ペイシェント 【解説記事】国内の健康格差とは?健康格差の問題点

健康格差とは、経済状態や職種など社会的な環境の差によって、健康状態に影響が出てしまう問題のことだ。例えば、地域の平均所得が100万円増加すると無歯顎(歯が0本)は減少するとの報告がある。

今回は、近年是正の必要性が取り沙汰されている健康格差について、影響・要因・国の取り組み状況など基本的なポイントを解説する。

健康格差とその影響とは?

健康格差とは、地域や社会経済状況の違いによって生じる健康状態の差のことだ。

私たちの健康状態は、日頃の生活習慣や体質によって左右されるだけでなく、社会的地位や経済状況など各人が置かれている環境からも影響を受けている。

例えば、収入や雇用が安定しない人の方が、安定した生活を送れている人よりも、ストレスが多くなり心や体の健康が悪化しやすくなるだろう。

また同じ年代・性別であっても、所得が低いほど、健康維持に十分な費用を回せなくなるなどの理由で、良好な健康状態を保ちにくくなる傾向にあるといえる。

実際に、所得や学歴・職種・雇用形態などによって、健康状態に格差が生じているといった研究結果が報告されていることからも、健康格差の影響の大きさが伺えるだろう。

そのため、厚生労働省が推進する「健康日本21」においても、健康格差の是正が必要であることが明記されている。

一 健康寿命の延伸と健康格差の縮小

我が国における高齢化の進展及び疾病構造の変化を踏まえ、生活習慣病の予防、社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上等により、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間をいう。以下同じ。)の延伸を実現する。

また、あらゆる世代の健やかな暮らしを支える良好な社会環境を構築することにより、健康格差(地域や社会経済状況の違いによる集団間の健康状態の差をいう。以下同じ。)の縮小を実現する。

引用:健康日本21(第二次)|厚生労働省別ウィンドウで開きます

健康格差の問題点は?

健康格差が問題視されるのは、「健康日本21」で提唱されている健康寿命を延ばすことの妨げとなるからだ。人生100年時代において、介護や医療が不要な状態で健康に暮らせる健康寿命が短いと生活の質の低下や社会保障費の増大につながる。

健康格差が是正されないことによって、以下のような事象が起こる。

  • 低所得の高齢者は、高所得層に比べて死亡率や認知症の認定率が高くなる
  • 所得が低いほど野菜の摂取量が低下し、さまざまな疾病のリスクが上がる
  • 低学歴の人の割合が多い地域は、死亡率と自殺率が高い傾向にある

このような健康格差を是正することが国の目標となっている。

健康格差が生まれる要因とは?

健康格差が生まれる代表的な要因は、以下の3つだ。

  • 社会的格差
  • 労働による格差
  • 家族構成や地域環境による格差

なお、以上3つの格差が主な健康格差の要因だが、各人の状況に応じて、ほかにもさまざまな要因によって格差が生じることを念頭に置いておこう。

社会的格差

社会的格差とは、所得の高低といった経済状態や、学歴の有無といった教育環境の違いなどのことだ。

例えば、低学歴の場合には、全死亡率、自殺死亡率が高くなる傾向にあることが、日本学術会議基礎医学委員会などによって報告されている。また、貧困層や生活保護世帯が増加している中で、低所得者層における健康問題が問題視されているようだ。

社会的格差が健康格差に結びつく理由としては、受診率など医療へのアクセスに問題があることが考えられる。一方で、国内における健康の社会格差に関する研究はまだ不十分なため、今後一層の研究が必要だ。

出典:わが国の健康の社会格差の現状理解とその改善に向けて|日本学術会議pdfが開きます

労働による格差

労働による格差とは、職種や、非正規雇用・正規雇用といった雇用形態などの違いにより生じる格差のことだ。このような格差も健康格差の要因のひとつとして挙げられる。

例えば、機械操作や単純労働などの職種は、管理職・専門職などに比べると、疾病による休業や仕事によるストレスなどが多い傾向にあるという調査結果が報告されている。

また、非正規雇用の場合は、正規雇用よりも所得が低い場合や長期間労働の占める割合が多く、雇用も安定しない。このことから、ストレスを抱えたり疾患になりやすかったりする傾向にある。

