社会との共有価値使用電力100%を再生可能エネルギーとした協和キリン宇部工場。脱炭素化に向けたさらなる一手とは?

持続可能な未来の実現に向け、再生可能エネルギー※1の活用が注目されている。社を挙げて脱炭素化に取り組む協和キリン株式会社は、2023年4月から山口県宇部市にある自社の医薬品製造拠点「宇部工場」において工場の使用電力を100%再生可能エネルギーへと切り替えた。今回は担当者に再生可能エネルギーへの転換までの道のり、そして今後さらなる脱炭素化に向けた取り組みについて話を聞いた。

  1. ※1太陽光や風力、地熱など自然界に常に存在するエネルギーのことで「枯渇しない」「どこにでも存在する」「CO2を排出しない(増加させない)」の3点を特徴とする。有限な資源である化石エネルギー(石油・石炭・天然ガスなど)と対比される。
画像:写真左から重氏、手嶋氏、南條氏

出演者プロフィール

南條貴律(なんじょう たかのり)
協和キリン株式会社 宇部工場 環境安全室

1974年生まれ、岡山県出身。1999年協和キリンの前身となる協和醱酵工業株式会社に入社。防府・富士・四日市・堺の各工場を経て、現在は宇部工場の環境安全業務に従事しSDGs活動を推進。省エネ・省資源の工場運営を目指す。

重孝幸(しげ たかゆき)
協和キリン株式会社 宇部工場 工務部

1991年生まれ、福岡県出身。2018年入社。工場内の設備管理を主な業務とする。2023年にはチームとしてSF棟のZEB認証の取得を達成。

手嶋正樹(てしま せいじゅ)
協和キリン株式会社 宇部工場 工務部

1981年生まれ、福岡県出身。2022年入社。工場内の設備管理を主な業務とする。2023年にはチームとして大規模太陽光発電設備稼働を達成。

協和キリン株式会社 宇部工場

山口県宇部市の厚東川東岸に位置する協和キリン株式会社の基幹工場。同社の経口固形製剤の生産のほか、新製品の生産スキームの立ち上げにも関わる研究開発型の工場である。1991年11月に竣工し現在は約250名の従業員が働く。秋吉台を上流にのぞむ風光明媚な自然環境に立地し瀬戸内海に注ぐ厚東川の恩恵を受ける。

大規模太陽光発電パネルを工場敷地内に設置

–工場の使用電力にRE100※2基準の再生可能エネルギーを導入した宇部工場ですが、そこにいたるまでの背景を教えてください。

南條気候変動の影響がますます深刻化する現代において、温室効果ガスの排出削減は喫緊の課題です。当社が所属するキリングループでも2020年より「キリングループ環境ビジョン2050別ウィンドウで開きます」を掲げ、2050年までにキリングループのバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量をネットゼロにするという高い目標を掲げています。

グループ企業や社内他事業場で再生可能エネルギーの導入が進む一方、協和キリン宇部工場(以下、宇部工場)で使用されるエネルギーは依然として化石燃料の中でもCO2排出量が多いとされる石炭由来ものがほとんどを占めていました。環境負荷の低減のためにも早期の再生可能エネルギーへの転換が望まれていたのです。

  1. ※2企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的な取り組み
画像:工場敷地内に設置されたメガソーラー

–実際には、どのように購入電力の再生可能エネルギー比率100%を達成したのでしょうか。

南條再生可能エネルギーによる工場運営の実現にあたり、まずは工場敷地内でエネルギーを調達できないかと考え、広大な敷地を利用した太陽光発電設備(メガソーラー)の設置を考案しました。現在は工場内2箇所にオンサイトPPAモデル※3による大規模太陽光発電設備(1.47MW)を導入、2023年3月から稼働を開始しています。加えて、同年4月からは電力会社からのエネルギー供給を非化石燃料由来のものに限定することで、合わせて再生可能エネルギー比率100%の実現に至ったのです。これにより年間約 1,029t のCO2排出量が削減可能となりました。

  1. ※3事業者が電力 需要家の敷地や屋根等に太陽光発電設備を無償で設置し、そこで発電した電力を電力需要家に販売する事業モデルpdfが開きます。Power Purchase Agreement(電力購入契約)の略

新事務所棟で最高ランクの「ZEB」を取得

画像:ZEBの定義(出典:環境省 ZEB PORTAL別ウィンドウで開きます

–宇部工場の環境関連のトピックスとしてはもう1つ、2023年3月に敷地内に竣工した新事務所棟(以下、SF棟)が環境に配慮した建築物の基準である「ZEB」の認証を取得したと聞いています。この「ZEB」認証とはどのようなものなのでしょう。

「ZEB」とは、net Zero Energy Buildingの略で、省エネ対策により一次エネルギー(化石燃料由来)消費量を削減した上で、再生可能エネルギー等を導入することで、エネルギー収支を正味ゼロにすることを目標とした建築物に与えられる認証のことです。

認証の評価はエネルギー削減率に従って4段階に分かれており、今回のSF棟は、山口県で3例目となる最高ランクの「ZEB」を取得することができました。「ZEB」の取得は、国の定めた基準値から一次エネルギー年間消費量を50%以上削減し、残りの割合を再生可能エネルギーなどで賄うことで、その建物で消費される一次エネルギーが正味0(ネットゼロ)を達成していることを意味しています。

「ZEB」取得に向けた道のり。大規模太陽光パネルとのコラボレーション

画像:重氏

–つまり、SF棟では省エネと再生可能エネルギーの比率を合わせ、100%以上の化石燃料由来のエネルギー削減率を達成しているのですね。すごいことだと思うのですが、取得に至る過程で課題はありましたか?

