ペイシェント「ペイシェントアドボカシー活動で、患者さんを中心においたケアを」北米の担当者へのインタビュー

協和キリンの2030年に向けたビジョンは、患者さん中心の医療である「ペイシェントセントリシティ」を基盤としている。そのため、従業員は自分の存在や判断が患者さんにどのような影響を与えうるかを常に考えるよう求められている。そうした中でペイシェントアドボカシー活動は、患者さんのコミュニティと関わり、患者さんの認識を直接知ることができる手段になっている。しかし、その概念は日本ではあまり知られていない。そこで、北米のペイシェントアドボカシーの具体例とその意義について担当者に聞いた。

プロフィール

Lauren Walrath, MBA
Kyowa Kirin North America(以下、KKNA)Vice President, Public Affairs

前職でフォーチュン200企業向けに、新製品とデジタルサービスの立ち上げを担当。その後、米国のヘルスケア関連企業数社で上級職としてバイオ医薬品の広報とアドボカシー活動に従事し、2019年より現職。

ペイシェントアドボカシー活動は、患者さんに直接つながる架け橋

画像:Lauren Walrath(KKNA)

–ペイシェントアドボカシー活動とは?

Laurenペイシェントアドボカシー活動は、患者さん、医師、政策立案者、製薬会社が活発に対話と連携を進めることで疾患を持つ人々への認識と理解を深め、治療の改善につなげる活動です。大きな考え方は共通していますが、国や地域によって捉え方は異なります。

ペイシェントアドボカシー活動が最初に定着した場所は、米国と欧州です。HIVの患者さんの疾患認知の向上、新しい治療法を開発するための十分な資金確保、差別を禁止する政策の策定支援、医療制度の強化を目指して強い覚悟で活動を行うなかで、関係者全体で協力し合うことが、状況を打開するカギになることが明らかになりました。治療の選択肢が増え、治療の質や成果を大幅に改善できたのです。

ペイシェントアドボカシー活動は、多くの場合、家族や小さな団体から始まりますが、資金を集め、組織として規模が大きくなるにつれて特定の活動の専門性を高めます。活動領域は、ある疾患に関する研究活動の強化や、疾患啓発プログラムの作成、診断された患者さんへのカウンセリングや後方支援など多岐にわたります。製薬会社は、さまざまな団体に敬意を持って関わり、財政的な支援もおこなっています。目標は、患者さんの支援や教育のニーズを満たすプログラムを始めたり継続させたりすること、包括的な研究と臨床試験を通じて患者さんの視点を反映した医薬品を市場に出すことです。

患者さんの経験から学ぶ

画像:Lauren Walrath(KKNA)

–北米でのペイシェントアドボカシー活動を、どのように促進、加速させていますか?

Lauren患者さんの良きパートナーであるためには、長い時間をかけて関係を築く必要があります。患者さんと所属団体の方の話を聞き、学び続け、誠実に寄り添う姿勢が大事だと、私たちは常に言っています。

製薬会社は常に科学的な発見を追求し、創薬研究と臨床試験を通じて患者さんに新薬を提供しようと努めてきました。過去10年間においては、製薬業界は規制当局や医療技術評価(HTA)の評価機関とともに創薬研究や臨床開発の初期段階から患者さんにとって何が最も有用であるかを聞き、理解する活動が必要であることを、これまで以上に認識するようになりました。

例えば、臨床試験に参加した患者さんからのフィードバックや報告結果は、データを見る医師、規制当局、政策立案者が、患者さんにとって最も重要なニーズを見極める助けになりますが、臨床試験の計画段階から患者さんの意見を取り入れることで治験の内容がより良いものとなり、結果的に治験実施計画書(当局に提出する申請資料)の修正の必要性が減ったり、患者さんが治験への参加を続けやすくなったりする可能性が高まります。ひいては、良い薬を患者さんの元に早く届けられるようになるかもしれません。

