People & Culture 【解説記事】世界の医療格差問題とは?SDGs3つ目の目標にも関係する取り組みを紹介

医療格差とは、医療機関を受診する機会、医療の量や質など、医療サービスを受ける人が直面するあらゆる格差のことを指す。WHO(世界保健機関)が2017年発表したデータによると、世界人口の約半数が基礎的保健サービスを受けられていないことがわかる。

また、医療格差はSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )の目標3「すべての人に健康と福祉を」にも関係する課題だ。

この記事では、医療格差問題の世界の現状と原因、解決策について解説していく。

出典:世界銀行とWHO:世界の人口の半数が基礎的保健医療サービスを利用できず、1億人が医療費が原因で極度の貧困状態に|THE WORLD BANK別ウィンドウで開きます

世界の医療格差問題

医療格差は、発展途上国ばかりに見られる問題ではない。発展途上国、先進国、ともに医療格差が起きている。ここでは世界の現状を、発展途上国と先進国のケースに分けて見ていこう。

発展途上国は医療格差が顕著にみられる

2013年にワールド・ビジョンが発表した「保健医療格差ランキング」によると、保健医療格差の大きいワースト10には、サブ・サハラ地域のアフリカ諸国が7カ国も含まれることがわかった。一方で、格差の少ない国トップ10のうち9カ国がヨーロッパ諸国だ。

出典:世界の「保健医療格差ランキング」発表|World Vision別ウィンドウで開きます

データからもわかるように、医療格差は先進国と発展途上国との間で顕著だ。十分に医療サービスが行き届いていない国や地域のほとんどが発展途上国にあたる。

発展途上国で起こる医療格差によって特に問題となっているのが、感染症蔓延、妊産婦の死亡率の高さ、子どもの死亡率の高さだ。それぞれの実態を解説していく。

感染症の蔓延

全世界において、エイズは10~19歳の子どもで2番目に多い死因となっているほか、アフリカに至っては主な死因となっている。エイズ以外にも、マラリア、赤痢、結核などの感染率も発展途上国では顕著だ。

医療格差で多くの人が予防接種を受けられないために、感染症などが蔓延しやすい環境となっている。

妊産婦の死亡率が高い

妊産婦の死亡数は、発展途上国を含め2000年からすると徐々に減少してきてはいるものの、未だ十分な医療を受けられない人もいる。開発途上国の妊産婦の死亡率は、先進国の14倍にも上るのが現状だ。

原因として、先進国では当たり前のように受けられる医師立ち合いによる出産や産後ケアが十分でないことなどが挙げられる。推奨される医療を受けられている妊産婦は、発展途上国においては約半数に過ぎない。

子どもの死亡率が高い

世界では毎年500万人超の子どもが5歳未満で死亡している。このうち、約8割を占めるのが医療格差の激しいサハラ以南のアフリカと南アジアだ。死因を見ると、肺炎、下痢性疾患、マラリアが多い。

生後28日以内の新生児の死亡率の高さも発展途上国では顕著だ。5歳未満で死亡する子どものうち約半数は新生児だとされている。これも妊産婦の死亡率と関係するが、適切な産後ケアが受けられないことなどが原因だ。

出典:目標 3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する |国連連合広報センターpdfが開きます

出典:ユニセフの主な活動分野|保健|unicef別ウィンドウで開きます

先進国でも医療格差が深刻化している

先進国においても日本のように公的皆保険制度を取り入れている国とそうでない国がある。公的皆保険制度のない国のうち、医療格差が深刻といわれているのが米国だ。

米国には、公的医療保険として65歳以上や障害年金受給者などを対象にした「メディケア」、子どもがいるなど一定の要件を満たす低所得者を対象にした「メディケイド」がある。しかし、公的医療保険の範囲は限定的だ。

そのほかの人は会社の民間保険に入るか、自分で民間保険に入らなければ、高額な医療負担が待っている。負担の割合や範囲は加入する保険によって異なるため医療格差も起きやすい。経済的問題で民間の医療保険にすら加入できない人もいる。

日本のような公的皆保険制度のある国も例外ではない。公的皆保険制度があるものの、あらゆるレベルで医療格差が存在している。日本でも、貧困層の子どもは非貧困層より1.3倍も入院するリスクが高いなど、社会経済階層による格差が見られることがわかった。