以上のとおり、労働による格差があると、仕事によるストレスや労働による身体への影響など、疾病の危険因子が多くなることを覚えておこう。

家庭環境や地域環境による格差

家庭環境や地域環境などの格差も、健康格差の要因のひとつだ。実際に、低所得家庭や経済状況の悪い地域で育った子どもの健康への影響も確認されている。

具体的には、家庭や地域の環境と健康格差の関係性について、以下のような報告がある。

  • 所得の低い地域では、喫煙などの不健康な生活習慣が身に付きやすい傾向にある
  • 貧困家庭で育った子どもは、学歴も低くなり、社会的格差も生まれてしまう
  • 家庭の経済状態が悪いと、十分な食事を摂れない状況になりがちである

上記のとおり、家庭環境や地域環境などは、生活習慣や食生活・将来的な労働環境などに影響を及ぼすことがわかる。

健康格差に関する取り組みとは?

健康格差の改善に向けて、国ではさまざまな取り組みを行っている。ここでは、代表的な以下のふたつについて確認しておこう。

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健康日本21
  • 厚生労働省が実施する、国民と社会が一体となった健康づくりの施策
  • 健康寿命を延ばすことや生活の質を高めることを目標としている
スマート・ライフ・プロジェクト
  • 健康寿命を延ばすことを目標に、厚生労働省や自治体、企業などが連携してさまざまな取り組みを実施している

健康日本21で提言されている目標

健康日本21とは、平成12年から継続して厚生労働省が実施している、一次予防を重視した取り組みのことだ。現在は、平成25年から取り組みが始まった健康日本21(第2次)が進行中である。健康日本21(第2次)では、健康増進法第7条を踏まえて、以下の5つの目標を掲げている。

健康日本21(第2次)の掲げる5つの目標

  1. 健康寿命の延伸と健康格差の縮小
  2. 生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(NCD(非感染性疾患)の予防)
  3. 社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上
  4. 健康を支え、守るための社会環境の整備
  5. 栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙、歯・口腔の健康に関する生活習慣の改善及び社会環境の改善

引用:健康づくり施策の動向|厚生労働省pdfが開きます

上記の目標について、取り組みによって目標達成できたものもある一方、これから改善すべき項目もあるのが実情だ。

例えば、健康寿命の延伸については、平成22年の時点で定めた目標値である「男性70.42年、女性73.62年」を平成28年時点で達成し、「男性72.14年、女性74.79年」となっている。

また、健康寿命の都道府県差の縮小について、平成22年の時点で定めた目標値は、「男性2.79年、女性2.95年」以下だった。平成28年時点で目標を上回り、「男性2.00年、女性2.70年」まで縮小できている。

一方で、メタボリックシンドローム該当者・予備群の数については、平成20年時点の約1,400万人から25パーセント減らすことを目標に、取り組んでいた。しかし、平成27年時点でのメタボリックシンドローム該当者・予備群の数は約1,412万人と、かえって増加する結果になっている。

特に、生活習慣病の発症予防と重症化予防については達成度が低い状況にあり、今後さらなる取り組みが必要といえるだろう。

スマート・ライフ・プロジェクトの実施

スマート・ライフ・プロジェクトとは、健康寿命を延ばすことを目標に、厚生労働省や自治体・企業などが連携して、さまざまな取り組みを実施するプロジェクトだ。

国民が健やかで心豊かに生活するために、特定健診などを推進し、疾病予防や早期発見につなげ、国民の健康寿命の延伸と健康格差の縮小を図っている。

社会全体で取り組めるように、以下の取り組みを実施している。

  • 企業や自治体などに参画を呼び掛け
  • 大臣表彰「健康寿命をのばそう!アワード」を実施
  • 「健康寿命をのばそう!サロン」で交流や参考になる事例の共有

なお、このプロジェクトでは、「適度な運動」「適切な食生活」「禁煙」「健診・検診の受診」の4つをテーマに、健康づくりを推進している。

まとめ

健康格差とは、置かれている社会的な環境の格差によって、健康に悪影響が及んでしまう問題だ。健康寿命を延ばすうえで、その解決は欠かせない。国も複数の取り組みを実施しているが、すべての要因に対応できているとはいえない状況だ。私たちも、個人レベルで生活習慣病をはじめとした身近な健康課題へ意識を向けることが大切である。

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