People & Culture 【解説記事】ウェルビーイングとは?注目される背景や企業に求められる取り組みを紹介
近年、従業員の心身の健康や働きがい、自己実現を考えるうえで「ウェルビーイング」という概念が注目されるようになりました。今回は、ウェルビーイングの意味や取り組むことの意義、企業に求められる取り組みなどについて解説します。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(well-being)とは、身体的、精神的、社会的に満たされた良好な状態であることを指す概念です。1948年に世界保健機関(WHO)の憲章前文で「健康」の定義として初めて登場した言葉であり、単に病気でない、弱っていないというだけでなく、心身・社会的に良好な状態が将来にわたって維持され、人生の意義や充実感を感じられる包括的な状態を指します。
ウェルビーイングの概念は、企業経営においても注目されており、その文脈では従業員が自身の生き方の選択に合わせて、働きがいを感じながら、心身ともに健康で満たされた状態のことを指します。
ウェルビーイングが注目される背景
人々の価値観の多様化
ひとつは、人々の価値観の多様化です。現代社会では、個々人の求めるライフスタイルや働き方に関する考え方、人生観などの多様化が顕著になってきているといわれています。
また、近年の傾向として、若い世代を中心に職場を選択する際に自分の価値観を軸にする人が増えてきています。
ライフスタイルや働き方への多様なニーズに応えることは、従業員一人ひとりの背景や事情に配慮した「包摂的な職場づくり」、ひいては従業員満足度の向上や多様な人材がそれぞれの能力を発揮できる働きがいのある職場環境の整備にもつながります。こうした取り組みは、イノベーションの源泉となり、企業競争力の強化につながることから、ウェルビーイングが注目されるようになりました。
人手不足
少子高齢化の進行により、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8,726 万人をピークに減少を続けており、2020年には7,509 万人まで減少、2030年代、2040年代、2060年代にはそれぞれ7,000 万人、6,000 万人、5,000万人を割ると見込まれています※1。
- ※1国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計 令和5年推計人口」

生産年齢人口は、社会の生産活動を担う中心的な層を指しており、その減少による人手不足が懸念されています。企業は人材確保が難しくなるだけでなく、少ない人材で成果を上げることが求められるようになります。
多くの人にとって働きやすい・働きがいのある環境を整えることは、人材の確保・定着率の向上につながるほか、満足度やエンゲージメント、ひいてはパフォーマンスや生産性の向上にもつながります。
また、潜在労働力人口の労働参加を促すうえでもウェルビーイングは欠かせません。潜在労働力人口とは、完全失業者には該当せず、就業の意欲があるものの、さまざまな理由で求職活動をしていない人々のことを指します。代表例として出産や育児、介護などを理由に就業できない人や、高齢者など働く時間や環境に配慮が必要な人たちが挙げられます。
意欲のある人が働き手として活躍するには、労働参加における障壁を取り除き、安心して働ける職場環境を作ることが欠かせません。ウェルビーイングの実現は、こうした課題を解決する方法のひとつだといえます。
新型コロナウイルスの感染拡大による働き方の変化
ウェルビーイングが注目されるようになった背景のひとつに、新型コロナウイルス感染症の拡大があります。
コロナ禍で多くの企業がリモートワークを導入し、多様な働き方が推進された一方で、新たな課題も生まれました。在宅勤務などにより対面でのやり取りが減少したことから孤独感やストレスを抱える人や、運動不足による体の不調を訴える人が出てきたのです。
こうした中で、継続的に心身ともに健康であることの重要性に再び注目が集まり、ウェルビーイングが求められるようになりました。
企業に求められる取り組み
ウェルビーイングの実現に向けて、企業は具体的にどのような取り組みを行うべきなのでしょうか。
労働環境・制度の見直し
多様な働き方の推進や、成果に応じた評価・報酬制度、ニーズに応じた福利厚生制度などは、従業員のウェルビーイングの向上につながります。現在の労働環境・制度が従業員にとって働きやすい・働きがいのあるものか見直したうえで、必要な対策を講じる必要があります。
具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
- 従業員が個人の事情に応じて働く場所や時間を柔軟に選択できるよう勤務形態を見直す
- 育児・介護休暇に関する制度の見直しや取得がしやすい風土づくりを進める
- 個のニーズに応じて福利厚生制度を拡充
コミュニケーションの促進
コミュニケーションの活性化は、仕事のパフォーマンス向上だけでなく人間関係に関する悩みやリモートワーク環境下における孤独感、ストレスの解消にもつながり、ひいてはウェルビーイングの向上が期待できます。こうした理由から企業は、従業員同士がコミュニケーションを取りやすい環境を構築することが重要です。
具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
- リフレッシュスペースの設置
- SNSやチャットツールなどの活用
- イベントの開催
健康維持や増進のサポート
従業員の健康面をサポートすることもウェルビーイングの向上につながります。
具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
- 健康診断
- 予防接種
- 従業員を対象としたストレスチェック
- メンタルヘルスケア研修
- 産業医への相談窓口の設置
- スポーツ施設利用の補助
また、昨今はこれらの取り組みを経営の観点から体系的に行う「健康経営」が広まっています。
【解説記事】「健康経営」とは? 注目される背景や取り組み事例を紹介
企業はこれらの取り組みを通じて、多様な価値観・ニーズに応じた柔軟な制度や組織文化を作ることで、従業員のウェルビーイングを実現していくことが求められています。それは結果として、変化に強く、持続的に成長できる企業体質の構築にもつながるといえそうです。
協和キリンの取り組み
協和キリンでは、従業員が主体的に自身の健康維持・増進に取り組む環境づくりを目指し、2015年5月に経営トップによる健康宣言を発信。トップ主導の下、会社と健康保険組合の協働(コラボヘルス)による「協和キリングループ Wellness Action 2020」を開始し、現在は「協和キリングループ Wellness Action 2025」に取り組んでいます。 従業員が、ビジョン実現に向かって、自分事としてワクワク感を持ってWellness Action(行動変容)に取り組むことにより、自らの健康リスクの低減や豊かな人生の実現に加え、会社、社会に貢献していくことを目指しています。
また、Life-changingな価値創造に向けて全従業員がその能力を最大限発揮するため、一人ひとりが主体となって、組織(機能・リージョン)ごとに最適な働き方を考える「ハイブリッドワーキングモデル」を提唱しています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
