People & Culture 「子どもたちに科学の楽しさを!」―東工大ScienceTechnoの取り組みとは?

SDGs(持続可能な開発目標)は、4番目に「質の高い教育をみんなに」という目標を掲げている。現在、世界には十分な教育を受けられない子どもたちが6,000万人以上もいるといわれている。このような背景を考えれば、日本の教育環境は恵まれているといえるかもしれない。しかし、その一方で「子どものころに学校教育だけではないさまざまなことを教えてもらうチャンスがあれば、違う未来が広がっていたかもしれない」と感じる大人も少なからずいるのではないだろうか。

今回は、小学生に対して科学の楽しさを伝える活動を積極的に行っている大学サークル、「東工大ScienceTechno(サイエンステクノ)」の中心メンバーであるおふたりに、活動内容や目的、今後の目標について詳しく伺った。

インタビュイー

生命理工学院 生命理工学系 加藤健太さん(3回生)
東工大ScienceTechno 副代表

理学院 化学系 榎本匠馬さん(3回生)
東工大ScienceTechno 総務部部長

20年以上活動を続ける歴史のあるサークル

――「東工大ScienceTechno」は、どのようなサークルですか?

加藤さん:小学生を対象に工作や科学の楽しさを伝えることを目的に活動している東京工業大学の公認サークルで、通称「サイテク」と呼んでいます。設立は2001年で、当時東京工業大学の教授でいらっしゃった市村禎二郎先生が、日本未来科学館から依頼を受け、講義中にプレイベントのスタッフを募ったことをきっかけに結成されました。当初は、日本未来科学館でのボランティア活動が中心でしたが、徐々に自分たちでイベントを企画・運営するようになりました。現在は、約80人のメンバーが在籍しています。

――おふたりがサークルに入ったきっかけを教えてください。

榎本さん:私は、科学のことも、子どものことも大好きで、高校生のころから科学で子どもたちを笑顔にしたいという気持ちがありました。大学に入学して、チラシやポスターなどでサイテクの活動を知り、まさに自分がやりたいこととマッチしていると思い、入部することに決めました。

加藤さん:私も科学が大好きで、子どものころは、科学館のイベントに行きたくて仕方なかったですし、参加したイベントは、とても楽しかった思い出があります。大人になった今、今度は自分が今の子どもたちに科学の楽しさを伝えることができたらと思い、入部しました。

32個の工作を用意し、依頼に応じてイベントを開催

――具体的なサークルの活動内容を教えてください。

加藤さん:小学校や科学館、公民館などからの依頼に応じて、主に小学生を対象とした工作教室や科学実験ショーなどのイベントを月に3〜4回程度開催しています。工作教室は、「教室形式」と「カフェ形式」のふたつのスタイルを用意しています。「教室形式」は、20名程度の子どもたちを対象に、講師がスライドをもちいて説明し、数名のスタッフが子どもたちを補助しながら工作を進めていきます。

「カフェ形式」は、ひとりのスタッフが1〜3人の子どもたちを担当します。工作は、現在32種類用意していて、学べる内容によって「音」「光」「電磁気」「工学」「力学」「数学」の6つのカテゴリーに分類しています。それぞれの教室の具体的な費用や所要時間、内容などは、カタログにまとめて公式ホームページで公開しており、依頼を希望される方は、その中から好きなものを選んでお申し込みいただく形になっています。

また、部員同士でグループを組み、定期的に新しい工作や実験ショーの面白いアイデアを出し合い、半年に1度の発表会で披露しています。良いアイデアはカタログに追加し、随時更新するようにしています。

――活動を行う上で、特に心がけていることは何でしょうか。

榎本さん:私たちのイベントには、いろんなタイプの子どもたちが参加します。話好きの子、黙々と作業に取り組む子、スピーディに進める子、ゆっくり丁寧に作業する子など一人ひとり全然違った取り組み方をするんです。だからこそ、それぞれの子どもが楽しめるよう、臨機応変な対応が欠かせません。多くの子どもたちと接するなかで、自分もレベルアップしていきたいと思っています。

加藤さん:私たちが分かっていることでも、子どもたちには難しいと感じることもあります。なので、どのようにしたら分かりやすく伝えることができるのかは、つねに考えています。これは、子どもだけではなく、誰とコミュニケーションをとる際にも大切なことだと思います。サークル活動を通して、相手に合わせて分かりやすく伝えるスキルがさらに身につけられるよう、これからも取り組みたいです。

大学の学園祭では350名が参加し、大反響!