私たちKKNAは、ペイシェントアドボカシー活動に関する部門を2つのチームに分けています。1つは、私たちが販売している薬の治療領域に関連している組織との連携を進め、疾患に関する教育と、患者さんのケアの改善に取り組んでいます。もう1つは、当社の臨床開発チームと協力しながら、研究開発活動に重点を置いているペイシェントアドボカシー団体と連携し、患者さん中心の治験や新薬研究の実施を目指しています。

画像:患者さん中心の治験・新薬研究(イメージです)

この連携を深めるために、私たちはさまざまなペイシェントアドボカシー団体の目的と専門領域の理解に努めています。また、彼らとの対話と交流の機会を作り、患者さんのためになる団体の活動を前進させる上で私たちに何ができるかを判断したいと考えています。ほとんどのこうした団体は、リソースが限られている小規模な非営利団体なので、私たちは常に、団体の皆さんの時間を大切にし、関係者に敬意を持って接しています。彼らの最優先事項は、患者さんとその家族のために働くことだからです。私は、アドボカシーとは合致する協力方法を見つけることだと考えています。志を同じくする人たちとチームを組み、お互いに共通の目的を見つけると、アドボカシー活動はうまく機能します。アドボカシーとは、実際の患者さんのニーズについて声を上げることなのです。

アドボカシー団体との連携がうまくいけば、私たちはソーシャルメディアを通じたキャンペーンや投稿、イベントや、座談会を通じ、より多くの患者さんと交流します。調査や情報・データ共有でさらに協働を進めるべく、より多くの声とパートナーを集めることもあります。目指しているのは、患者さんのコミュニティに、より大きな価値を提供し、満たされていない患者さんのニーズに対応することです。

北米で広がる、ペイシェントアドボカシー活動

画像:Lauren Walrath(KKNA)

–ペイシェントアドボカシー活動の具体例を教えてください。

LaurenKKNAは、血液疾患/がん、およびパーキンソン病などの中枢神経系の疾患の医薬品を取り扱っています。また、免疫・アレルギー、希少・難治性疾患に関連する製品も取り扱っています。

血液疾患/がんでは、アフリカ系アメリカ人の皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)の患者さんの臨床試験への参加、診断、治療における不均衡を明らかにし、伝える取り組みを進めています。私たちは、治験担当医師や関係機関、協和キリンが医薬品の開発に関して助言を求めているCutaneous Lymphoma Foundation(皮膚リンパ腫財団)と連携することで、この課題について認識することができました。彼らの助けを借りながら、CTCLの患者さんを対象とした試験に偏りが出ないように、本当の意味でさまざまな属性の患者さんに参加してもらい、多様な患者群からデータを取得しました。しかし、この薬の販売開始後も、アフリカ系アメリカ人の患者さんは診断の遅れにより、予後が悪くなる傾向にあることが分かりました。この問題はもっと注目されるべきだと感じました。

まず私たちはソーシャルメディアを通じたキャンペーンを一緒に行いました。次に不均衡の原因を探る新しい研究を支援する助成金プログラムを開始し、コミュニティのアドボカシー活動を引っ張っている信頼のおけるリーダーたちを通じて、情報を共有しました。

2022年6月には「Black Family Cancer Awareness Week(黒人家族のがん啓発週間)」に合わせて、アドボカシー活動のパートナー団体や複数の情報提供者と共に、アフリカ系アメリカ人の不均衡に関するパネルディスカッションを開催しました。全米の医師とソーシャルワーカーが「患者さんのニーズを認識するための議論に刺激を受けた」とコメントを寄せてくださいました。また、社内のメディカル担当チームとマーケティングチームが、対象を絞った資料を作成したり、十分に医療が行き届いていないアフリカ系アメリカ人の患者集団のデータへの理解を深めることを目的としたシンポジウムを開催したりするきっかけにもなりました。

また、従業員がより患者さんの立場で考えられるように、世界希少・難治性疾患の日(RDD)の取り組みにも参加しました。(関連記事:今年もグローバルで多彩な取り組みを実施「RDD2022」北米編

