ペイシェント【MECP2重複症候群×協和キリン】 「病気と向き合う人々の今を知るセミナー」をオンライン開催

誰もが健康的で幸福な未来のために、私たちは何ができるのだろう。

2030年に向け「病気と向き合う人々に笑顔をもたらすLife-changingな価値の創出」をビジョンに掲げる協和キリン株式会社。

同社は、未だ満たされない社会の医療ニーズ(アンメットメディカルニーズ)を見出し、それを解決するための総合的なサービスの提供により「医薬品にとどまらない価値の創出」を目指し、積極的な活動を実施している。

同社が従業員向けに定期開催している「病気と向き合う人々の今を知るセミナー」もそのひとつ。患者さんやご家族の“生の声”を聴くことを重視するこの企画は、普段、患者さんと直接対話する機会がほとんどない従業員にとって、病気と向き合う人々の人生の道のりや生活様式を身近に感じられる貴重な機会となっている。

2022年7月21日(木)にオンラインにて実施された「病気と向き合う人々の今を知るセミナー」には従業員約320名が参加、盛況のうちに幕を閉じた。

ゲストは「MECP2重複症候群患者家族会」のメンバーであり、同疾患のご子息を持つ河越直美さんと藤井真美さん。「MECP2重複症候群」や患者である子どもたちと家族の日常、希少疾患ならではの課題とは。セミナー当日の様子を従業員の反応を交えてレポートする。

出演者プロフィール

河越直美(かわごえ なおみ)

栃木県出身。マレーシア在来中に2012年に長男、かなでくんを出産。2014年、かなでくんが「MECP2重複症候群」と診断されたことを受け、2016年「MECP2重複症候群患者家族会」を設立。学会での疾患周知や勉強会開催、海外の医師や家族会との交流など、精力的に活動。希少疾患に焦点を当てた高校生との交流イベント「RDDきっず」がDE&I活動の先駆けとして全国からの注目を集める。

藤井真美(ふじい まみ)

三重県在住。2006年に長男、そうやくんを出産。9歳となる2015年に「MECP2重複症候群」と診断される。現在は「MECP2重複症候群患者家族会」メンバーとして、広報を中心とした活動を行う。

知ってください!小児希少難病「MECP2重複症候群」

画像:MECP2重複症候群患者家族会の河越直美さん(左)と藤井真美さん(右)

第一部は、疾患理解。河越・藤井両氏が疾患の基礎知識や患者、患者家族が抱える制度的・社会的困難について、自身の経験を交えながら語った。

画像:「MECP2重複症候群患者家族会」制作のセミナー資料より抜粋

「MECP2重複症候群」は、2019年に小児慢性特定疾病に認定された希少疾患で国内患者数はわずか65名。知的障害のほか、重度の便秘、繰り返す感染症、難治性のてんかん発作などを特徴とする進行性の重度神経疾患である。根本療法はまだなく、対症療法と療養に頼る。

  • 日本国内において患者数が5万人以下である疾患

感染症に罹患すると完治するまでに数ヶ月かかることもある。少しの鼻づまりから一気に状態が悪化し入院になることも多く、肺炎などに進行すれば命にも関わる。

またこの疾患の特徴として、学童期以降に難治性のてんかん発作を発症するケースが多い。発作の種類、頻度などは患者によって様々であるが、いずれも難治かつ、年齢とともに悪化することが多く、患者と家族のQOLに様々な影響を及ぼす。

  • Quality of Lifeの略称で「生活の質」「人生の質」と訳されている。QOLの向上とは、治療により症状が改善し、苦痛や不安がやわらいで生活が楽しめるようになることを意味する。
画像:てんかん発作を発症してからのかなでくんの変化(セミナー資料より抜粋)

「かなでが初めててんかん発作を起こしたのは6歳のとき。発作を発症してからは、これまでできたことができなくなってしまった。何より、表情がなくなり笑顔が消えたことがとても辛い。」と河越さん。

また、希少疾患ゆえに特有の課題に直面する場面も多い。疾患の情報にアクセスしにくいため受診が遅れる、専門医の数や治療の選択肢が限られている、疾患についての周囲の理解が得られない、重い医療費の負担などがそれにあたる。

「出産直後は、私が訴えた違和感に対して、考えすぎだよと言われてしまい、孤独と不安でいっぱいでした」と河越さん。確定診断を受けてからも、常に周囲に理解されないストレスは大きなものだった。患者家族会のメンバーは前提を共有せずとも気持ちを理解しあえる貴重な仲間だ。

創薬への要望も

画像:MECP2重複症候群患者家族会の河越直美さん(左)と藤井真美さん(右)

藤井さんからは、長男のそうやくん(15)が現在使用している薬剤の説明と創薬への要望があった。そうやくんは、9歳のときに確定診断を受けた。てんかん発作は診断以前の1歳の時に発症している。現在は気管切開を実施、在宅で吸引などの医療ケアを受けながら暮らす。

画像:そうやくんの1日の医療ケア(セミナー資料より抜粋)