理由としては、貧困層では栄養バランスなどの環境の影響があること、親が忙しく子どもの変化に気づけないまま体調が悪化しやすいことなどが挙げられる。

出典:「子どもの健康格差は存在するか:厚労省 21 世紀出生児パネル調査を使った分析」|国立社会保障・人口問題研究所pdfが開きます

UHCに基づいた医療格差を引き起こす原因と取り組み

世界のさまざまな国で起きている医療格差の解決策として、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」の中でも、UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の達成が掲げられている。

UHCとは、すべての人が適切な健康サービスを負担可能な費用で受けられることをいう。ここでは医療格差の原因とUHCに基づいた解決策を紹介する。

物理的アクセスの改善

UHC実現のためにはまず、医療を受けられる環境があること、つまり物理的アクセスの整備が求められる。物理的アクセスの改善において課題として挙げられるのが以下の3つだ。

①医療施設が近場にない

誰もが必要な医療を受けられるようにするには、いつでも受診できるような場所に医療施設があることが求められる。例えば、病院の少ない農村部などの場合、医療機関の整備が課題に挙げられる。

②必要な医薬品、医療器材がない

医療機関が近くにあっても、必要な医薬品や医療器材がないと多くの人は適切な医療を受けられないままとなってしまう。医薬品や医療器材が必要に応じて提供されることも重要だ。

③医師や看護師がいない

特にサハラ以南のアフリカでは、人口に対しての医師や看護師の数が少ないことが指摘されている。誰もが適切な医療サービスを受けられるようにするには、医療従事者の育成に力を入れ、十分な数を確保できるようにしていくことが必要だ。

経済的アクセスの改善

UHC達成には経済的アクセスの改善も欠かせない。経済的アクセスとは、自己の負担できる範囲で適切な医療を受けるための医療へのアクセスのことだ。改善のための課題として次の3つが挙げられる。

①医療費の自己負担が高い

医療費の自己負担が高額だと、必要なときに必要な医療を受けられなくなってしまう。皆保険制度などさまざまな仕組みがあるが、その仕組みを継続し、いかに高額な自己負担なく医療を受けられるようにするかが多くの国における課題だ。

②交通費が高い

物理的アクセスにも関連するが、近くに適切な医療を受けられる施設がない場合、都市部の医療施設まで移動が必要になる。受診のための交通手段と交通費が必要になること、その交通費が高いことも改善が求められる課題だ。

③病気に伴い収入が減る

病気により仕事ができない状態が続くと収入が減り、治療の継続も難しくなってしまう。治療が十分でないと回復に時間がかかり、仕事に復帰するのも困難になるという悪循環に陥りやすい。

病気を患った本人だけでなく、看病する家族にも影響が生じることも問題だ。病気による経済的困窮をいかに防止し、適切な医療を継続できるかも課題として挙げられる。

社会慣習的アクセスの改善

UHC達成のためには、社会習慣的アクセスの改善も求められる。主な課題として挙げられるのが次の3つだ。

①サービスの重要性、必要性を知らない

医療格差と教育格差には深いつながりがある。適切な教育を受けていないと、健康維持のための生活習慣や食事、病気の予防についてわからないままとなってしまうためだ。

健康についての知識が乏しいと、必要に応じた医療が受けられない。結果として重症化してしまうおそれもある。誰もが医療に関する教育にアクセスできるようにすること、医療の必要性を理解してもらうことも課題だ。

②家族の許可が得られない

高額な治療費の支払いなどを理由に、家族が医療サービスを受けることを拒否するケースもある。家族の許可が得られない人もいることも社会習慣的アクセスの改善における課題だ。改善のためには、家族から理解を得られるよう医療の重要性を広く認知させていく必要がある。

③言葉が通じない

言語が異なる国や地域などでは、言葉が通じないことで医療を受けない選択をする人も多い。特に、言葉の壁が顕著な地域では、誰もが自分の話す言語で医師に診察してもらえるような環境を整備することが求められる。

まとめ

医療格差は医療サービスを受ける人の間で存在するあらゆる格差で、発展途上国だけでなく先進国においても存在する。SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」とも関連深い問題だ。

SDGsの目標3の中に、誰もが負担可能な費用で適切な医療サービスを受けられるようにするUHCの目標達成があるが、まだまだ課題も多い。日本でも起きている医療格差をなくしていくためには、私たち一人ひとりが関心を寄せることも大切だ。

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