社会との共有価値 【解説記事】「気候変動」に対する取り組み

目次
環境などへの影響や自然災害の増加を背景に、世界的に気候変動が問題視されています。気候変動に対する取り組みの基本的な考え方として近年重視されている「緩和策」と「適応策」についてお伝えします。また、国際的な取り組みと、日本での取り組み、個人でできる取り組みも紹介します。
気候変動の原因を減らす「緩和策」

気候変動への基本的な取り組み方には、緩和策と適応策があります。緩和策とは、地球温暖化と、それによって引き起こされる気候変動の主な原因となる温室効果ガスの排出を削減、あるいは植林などで温室効果ガスを吸収して実質的に排出を抑える対策を指します。例としては、以下が挙げられます。
- 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの利用
- 節電や省エネの促進
- 森林整備や都市緑地化などによる緑の増加
気候変動の影響を減らす「適応策」

気候変動は、大雨や洪水、高温、熱波などの自然災害をもたらします。適応策は、このような気候変動による影響や被害を回避または軽減したり、変動する気候に適応したりしようとする対策のことです。
例としては、以下が挙げられます。
- 河川や下水道の整備などによる災害への備え
- 熱中症対策
- 高温でも育つ農作物の品種開発
先に取り上げた緩和策による直接的な排出量の削減も重要な取り組みですが、過去に排出された温室効果ガスによる気候変動はもはや回避できません。緩和策のみならず、適応に向けた取り組みの強化も急がれています ※1。
国際的な取り組み

気候変動に対する国際的な取り組みとして大きな動きは、「パリ協定」です。パリ協定は、1997年の京都議定書の後継として採択された、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みです。特徴的なのは、先進国だけでなく途上国を含めたすべての参加国が温室効果ガスの削減に努める、としたことです。京都議定書では途上国の削減義務はありませんでしたが、途上国も含めた枠組みにしたことで、実効性が増しました。パリ協定では、世界共通の2つの目標を掲げています。
- 産業革命以前と比べ、世界の平均気温の上昇を2℃より十分低く保ち、上昇を1.5℃に抑えるように努める
- 21世紀後半には、森林などによる吸収量のバランスを図ることで温室効果ガスの排出を実質ゼロにする
パリ協定では、目標達成のために、削減や抑制目標を義務ではなく努力目標とする代わりに、専門家から定期的に進捗状況のレビューを受けること、2023年から5年ごとに全体的な進捗を測る実施状況の確認を行うことが盛り込まれました※2。
その他の国際的な取り組みとしては、国連サミットで採択された2030年までの国際的な目標であるSDGsが挙げられます。気候変動に関してはSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」が設定されています。そして、具体的な達成目標として、適応策である災害に対する強靭性の強化、政策などへの気候変動対策の盛り込み、緩和策や適応策などに関する教育や啓発が定められています※3。
日本での取り組み

2021年4月、日本政府は2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減を目指すこと、さらには50%削減に挑戦すると表明しました。具体的な温室効果ガス排出量の削減目標と対策方法について、部門別に紹介します※4なお、以下の部門別の排出量削減目標は、二酸化炭素排出量を基準に対策・施策が立てられています。日本国内の温室効果ガス排出量の8割以上を占めるのはエネルギー起源二酸化炭素(エネルギーを消費、利用するために化石燃料を燃焼する際に発生する二酸化炭素)で、統計上、産業部門、業務その他部門、家庭部門、運輸部門及びエネルギー転換部門の5部門に分けることができることが、主な理由です。
産業部門
産業部門での2030年度の二酸化炭素排出量の目標は2.89億トン、削減率は38%(2013年度比)に設定されています。
[取り組み(一部抜粋)]
- 産業界での自主的取り組みの推進
- 省エネ性能の高い設備や機器の導入促進
- エネルギー管理の徹底
- 業種間での連携による省エネ取り組みの推進
- 中小企業の排出削減対策の推進
- 工場・事業場でのロールモデルの創出
業務その他部門
業務その他の部門は、2013年度の二酸化炭素排出量2.38億トンから、2030年度の排出量の目標1.16億トン、削減率51%を目指しています。達成するには大幅な削減が必要です。
[取り組み(一部抜粋)]
- 低炭素社会実行計画の実施と評価・検証
- 建築物の省エネ化
- 省エネ性能の高い設備や機器の導入促進
- エネルギー管理の徹底
- エネルギーの地産地消、面的利用の促進
家庭部門
家庭部門も大幅な削減が求められています。2013年度の二酸化炭素排出量2.08億トンから、2030年度の目標である0.70億トン、削減率66%の達成を目指しています。
[取り組み(一部抜粋)]
- 住宅の省エネ化
- LEDなどの省エネ性能の高い設備や機器の導入促進
- HEMS(住宅エネルギー管理システム)などによるエネルギー管理の徹底
運輸部門
2013年度には2.24億トンであった二酸化炭素排出量を2030年には1.46億トン、削減率35%を達成するために、さらなる取り組みが求められています。
[取り組み(一部抜粋)]
- 道路交通流対策
- 自動車運送事業等のグリーン化
- 公共交通機関や自転車の利用促進
- 鉄道や船舶・航空機の省エネ化
- 脱炭素物流の推進
エネルギー転換部門
エネルギー転換部門での削減目標は、2013年度の二酸化炭素排出量1.06億トンに対し、2030年度の目標は0.56億トン、目標削減率は47%です。
[取り組み(一部抜粋)]
- 再生可能エネルギーの最大限の導入
- 石油製品製造分野の省エネ
個人でできる取り組み
前段落での「家庭部門」の項目でもお伝えしたように、家庭部門でも排出削減を進めていく必要があります。地球温暖化による影響を最小限に抑えるには、私たちがそれぞれ気候変動対策につながる取り組みを行うことが重要です。
[取り組み例]
- 自宅の電力を、再生可能エネルギーに変える
- エアコンの冷房や暖房の温度を控えめに設定する
- マイバック持参で買い物をする
- 自動車を控えて公共交通機関や自転車で移動する
- 使わない部屋の電気を消す
まとめ
気候変動に対する取り組みとしては、「緩和策」と「適応策」という考え方があります。気候変動対策が待ったなしの状況の中、国際的にも日本国内でも、さまざまな取り組みが行われています。立場を問わず、あらゆる政府や企業、組織、個人が気候変動とその対策に意識を向けることが重要です。