そうやくんが服用する薬剤は、抗てんかん薬をはじめ、気管支拡張剤、興奮抑制剤、睡眠薬、坐剤、皮膚用軟膏など多岐にわたる。胃ろうをつけているので、服用自体に困ることはないが、よだれなどの分泌物の増加(それに伴う吸引回数の増加)などの副作用に加え、てんかん発作を完全にコントロールできるわけではないので、常にいつ起きるか分からない発作に怯えているという。

画像:藤井家そうやくんの場合の薬に関する困りごと(セミナー資料より抜粋)

「そうやが生まれてからは毎日が必死でした。自分があと2人は欲しいと毎日思っていたほどです。」と藤井さん。薬はなくてはならないものだが、同時に副作用が強く、使用を断念せざるを得なかったり、状態が悪化するケースもある。医師の指導により新しい薬を試すときは、毎回賭けだ。副作用が少なく、それぞれの子どもの状態にあった薬を作ってほしい、願わくば、服用前に患者にあう薬が分かるシステムがあれば、とコメントを締めくくった。

画像:創薬に対する希望(セミナー資料より抜粋)

おふたりが所属する「MECP2重複症候群患者家族会」は2016年の発足以来、疾患認知向上に努めてきた。現在も活動目標を①社会的認知を上げる②難病指定を受ける③難治性てんかん発作の治療法確立を目標に掲げ、日本において遺伝子治療が受けられる環境を目指し、活動を続けられている。

画像:「MECP2重複症候群患者家族会」の活動目標(セミナー資料より抜粋)

当日のセミナーでは、受講した従業員からチャットを通じて様々な質問が投げかけられた。希少疾病である「MECP2重複症候群」の認知向上のハードルについて問われると、河越さんは「非常に高いと感じます。これまでの活動を通じて病気を持つ子と家族の現状は中々変わらないと実感します。それでも今回のように(社内セミナーに)声をかけてもらったり、患者の声を聞かせて欲しいという要望は以前より増えています。取り巻く環境が厳しいことに変わりありませんが、その中でも希望はあります。」と答えた。

「とにかく、この疾患を知ってほしい」その強い思いから、河越さんら6名の母たちが立ち上げた患者会は、現在では21家族23名にまで拡大。今後もそのユニークな活動に注目が集まる。

セミナー参加者の声

セミナー終了後には、参加者から多くの声が寄せられた。その一部を抜粋し、ご紹介する。

「平穏な時間を一秒でも多く」の言葉に

今回のセミナーでは子を持つ親として心に刺さるもの、人としてハッと気づかされたことが本当に沢山ありました。ご本人・ご家族が実際に感じていること、大変さ、お子さんの成長の喜びについても教えて頂き、「平穏な時間を一秒でも多く」という当然の権利に貢献したいと心から思いました。自分自身は微力ですが、できることから始めたいと思います。今回このような機会を頂けたこと、皆様の信念に心から尊敬と感謝を伝えたいです。

(本社勤務)

製薬会社としてのミッションを改めて実感

難病と闘い続けている患者さんのご家族は、日々想像もできないほどのご苦労をされていることに、改めて気づかされました。普段研究所で仕事をしている上で、直接患者さんやそのご家族の声を聴く機会はないので、貴重な体験となりました。薬を1日も早く届ける事の必要性と重要性、さらには需要は少なくとも、希少疾患の治療薬を開発することは、製薬会社の重要なミッションであることを痛感しました。

(研究所勤務)

薬の研究開発に携わる身として

薬によってQOLを下げたくないという言葉がとても印象深く残ったと同時に、効果があっても副作用で断念する薬があるということも痛感しました。私自身は研究に携わっていますが、研究開発している薬を使う方の想いを認識しながら日々業務に励みたいと思います。まずは今日の貴重な機会を家族・同僚に話すことをファーストステップとしたいと思います。

(研究所勤務)

希少疾患の啓発活動も私たちの使命

MRとして患者さんにできることはなにか。それは1人でも多くの患者さんへ有益な薬剤を届けること、副作用情報収集、その対策を医療従事者へお伝えすること、今回のセミナーは、MRとしての基本を振り返る機会となりました。医師が正しい知識を知らないケースもあると仰っていたことが印象的でした。希少疾患の啓発活動も、私たちの製薬会社の使命だと思います。ご講演ありがとうございました。

(営業所勤務)

産官学連携の必要性を再認識

希少疾病の患者さん、ご家族の実情はもちろん社会とどのような接点を設けて将来に繋げていく取り組みをされているかがよく分かりました。一方で、新薬開発などは企業単独では取り組みづらい領域でもあることからジレンマはあります。希少疾患分野における産官学での連携が必要な領域というのは多岐にわたるのだろうと再認識しました。

(本社勤務)

画像右下:参加した協和キリン従業員からは多くの共感が寄せられた。

まとめ

医療関係者のなかでも極めて認知度の低い「MECP2重複症候群」。今回のセミナーを通じ初めてその名前を知った参加者も多かったようだ。患者のリアルを肌で感じた参加者たちは、日々の業務への責任・使命を新たにしたようだった。

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