People & Culture 【解説記事】ウェルビーイングとSDGsの関係とは?企業ができる3つの取り組み

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の目標達成の取り組みに関連する話題として「ウェルビーイング」といった言葉を耳にしたこともあるかもしれない。ウェルビーイングは、従業員の心身の健康を考えるうえでも注目されるようになった言葉だ。

今回は、ウェルビーイングの意義やSDGsとの関係性、具体的な取り組み事例などを解説する。

ウェルビーイングとは身体的・精神的・社会的に良好な状態のこと

ウェルビーイング(well-being)は、世界保健機関憲章にも記載のある概念だ。身体的、精神的、社会的に良好な状態で、個人の権利と自己実現が保障されている状態を表す。

健康、あるいは幸福や福祉などに訳されるウェルビーイングだが、その意味は健康や幸福などよりも広範囲に及ぶ。一時的な状況でなく、心身、そして社会的にも満たされた状態が続くこともウェルビーイングにあたる。

ウェルビーイングの概念は、しばしば仕事においても用いられるようになっている。就業面からのウェルビーイングとは、労働者が自身の生き方の選択に合わせて、働きがいを感じながら、心身ともに健康で満たされた状態で仕事ができることを指す。

ウェルビーイングが注目される背景

個人が自己実現や生き方の選択を理由に働く環境を変えるには、難しいこともある。さまざまな考えや理想の生き方をもった人々が、それぞれの理想を実現するには、周りの環境も重要だ。

そこで、各国の機関や官公庁、企業において、より多くの人がやりがいや幸福を感じながら働けるよう労働者の環境を整備することに関心が集まるようになった。ここでは、主に企業でウェルビーイングが注目されるようになった3つの背景を紹介する。

人々の価値観の多様化

ひとつは、人々の価値観の多様化である。社会が性別や文化、国籍などの多様化を尊重するようになってきているように、個々人が指向する生活スタイルや仕事観、人生観も多様化している。

また、近年の傾向として、若い世代を中心に自分の価値観を基準に職場を選択する人が増えてきている。

こうした状況で企業に求められるようになったのが多様性の尊重 だ。

企業が多様な人材を受け入れることは、個々がそれぞれの能力を発揮していくことにもつながる。結果として、企業で働く従業員の幸福度の向上やイノベーションの創出も見込めることから、ウェルビーイングが注目されるようになった。

人材不足

総務省が公表する「我が国の高齢化の推移と将来推計」によると、2020年に7,341万人の生産年齢人口(15歳以上64歳までの人口)は、2060年には4,418万人に減少すると予想されている。

出典:「第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト別ウィンドウで開きます」(総務省)

生産年齢人口は、労働力となる年齢の人口を指す。将来的に国内の労働力人口が大きく減少する可能性が高いと予想される。

労働人口が減少すれば、企業は人材確保が難しくなるだけでなく、少ない人材で成果を上げることも求められる。多くの人にとって幸福感のある働きやすい環境を整えることは、人材の確保、ひいては生産性の向上にもつながる。

また、潜在労働力人口の労働参加を促すうえでもウェルビーイングは欠かせない。

潜在労働人口とは、失業者や就業者に当てはまらず、すぐには働けないが仕事を探している人や、働ける状態にあるが仕事を探していない人のことを指す。代表例として出産や育児、介護などが理由で就業できない女性が挙げられる。

意欲のある人が働き手として活躍するには、労働参加における障壁を取り除き、働きやすい環境を作ることが欠かせない。ウェルビーイングの実現は、こうした課題を解決する方法のひとつだといえる。

新型コロナウイルスの感染拡大

ウェルビーイングが注目されるようになった要因のひとつには、新型コロナウイルス感染拡大もある。コロナ禍で多くの企業がテレワークを導入したためだ。

テレワークにより自身の働き方を再考する人が出てきた一方で、テレワークの負の部分も表面化した。テレワークにより対面でのやり取りが減少したことから、従業員間のコミュニケーション不足が問題視されたり、心身の不調を抱える人が出てきたりといったことだ。

