社会との共有価値 NPO birthが目指す持続可能な未来を築くための道筋ーNPO法人がSDGsに取り組む理由とNPO法人のあり方とは

インタビュイー

特定非営利活動法人 NPO birth
事務局長 佐藤 留美 様

高度経済成長期以降、便利さを追求してきた日本では多くの自然が失われてきた。そんななか、20年以上も前に発足し、SDGs15番目「陸の豊かさも守ろう」の目標が掲げられる以前から都市の環境に課題を感じ、活動しているNPO法人がある。公園緑地の指定管理者として、高い評価を受けているNPO birthだ。創設メンバーのひとりであり、事務局長を務める佐藤留美さんに、彼女たちの取り組みと成果、理想のNPO法人の在り方、そして未来に向けた挑戦について伺った。

緑が失われることに危機感を感じ、自然との共存を模索

都市の小川にも飛来するカワセミ(雄)

―NPO birthの現在の活動内容を教えてください。

NPO birthは、「自然と共生できる社会」の実現を目標に、1997年に設立したNPO法人です。公園など身近な緑地を拠点にし、「①自然を守り・育てる」「②教育・遊びを子どもたちに提供する」「③健康とレクリエーションの場を提供する」「④文化・芸術を発信する」「⑤コミュニティに絆をつくる」「⑥まちへの経済効果に貢献する」「⑦都市の防災をサポートする」という7つの公園力(公園などの「みどり空間」がもつ力)を向上させ、自然とともに暮らす豊かなライフスタイルの実現を目指しています。現在は、18の都立公園と55の市立公園の指定管理事業を運営し、市民、自治体や企業と協働して緑地の保全や活用、環境教育を推進しています。

―創設の背景を教えてください。

当団体は、身近にある緑が姿を消していくことに危機感を感じ、なんとかしたいという強い想いをもった4人の同志で立ち上げました。私自身は仙台市出身で、東京農工大学に進学するために上京しました。そのとき、東京には緑がとても多く残されていることに感銘を受けました。とくに大学周辺のまちである府中市や国分寺市は、武蔵野台地と呼ばれる場所にあり、湧水の湧く崖線や江戸時代につくられた玉川上水の恩恵を受けて開かれた地域で、田畑や雑木林が広がっています。仙台は城下町で、まちなかに田畑はなかったため、とても驚きました。この地域では元々すすき野原だった場所に、水が引かれ、新田開発が進み、農家の建物を守るための防風林(屋敷林)がつくられ、鳥や虫が棲み着くなど、人が関わることでむしろ自然が豊かになっていたのです。武蔵野の地で「自然と人との関わり」に出会ったことで、このように自然と共存し、自然を豊かにするまちづくりができないかと考えるようになりました。

―実際にNPO法人を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

東京でも緑地がどんどん姿を消していく現状があることを知り、「身近な自然の価値」をテーマに卒業論文を書きました。身近にある自然には、貯水機能があったり、信仰やコミュニティが生まれたり、食べ物や生活必需品を得られる場所であったりと、経済的価値だけではない多面的な価値があります。また、自然は地域特有の風土や人間関係を生み出します。卒業後は、こういった「人と自然のつながり」を取り戻す活動をしたいと思いましたが、そういった仕事は見つからず、自然教育や里山保全に関するコンサルタント会社に入社しました。そして、その会社に出入りしていた市民団体に参加し、週末は田んぼを耕したり、雑木林の手入れ(伐採更新や下草刈り)をするボランティア活動を行っていました。その活動をきっかけに、ほかの創設メンバーと出会ったのです。ちょうどそのころ、1995年に起きた阪神淡路大震災をきっかけにNPOの存在が注目されていました。市民の力を引き出しより良い社会をつくっていくというNPOミッションに賛同し、「時代を切り拓く何かを生み出す」という意味を込めて、「birth」に「NPO」を冠して1997年に任意団体として当団体を設立しました。その後1998年にNPO法が成立し、本格的に活動し、社会にインパクトを与えていきたいと考え、法人格を取得しました。当団体の名称が『特定非営利活動(NPO)法人 NPO birth』と、NPOが2回出てくるのはそのためです。

SDGs15番目の目標「陸の豊かさも守ろう」達成に向けて

都立武蔵国分寺公園で実施された「Sunday Park Cafe」イベントの風景

―SDGs目標達成への取り組みはどのように始まりましたか?

持続可能な社会づくりについては、創設当初から私たちの目標でした。そこで、2000年に行政や財団の職員、また研究者などと一緒に「里山タスクグループ」というプロジェクトチームをつくりました。何百年も続いてきた日本の里山の仕組みを理解すれば、持続可能な社会を実現できると考えたのです。そして、このプロジェクトを通じて、里山が、地域の人たちによって守られ、ともに助け合いながら自然の恵みを共有してきた「入会地(いりあいち)」であることに気づきました。人間の活動により地球の資源を使い果たしてしまう現状を変えるためには、みんなで自然を共有する「入会地」つまりコモンズ的な意識をもつことが持続可能な社会には必要です。豊かな生態系があるからこそ、私たちはきれいな水や空気を享受できます。自然環境が社会の基盤となり、その上で健全な社会活動を育むことによって、初めて経済がまわるし活性化するのです。私たちは、この価値観をみんなで共有し、その価値観を社会に実装することこそが解決策であると考え、以降20年以上かけて、この仕組みをつくり実践してきました。

―具体的にどのような活動を通じて、どのような効果が得られましたか?

