ペイシェント 【解説記事】健康格差とは

健康格差とは社会経済状況や住んでいる地域の違いによって生じる、健康状態の差のことです。今回は、健康格差の要因や解決に向けた取り組みをお伝えします。
健康格差とは?

私たちの健康状態は、日頃の生活習慣や体質によって左右されるだけでなく、社会的地位や経済状況など、置かれている環境からも影響を受けています。こうした環境の違いによって生じる健康状態の格差が、健康格差です。例えば、収入や雇用が安定しない人は、安定した生活を送れている人よりもストレスが多く、心身の健康が悪化しやすくなります。また同じ年代・性別であっても、所得が低いほど健康維持に費用を回せなくなるなどの理由で、良好な健康状態を保ちにくくなる傾向にあります。
健康格差が生まれる要因

健康格差が生まれる代表的な要因は社会的格差、労働による格差、家族構成や地域環境による格差の3つです。
社会的格差
社会的格差とは、経済状態や学歴の違いなどのことです。例えば、低学歴の場合には全死亡率、自殺死亡率が高くなる傾向にあることが、日本学術会議基礎医学委員会などによって報告されています※1。社会的格差が健康格差に結びつく理由としては、医療機関の受診率などの医療アクセスに問題があることが考えられます。
- ※1日本学術会議『わが国の健康の社会格差の現状理解とその改善に向けて
』
労働による格差
労働による格差とは、職種や雇用形態などの違いにより生じる格差のことです。このような格差も健康格差の要因のひとつになります。非正規雇用の場合は、正規雇用よりも所得が低い場合や長時間労働になる割合が多く、雇用も安定しません。その結果ストレスを抱え、病気になりやすい傾向にあります。また、会社の費用負担による健康診断を受けられないケースが多いので、病気の発見が遅れてしまうリスクもあります。
家庭環境や地域環境による格差
家庭環境や地域環境などの格差も、健康格差の要因のひとつです。実際、日本の人口動態統計調査の分析結果では、2000年以降に地域間の子どもの健康格差が拡大している可能性があると指摘されています※2。また、貧困家庭では食事の栄養価が低くなりやすく、それが子どもの健康や成長に悪影響をおよぼしています。
- ※2Japan Pediatric Society「Japan's 115-year trend of inter-prefectural disparities in under-five mortality
」
健康格差に関する取り組み(世界)

世界保健機関(WHO)は、健康格差を縮小する社会環境の整備を提言し、医療従事者・関係団体に格差の是正を意識しながら診療・支援を行うことを推奨しています。そのための具体的な施策として、生活環境の改善、不公正な資源分配の是正と組織連携、健康格差の測定などを提案しています※3。また、2023年には「健康格差データリポジトリ : Health Inequality Data Repository (HIDR)」を立ち上げ、教育レベルから民族性まで、集団の特徴に応じてデータを分析することで、集団間の健康格差を追跡できるようにしました。HIDRを活用することで健集状態が思わしくない集団を見つけ、効果的な取り組みを進めることができます※4。
- ※3World Health Organization「Closing the gap in a generation: health equity through action on the social determinants of health - Final report of the commission on social determinants of health
」
- ※4WHO最新ニュース「WHO、世界規模の健康格差データ集を公開
」
健康格差に関する取り組み(日本)

健康格差の改善に向けて、日本でもさまざまな取り組みが実施されています。代表的な施策を2つ、ご紹介します。
健康日本21
「健康日本21」は、2000年から厚生労働省が実施している、生活習慣を改善して健康を増進し、生活習慣病の発症を予防する「一次予防」を重視した取り組みです。現在は、2024年から取り組みが始まった「健康日本21(第3次)」が進行中で、健康格差の縮小や生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底などを目標に掲げています※5。これまでの取り組みで、健康寿命の延伸や都道府県差の縮小などの目標値は達成できましたが、メタボリックシンドローム該当者・予備群の数は目標より増加しており、今後さらなる取り組みが必要です。
- ※5厚生労働省「健康日本21(第三次)
」
スマート・ライフ・プロジェクト
「スマート・ライフ・プロジェクト」は、健康寿命を延ばすことを目標に、厚生労働省や自治体・企業などが連携して、さまざまな取り組みを実施するプロジェクトです。国民が健やかで心豊かに生活するために、特定健診などを推進し、疾病予防や早期発見につなげ、国民の健康寿命の延伸と健康格差の縮小を図っています。
まとめ
社会的な環境の差によって生じる健康格差をめぐる問題の解決に向け、世界各国、そして日本でさまざまな取り組みが実施され、成果が表れています。しかし格差解消までの道のりは、まだ長いです※6。格差解消に向けて、一層の取り組みが必要とされています。
- ※6World Health Organization「WHO releases the largest global collection of health inequality data
」
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