――つい最近、「すずかけサイエンスデイ」(※)に参加されたと伺いました。

加藤さん:はい、工作教室を開催しました。普段の活動では、依頼に応じて指定された工作教室を行うのですが、すずかけサイエンスデイは、自分たちが主催者なので、工作の内容を自由に選ぶことができます。今回は、私が責任者となり、主要メンバー6人と話し合ってカフェ形式の工作教室にしました。

教室形式よりも、たくさんの子どもたちに工作を体験してもらえ、ほぼマンツーマンで接することができるからです。工作の内容は、「光」のカテゴリーから「カメラオブスキュラ」と「ブラックウォールボックス」のふたつを選びました。「カメラオブスキュラ」は、レンズとスクリーンを使って箱の中に像を映し出し、昔のカメラの仕組みを学ぶ工作です。「ブラックウォールボックス」は、偏光シートを使って、本来何もないはずの箱に黒い壁を出現させる工作で、光の性質について考えることができます。

「ブラックウォールボックス」
「カメラオブスキュラ」
  • すずかけサイエンスデイ:東京工業大学のすずかけ台キャンパスで開催する学園祭。大学で行われている最先端の研究を一般向けに紹介することを目的に、さまざまなイベントが開催される。2023年は、コロナ禍の影響を受けて4年ぶりの開催となった。

――工作教室に参加された方から、どのような反響がありましたか?

加藤さん:反響はとても良かったです。事前にホームページで告知したり、近隣の小学校や学習教室にチラシを配布したりしたこともあり、約350名もの方々が参加してくださいました。子どもたちから「楽しかった」「またやりたい」という声がとても多く、嬉しかったです。保護者の方々からも、ただ工作を楽しむだけではなくて、どうしてそうなるのか、原理も理解できたので良かったという感想をいただきました。

科学を、子どもたちの将来の選択肢のひとつに

――サイテクのイベントに参加した子どもたちに期待することは?

榎本さん:科学は日常のいたるところに関係しています。科学を学ぶことで、身の回りの不思議な現象を説明できたり、関連づけたりすることができます。たとえば、今回のすずかけサイエンスデイで取り上げた偏光シートは、サングラスやスマートフォンにも使われているんです。子どもたちが、工作を通じて体験したことが日常生活にどのように活かされているのかを知ることで、科学の面白さを発見してもらえたら嬉しいですね。

加藤さん:科学の原理までを完全に理解することは難しくても、科学的な視点をもつことで、「世界がちょっと豊かに見えるようになる」。そのような気づきのきっかけとなると嬉しいなと思います。

――最後に、今後の目標を教えてください。

加藤さん:私たちの工作教室は、今までは光や電気などの工学系の題材が中心でした。最近、肺の下にある横隔膜の動きを風船で再現する「はいプレッシャー」という工作をカタログに追加したのですが、これは初めて身体に関することを題材にした工作です。子どもたちにも、より身近に感じてもらえると思うので、今後も、もっと幅広い分野にわたる科学の実験や工作を考えていきたいと思います。

榎本さん:科学の面白さを伝える手段も、たくさんあると思います。現在は、教室形式やカフェ形式で工作を教える機会が多いですが、実験ショーや作品展示のイベントも積極的に行っていきたいです。子どもの期間は、スポンジのようにいろんなことをすばやく・たくさん吸収できる時期だと思うので、その時期に科学に触れることで、将来役に立つ場面があれば嬉しいなと思います。

加藤さん:科学を知らないまま大人になるのは、個人的にはもったいないと思うのです。科学を知ることで、日常にある不思議に気づきやすくなり、世界が鮮やかに変わると思います。私たちの活動を通して、子どもたちが科学を好きになってくれたら嬉しいですが、そうならなくても、運動や読書と同じように、科学という選択肢を身近に感じられる機会となったら嬉しいですね。

まとめ

2001年の設立以来、東工大ScienceTechno(サイエンステクノ)は、小学生に科学の楽しさを伝え続けてきた。彼らの活動を通じて、「科学の楽しさ」を見出し、未来の選択肢が広がった子どもたちはたくさんいるはず。子どもたちの未来のため、想いを持ち続け、真剣に活動を続ける彼らの行動が、SDGs4番目のゴール「質の高い教育をみんなに」を実現する上で、重要な一翼を担っているといっても過言ではない。

東工大ScienceTechno(サイエンステクノ)

詳しい活動はこちらから

HP:https://www.t-scitech.net/別ウィンドウで開きます
Twitter:@tscitech別ウィンドウで開きます

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