地方自治法改正にともない、指定管理制度が導入され、私たちNPOも2006年より都市公園の指定管理事業を手掛けることになりました。都市部における自然環境の保全には、大規模な公園緑地が大きな役割を果たしています。小さな公園でさえも、そこに緑を配すれば生き物たちの居場所になり、生態系のネットワークを形成できます。都市には公園のほか、樹林や農地などさまざまな緑地があります。それらが失われれば、都市から多くの緑がなくなり、環境が悪化しますし、人々の健康にも影響を与え、医療費の増大にもつながります。持続可能な社会をつくるためには、公園など緑地の可能性を最大限に引き出すことが必要なのです。その実現のために、当団体には3つのチームがあり、各専門スタッフが地域と連携して公園づくりを進めています。地域の自然や歴史を解説し、自然体験プログラムを実践する「パークレンジャー」、地域の方々の力を引き出し、パートナーシップでの公園づくりを進める「パークコーディネーター」、地域生態系を守り生物多様性を向上させる「エコロジカルマネージャー」などです。

地域の生態系保全に取り組む「自然環境マネジメントチーム」の活動の様子

私たちは公園を市民とともにつくり、育てることを大切にしています。「ちょっと植えていかれませんか?」と声をかけ、通りがかりに花の植え付けができる「ちょいボラ」は、手ぶらで参加できるので大変好評です。なによりも、地域の人の手で植えてもらうことで「自分たちの場所」と思ってもらえます。そのような気軽なボランティアから雑木林の伐採、丸太や竹材の活用など、さまざまなレベルで市民が公園づくりに参加できるきっかけをつくっています。

通りがかりに花を植えることができる「ちょいボラ」に参加する地域の方々

また市民が公園に「あったら良いな!」と思うことを、一緒に企画し、実現していくプロジェクトも大人気です。地域のアーティストが企画する森の美術展やクラフト市、子育て世代による音楽フェスなど、さまざまな「あったら良いな」を実現しています。公園を市民に使いこなしてもらうため、市民のチャレンジを私たちが応援し、一緒に形にしているのです。

また地域の事業者やローカルメディアとのつながりも重要です。イベントに使用するレジャーシートやのぼり、チラシなどのデザインはローカルデザイナーの方にお願いしています。地域に住み、地域への思い入れがある方にお願いすることで地域愛に溢れた素敵な作品になって地域の方の心に届くのです。

子どもから高齢者まで、公園の緑を感じながらバランスボール体験

これらの活動の結果、公園緑地の自然環境がより良くなり、来園者が増えるだけでなく、周辺の人口や店舗なども増え、「公園が地域を変えていく」現象を目の当たりにしています。全国には約10万の公園が存在します。SDGs17番目の「パートナーシップで目標を達成しよう」を念頭に置き、これらの公園一つひとつで同様の活動を展開すれば、SDGs15番目の「陸の豊かさも守ろう」達成に貢献することはもちろん、持続可能なまちづくりが実現し、地球環境をより良くする大きなムーブメントになっていくと考えています。

NPO birthが考える理想のNPO法人の在り方とは?

ミッションを同じくする仲間たち(2023年入社式の集合写真)

―理想的なNPO法人はどうあるべきだと思われますか?

NPO birthの設立当初、日本にはまだNPOの具体的なモデルがなかったので、私たちは補助金や助成金を活用し、NPOインターンシッププログラムという制度を通じて、アメリカに行きました。アメリカの西海岸には数多くのNPOが存在し、そこでは有給のプロフェッショナルな職員が活躍していました。日本と違い、NPOは自己実現できる人気の高い職業なのです。そこでの経験は目からウロコの連続でした。アメリカでは、NPOは地域の方々の思いを形にしていくための「中間支援組織」としての位置づけです。サステナブルな社会を実現するために、人財や資金を集め、自治体に市民の声を届け、施策を提案するパートナー的な組織として機能していたのです。日本でもNPOはそうあるべきだと思います。社会は一人ひとりの人の力で成り立っています。NPOは、この一人ひとりの想いと力を引き出し、行政や企業に働きかけ、官民連携でまちづくりを進める「エンジン」の役割を担う意識をもって活動することが大切だと思います。

―今後の目標と、NPO birthに興味がある若い人たちに向けてメッセージをお願いします。

私たちが取り組んでいる活動が、モデルとして広がっていくよう、私たちは常に先進的な情報を得て、未来予測をし、活動を展開しています。NPOという働き方やまちづくりに興味関心ある若者が増えてきたという実感がありますが、どこでどのようにしたら働けるのかわからない方も多いのです。そこでNPOとしてのブランディングやPR、また「みどりのまちづくり」を実践できる人材育成に力を入れていこうと考えています。当団体には、約60名のスタッフが有給で働いています。常勤職員の平均年齢は30歳前半で、若い世代が「birthで働きたい!」と積極的にチャレンジしてくれ、その熱意には感銘を受けます。

パークコーディネーターとして働く中倉美奈子さん

私たちの活動に関心がある、またこのような仕事に従事したい、という方は、ぜひご連絡ください。人も、自然も、まちも元気になる、そんな「みどりのまちづくり」をともに実現していきましょう!

まとめ

市民一人ひとりが主役となる「みどりのまちづくり」を実現するために、中間支援的な役割を果たすNPO法人。NPO birthは、その理想の形を追求し、社会実装しながら、その探求を続けている。とくに若い世代への期待は大きく、NPO birthの挑戦が、SDGs目標達成に向けて新しい風を吹き込むことは間違いないだろう。

特定非営利活動法人 NPO birth

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