりのプロジェクトですが、現在「カラダかるた」「エコボッチャ」という2つの体験型コンテンツを用意しています。「カラダかるた」はパラスポーツを含めた38種類の競技のピクトグラムが描かれたかるたを使って体を動かすコンテンツです。競技のジェスチャーをしたり、クイズ出題したりするなど、ゲーム感覚で体を動かしながら遊ぶことで、運動しながらスポーツへの知見も高めることができる内容となっています。

画像:「カラダかるた」で実際に使用されるカード

「エコボッチャ」は、世界的環境課題とされている衣類リサイクルが進んでいない現状に着目し、廃棄される衣類から作られたリサイクルフェルトで子どもたち自らがボールを手作り。そのボールでパラスポーツの一種である「ボッチャ」をプレーすることで、モノづくりやリサイクル、多様性を学ぶというコンテンツです。

これらのコンテンツは、基本的にチーム対抗で行うものなので、仲間と一緒に考えたり、話し合う過程でチームワークや協調性が育まれることが期待されます。

自ら考え、行動する力を養うために

–実際に体験した子どもたちの反応はどんなものでしたか?

夏目微生物編では、カマンベールチーズの表面に付着した白カビや乳酸菌飲料に含まれる乳酸菌などを顕微鏡で観察するのですが、顕微鏡を覗いた瞬間に大歓声が上がることもしばしばです。

ワクワクした表情でずっと顕微鏡を覗いている姿を見ていると、時間が許すならば、もっとたくさんの子どもたちに体験してもらいたいと思いますね。

画像:カマンベールチーズ表面に付着している「白カビ」の菌糸。小学生を対象とした「微生物編」では身近なものから採取した微生物を顕微鏡で観察する。子どもにとっての微生物が、「悪いもの」「汚いもの」でなくなる瞬間だ。

田邉「カラダかるた」を終えた子どもたちからは、よく『もっとやりたい』という声をもらいます。コロナの影響で急遽コンテンツをオンライン配信に切り替えたのですが、結果的に、遠く離れた地域の子どもたちとゲームを通じて楽しみながら交流することができました。

画像:他の学童によるジェスチャー問題に対し、どの競技が正解かを議論する子どもたち。

昨年、「カラダかるた」は関東圏のみならず、兵庫や静岡など全国11の自治体で実施されました。学童施設での提供を基本としているため、どうしても活動時間が限られてしまうので、今後はイベント会場などでの実施も視野に入れていきたいと考えています。

–両社のコンテンツは共通して「体験」を重要視していますね。

田邉情報機器が発達した現代、子ども達にとって答えが用意されている環境は『当たり前』となっています。もちろん情報がリッチなことは便利なことが多いですが、一方で、物事に対する理解の深度を緩めることがあると思うのです。

例えばパラスポーツの「ゴールボール」一つをとっても、ルールなどの知識だけでなく、目をつむるなど実際の動きを真似してみることで「競技の難しさ」と「障がいへの理解」を考えるきっかけになります。見たことのあるボクシングの動きも、実際にやってみると全然違う動きになってしまい、どうしたらカッコよく、うまくできるか工夫が求められ、子どもたちの興味を引き出します。

画像:答え合わせをしたのち、カラダタイムで運動。イメージを再現することは想像以上に難しい。

「体験」は受動的な情報だけでは分からない、物事をさまざまな観点から理解するための有効な手段だと考えています。

夏目視覚からの情報だけではイメージしにくいことも実際に体験することで『ストンと落ちる』ことがありますよね。私自身も、幼少期に食物アレルギーを経験して感じた「アレルギーはどうして起こるんだろう」という純粋な疑問がカラダや薬への興味の原点となっています。

「バイオアドベンチャー」でも、こちらが一方的に話すのではなく、子どもたちに問いかけ、考えてもらう過程を大切にしています。「わからないこと」に疑問や興味を持ち、「自分でもっと調べてみよう」と思うきっかけを作れたら嬉しいですね。

私たちが次世代にできること

–2つのプロジェクトを通して伝えたい思いとは?

田邉現在、ライフスタイルの変化による子どもの運動量の減少や、地球温暖化の影響でこれまで可能だったスポーツが今後できなくなる可能性などが示唆されています。

次世代を担う子どもたちには、まずスポーツを体感し、好きになってもらいたいです。そこから、今スポーツができることは当たり前ではなく、スポーツと『サステナビリティ』は切り離せないことを、共に伝えていってほしいと思っています。

夏目この活動を通して、科学の面白さや新しい発見をするわくわく感を伝えたいです。もちろん、科学分野に興味を持ってほしいという思いはありますが、様々なことに好奇心を抱いて、知的探求心を膨らませていってほしいです。子どもたちをはじめとした多くの方々にとって「バイオアドベンチャー」がいつまでも心に残る“原体験”となるよう、これからも活動を続けていきます。

まとめ

見聞きした情報であたかも全てを理解した気持ちになることがある。「One Future Project」も「バイオアドベンチャー」も、そんな現代に置き去りにされがちな五感的「体験」を通じて、子どもたちの心に強烈な印象を残すコンテンツだ。ここで育まれた知的好奇心の芽は、必ず次世代の糧となるだろう。

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