この他に、長い期間をかけて患者さんの身体の動きや神経機能に影響が出る病気であるパーキンソン病の患者さんの「介護」に注目した取り組みの強化には唯一無二の可能性があると感じました。私たちは、パーキンソン病と運動障害同盟(PMDA) とデイビス・フィニー財団という2つの主要なアドボカシー団体と提携し、2020年には700名のケアパートナーを対象に、2022年には750名を対象に調査を実施しました。これらの調査結果は、その後PMDAとデイビス・フィニー財団が他の団体とともにパーキンソン病の患者さんのケアパートナーのための教育・支援プログラムの改善に取り組む中で、重要な役割を果たしています。

2022年は、アドボカシー活動の担当者、患者さん、ケアパートナーが一堂に会して話し合う機会を設け、調査で明らかになった問題点や難しさに関して患者さんをどのように支援できるかについて、意見を交わしました。私たちは、その議論から得た学びをアドボカシー団体と共同で白書にまとめ、公開しています。アドボカシー活動の担当者の話では、ケアパートナーの方は、どのような介護生活が待っているのかを最初から分かっているわけでは必ずしもないようです。他のケアパートナーからコツや体験談を共有してもらえれば、病気の経過と共に訪れる変化にも対応できるという自信につながるでしょう。

これらはほんの一例にすぎません。私たちは、問題を明らかにし、患者さんのニーズを満たし、より強力な支援制度を構築するため、アドボカシー団体に敬意を払いつつ協働する、さらなる機会を常に模索しています。

研究と政策立案の過程からペイシェントセントリシティを重視

–この先、ペイシェントアドボカシー活動はどのように進んでいくのでしょうか?

Lauren特にアクションが必要な分野が2つあります。1つ目は、研究・臨床開発との統合です。私たちは、すでに多くの疾患分野のアドボカシー団体と協力しながら、教育や、サービスの拡充また維持に努めています。しかし、患者さんの視点をもっとうまく取り入れて、研究開発時の意思決定や臨床開発に統合していく必要があります。私たちの新たなグローバルマネジメントシステムである「One Kyowa Kirin 2.0(OKK 2.0)」では、より患者さんを中心においた医療ニーズへの対応(ペイシェントセントリシティ)を基本としており、世界中のチームメンバーが、患者さん参加型の研究手法を検討し始めています。2つ目は、政策組織や提携団体との連携です。希少・難治性疾患やアトピー性皮膚炎などの新しい治療領域への拡大と並行して、政策機関や提携団体と連携しながら、患者さんにとって適切な医療政策を推進するための取り組みを強化する必要があります。

画像:協和キリンのすべての活動の原動力は、患者さんの笑顔(イメージです)

私たちは、北米と日本のグローバルなチームとして、幹部や他の従業員が各国の医療制度の違いを認識し、アドボカシー団体と協力してそれぞれの制度の中で患者さんを中心においた支援を提供するためにどのように事業を行っていくべきかを判断できるよう、社内での対話を進めています。私たちは「患者さんを助ける」という同じ使命を抱いていますが、国によりアドボカシー団体の数と規模が異なるので、取り組みを進める方法は全く異なることもあります。患者さんに関する規定も、地域によって異なります。ただし、共通して言えるのは、自分たちだけですべてを完結させることはできないということです。だからこそ、アドボカシー団体との協働が大きなカギになるのです。

日本の協和キリンの上級管理職は、困難な課題を克服し、目標達成に向けて長期的に取り組む「壁越え」という考え方を大切にしています。米国では、アフリカ系アメリカ人における不均衡のように、国の医療制度が長年抱える課題に原因がある問題もあります。こうした大きな問題に対しては、アドボカシー活動を通じて声を上げ、変化の必要性に注意を向けさせようとしています。私たちは、アドボカシー団体との協働を通じて、症状のある患者さんの暮らしを改善していきたいと強い決意を抱いています。

画像: Lauren Walrath(KKNA)

本記事で紹介した活動は、各国の関連法規に基づいて北米地域で行われたものです。協和キリンは、日本国内の関連法規に基づくペイシェントアドボカシー活動も実施しています。

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