まず再生可能エネルギーの部分についてお話ししますと、一般的にこれを達成するためには太陽光パネルを設置し、該当する建物にそこで発電した電力を送っていることを証明しなくてはいけません。

しかしながら「ZEB」の取得のために必要な太陽光パネルの枚数を試算したところ、なんと330枚にもなることが判明。この設置には横45m縦183mもの物理的スペースが必要となるため、SF棟では設置困難なことが判ったのです。

どうしたものかと悩んでいた時に閃いたのが、南條さんと手嶋さんが主導していたメガソーラーとのコラボレーションでした。当時太陽光パネルとSF棟の「ZEB」取得という2つのプロジェクトはちょうど並行して動いていましたので、SF棟にメガソーラーで発電した電気を送ることで目的を達成できないかと考えたのです。

画像:ZEB認証を取得したSF棟

メガソーラーで発電した電気はそのまま施設内で使用されるわけではなく、一度特高変電所という宇部工場に電力を供給している施設を経由します。「ZEB」を取得するためには、敷地内の太陽光パネルで発電させた電力がSF棟に送られていることを証明する必要がありました。

申請建物と発電された電力の送電先が1対1の関係で申請すると分かりやすいのですが、今回は工場全体に対してSF棟への送電量を按分計算するなどの特殊な申請が必要で、その申請は簡単ではありませんでした。しかし、施工会社と連携し、与えられた課題を一つひとつクリアしていく中で、結果として最高ランクの「ZEB」を取得できたことは嬉しく思っています。また、今回のコラボレーションによりSF棟に新たな太陽光パネルを設置する必要がなくなったため、コスト面でも推定4,500万円の削減に繋がりました。

–大規模太陽光パネルとSF棟の建設。2つのプロジェクトのコラボレーションによって環境面はもちろん、コスト面でも大きな収穫となったのですね。

画像:手嶋氏

手嶋そのSF棟単独のエネルギーコストですが、建築物省エネ法で基準として定められたSF棟と同規模建物での電力使用想定量は年間350MWhといわれています。このSF棟では年間188MWhの電力削減が実現される見込みで、省エネ率は54%に達します。費用面で、年間320万円のコスト減、CO2の削減量はおよそ102tと試算しています。この数値を達成するため、設備面で窓ガラスへの複層ガラス(Low-Eガラス)導入、自然換気の促進システム※4導入やフロアダクト空調※5の採用をしています。今後はこれらシステムが適正に稼働することを確認していきます。

  1. ※4屋上に環境センサーを設置、屋外大気を計測することで、外気コンディションのよいときには在館者にランプの光で換気を促す。建物北面に手動の通気口、屋上部にはスイッチ操作で開閉する通気口が設けられている。
  2. ※5電気ケーブル配線用に用いられる二重床の空間に空調用空気を供給(給気)し、床面設置の床吹出口から室内へ吹き出す。室内を空調した空気は天井裏空間を経由して空調機に還る。二重床空間を利用するので、ダクトの設備工事コストや空気搬送の圧力損失の低減が可能。

工場で使われる電気を1kWh でも少なくするために、これからもできることを探して

画像:南條氏

–太陽光パネルや「ZEB」の取得、宇部工場では急速に再生可能エネルギー化が進んでいるのですね。その他にも環境負荷の低減のために実施している取り組みはありますか?

南條従来設備・建物のエネルギー効率の改善検討と共に、原材料・製品輸送、廃棄物搬出手段に関するCO2の排出抑制検討も、エコプロ事務局改め “SDGs事務局”(宇部工場従業員による環境推進チーム)のメンバーと共に取り組んでいます。

それだけでなく、場内に“地球環境改善、待ったなし”の現状を理解してもらえる様にYouTube風のエコ知識を学ぶ動画を配信、さらに、特定の部署で使わなくなったものを他の部署で利用する「不用品の再利用活動」や繰り返し使用できる容器を利用した「リユース弁当選択」の推進活動を繰り広げています。また毎年11月には、環境安全室員と有志の従業員で“秋吉台水源の森活動”と称した森林保全活動に参加し生物多様性の保全や水源の保護に取り組んでいます。

画像:水源の森活動(2022)に参加する従業員たち

–従業員のみなさんの環境への意識も高いのですね。宇部工場のさらなる脱炭素化に向け今後の展望をお願いします。

南條宇部工場の年間消費電力は約9,500,000kWhです。この数字は、協和キリングループの各事業場の中では少ない部類ですが、宇部工場環境安全室としては今後も削減できるところを探して“1kWh でも少なく”を実現できるように努めていきたいと考えています。

例えば、空調設備。現状では医薬品製造の環境管理上、工場全体の空調を24時間稼働させ続ける必要があり、そこで消費されるエネルギー量は全体の約8割にも上ります。現段階で打開策を見出せていませんが、「絶対削減出来る」という強い信念で他業種の削減事例も参考に、医薬品の製造環境は守った上での削減を目指そうとしています。

脱炭素化に向けた活動を推進していく中で、できない理由を考えるのは簡単なことです。でも、“地球環境改善、待ったなし”です。できない理由を考えるよりも、少しでも形に変えていくーー持続可能な社会に向けた積極的な姿勢を自らが体現することで、その思いを次世代に繋いでいけたらと思います。

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