多様な働き方を受け入れるだけでなく、従業員がやりがいを感じながら働ける環境を構築するためにもウェルビーイングが求められている。

ウェルビーイングとSDGsの関係性

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の目標の中には、ウェルビーイングにつながるものもある。中でも関連が深いのがSDGsの目標3と目標8だ。

目標3「すべての人に健康と福祉を」

目標3「すべての人に健康と福祉を」は、だれもが健康的で幸福な生活ができることを達成するための目標だ。英語では「Good Health and Well-Being」と表記され、ウェルビーイングが含まれている。

具体的なターゲットとして挙げられているのが、母子の健康、幼い子どもの死亡の減少、伝染病対策、薬物やアルコール乱用の防止、交通事故によるケガや死亡の減少などだ。

身体面での健康が大きな目標となっているが、心の健康に対する対策や福祉、お金を心配せずに受けられる基礎的保健サービスなども目標に掲げられている。

経済状況に関わらず、多くの人が心身の健康を手に入れられるようにするといった点で、SDGsの目標3はウェルビーイングとも関連が深い。

目標8「働きがいも経済成長も」

目標8「働きがいも経済成長も」は、安定した経済成長によって、生産的でだれもが人間らしく生きられる社会を目指す目標である。

だれもが働きがいのある人間らしい仕事ができること、不安定な状況で働いている人も含めてすべての人が働く権利のもと安心・安全に仕事ができる環境を構築することなどを目標に掲げている。

つまり、ウェルビーイングで多くの人が働きやすい環境を作ることは、目標8の達成にもつながるといえる。

SDGs達成につながるウェルビーイングの取り組み

ウェルビーイング実現のために企業ができる取り組みには何があるのだろうか。SDGs達成にもつながるウェルビーイングの3つの取り組みを紹介する。

労働環境の見直し

多様な働き方を受け入れることは、従業員のウェルビーイングにつながる。現在の労働環境が従業員にとって働きやすい環境であるか見直したうえで、必要な対策を講じると良いだろう。

具体的には、個人の事情に合わせて働ける時間や場所などの勤務形態の見直し、育児休暇取得がしやすい雰囲気づくり、有給休暇取得の促進などが挙げられる。

コミュニケーションの促進

コミュニケーションの活性化は、仕事のパフォーマンス向上だけでなく人間関係の悩み解消によるウェルビーイングの向上を期待できる。企業としては、従業員同士がコミュニケーションを取りやすい環境を構築していくことが重要だ。

具体的には、リフレッシュスペースの設置、SNSやチャットツールなどの活用、イベントの開催などが挙げられる。

健康維持や増進のサポート

従業員の健康面をサポートすることもウェルビーイングにつながる。代表的なものとして、健康診断や予防接種、スポーツ施設利用の補助など、身体面でのサポートが挙げられる。

しかし、身体の健康維持や増進だけでは十分にサポートできているとはいえない。ウェルビーイングを実現するには、心の健康も欠かせない。

従業員のメンタルヘルスケアのために、ストレスチェックや管理職などへのメンタルヘルスケア研修の実施、産業医への相談窓口の設置なども合わせて考えると良いだろう。

まとめ

ウェルビーイングは心身が良好な状態であるだけでなく、社会的にも良好な状態で権利や自己実現が保障されていることを表す。SDGsの目標3や目標8とも関連の深いテーマだ。

働く人やこれから働こうとする人がウェルビーイングを実現することに、企業も関心を寄せるようになってきた。価値観の多様化のほか、今後予想される人材不足に備える必要が生じているためだ。

多様な働き方を受け入れるための労働環境の見直しやコミュニケーション活性化のための環境の整備、従業員の健康維持のためのサポートなど、企業としても積極的に取り組みを進めていくことが求められる。

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