People & Culture世界中の人々の健康と福祉に貢献できる誇りと喜び

アンメット・メディカル・ニーズを満たす「臨床開発」というミッション

協和キリンは、それぞれの多様な個性や能力を生かし、さまざまな立場からSDGsの目標達成に臨む社員の集合体だ。本コーナーでは、こうした社員の使命感とチャレンジ、やりがいを探っていく。

今回は研究開発本部で臨床開発を担当する榎谷光熙に、アンメット・メディカル・ニーズ(いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)の充足、SDG3「すべての人に健康と福祉を」の目標達成に貢献する誇りと喜び、苦心について尋ねた。

プロフィール

榎谷 光熙(えのきたに こうき)
協和キリン株式会社 研究開発本部 開発ユニット 臨床開発センター

鹿児島県出身。九州大学 薬学部 創薬科学科を卒業後、同大学院 薬学府 創薬科学専攻 修士課程を修了。2015年協和キリン入社。がん、血液疾患の開発品を担当し、アジア、グローバルでの臨床開発を推進する。

画像:榎谷光熙 (協和キリン株式会社)

親族ががんになった経験から創薬科学を専攻

私は2015年に入社し、これまで研究開発本部で臨床開発の仕事に携わってきました。

医療が進歩したいまなお、治療法が確立していない疾患や既存の治療法では十分な効果が得られない疾患に苦しむ患者さんが世界中にたくさんおられます。

臨床開発とは、こうした患者さんに新薬の候補や適応拡大が期待される既存の医薬品を早期にお届けし、有効かつ安全にお使いいただけるようにする仕事です。

具体的には、国や地域の実情に合わせて質の高い臨床試験(治験、後述)を計画し、適正に遂行して新薬の候補や既存の医薬品の価値を最大化するとともに、承認申請や承認取得を早期に進めるための業務を行っています(図1)。

図1 榎谷の担当する臨床開発部門は、非臨床試験を通過した薬の候補(治験薬)が人に対して安全性や有効性があるかを確かめる治験や、厚生労働省への承認申請、医薬品としての製造販売承認の取得などに携わっている。

大学は薬学部に進んだのですが、そのきっかけとなったのはがんになった親族がいたことです。子どもながらに副作用が少なく、治療効果の高い抗がん剤を世界中の患者さんに届けたいと思いました。

こうしたことから、薬学部では薬剤師業務ではなく、創薬科学専攻で新薬の研究開発について学ぶことを志しました※1。研究室のテーマは、細胞生物薬学(細胞周期チェックポイントやDNA損傷チェックポイントなど)や新規抗がん剤の探索でした。

協和キリンに入社を希望した理由としては、独自の技術を活用した魅力的な開発品別ウィンドウで開きますに惹かれたこと、選考過程での交流のなかで熱意にあふれた社員さんが多いなという印象を受けたことが挙げられます。

  1. ※1薬学部には4年制と6年制があり、専攻によってその後のキャリアはさまざまだ。4年制の学部を修了して製薬会社などの営業職や品質管理などの技術職に進む人、薬剤師の国家資格を取得するために6年制に進む人、4年制の学部を修了したあと追加で2年間研究のために学び、研究職や開発職を目指す人などの違いがある。

入社3年目から国際共同治験のリーダーに

治験は、医薬品や医療機器を製造販売するにあたって、人を対象に有効性、安全性を確認し、医薬品医療機器法(薬機法、旧・薬事法)上の承認を得るために行われる臨床試験のことです。

この臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験(Phase1試験)、第Ⅱ相臨床試験(Phase2試験)、第Ⅲ相臨床試験(Phase3試験)の3段階で行われます。

第1段階のPhase1試験では、少数の健康な人や患者さんに対し、医薬品の候補となる治験薬の投与量を少しずつ増やして安全性を調べたり、どのくらい体内に吸収され、どのくらいの時間でどのように体外に排出されるかを調べたりします。

第2段階のPhase2試験では、治験薬の効果が期待できそうな少数の患者さんを対象に、本当に病気を治す効果があるのか、どのような効きかたをするのか、副作用はどの程度か、どのぐらいの投与量でどんな使いかたをするのが適切かなどを調べます。

第3段階のPhase3試験では、より多くの患者さんに治験薬を使っていただき、効果や安全性を最終的に確認します。

こうした3つのステップを経て、有効性、安全性、適切な投与量や使いかたが確認された治験薬を国に申請し、正式に医薬品としての承認を得て患者さんにいち早く届けるのが、私たちが携わる臨床開発という仕事です。

私は入社して1~2年は治験のモニタリング業務を経験しました。これは、医療機関で行われる治験が、GCP※2、治験実施計画書、各種手順書などに基づいて適正に実施されていることを確認する業務です。

2年目の途中からは臨床試験を次の段階にすすめるための開発戦略の検討やバイオマーカー※3 の評価・解析に携わり、Author(著者)の1人として試験結果報告の論文作成を手がけ、専門誌に掲載されるという貴重な機会にも恵まれました。

入社3年目からは、再生不良性貧血の患者さんを対象とした当社医薬品の適応拡大のための国際共同Phase2/3試験でモニタリングリーダーを任されました。

このプロジェクトでは、臨床試験の計画立案、開発業務受託機関(CRO:Contract Research Organization)を通じた試験全体のマネジメントや新規の試験デザインの検討、さらなる適応拡大の検討、開発戦略の検討、承認申請業務にも携わりました。

画像:仕事風景イメージ

これは私にとって初めての国際共同治験の経験であり、承認取得が得られた初めての経験でもありました。

私たちプロジェクトメンバーは、承認申請、承認取得までの期間を少しでも短くすることはできないかとディスカッションを重ね、海外の拠点のメンバー、CROのメンバー、治験に参加された各国の医療関係者の方々と綿密にコミュニケーションを図りながら国際共同治験を進めていきました。

多くの方々のご協力のもと、実際に承認取得までの期間を短縮することができたときに、プロジェクトメンバーの一員として、国際共同治験がどれだけ大掛かりなプロジェクトであるかを痛感するとともに、各国の患者さんに少しでも早く新薬を届けることができたことに喜びとやりがいを感じました。

その後、非ホジキンリンパ腫に分類される、濾胞性リンパ腫と辺縁帯リンパ腫(ともに血液のがんの一種)の新薬候補に関する国際共同Phase3試験の担当者として、CROマネジメント業務、海外提携会社との連携にも貢献しました。

  1. ※2GCP(Good Clinical Practice: 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)は、厚生労働省が定めた治験を実施するためのルールの1つ。治験を行う製薬会社、医療機関、医師は「薬機法」という医薬品全般に関する法律と、これに基づいて国が定めたGCPという規則を守る必要がある。この規則は、欧米諸国をはじめ国際的に認められている。
  2. ※3バイオマーカーとは、病気の有無や進行状態を調べるために目安となる、生体内で代謝された物質を指す。最近では診断だけでなく、医薬品の開発でもさまざまなバイオマーカーが利用されている。

グローバル開発をすすめる上での困難とやりがい

画像:榎谷光熙 (協和キリン株式会社)

入社5年目からは臨床計画責任者として、固形がんを対象とした研究ステージにある開発候補抗体のグローバル開発戦略、開発計画、試験デザインの立案や検討を行っています。

グローバル開発を行う上でよく課題になるところですが、各地域の規制当局によって要望することが違ったり、医療制度や環境、文化、治療法が違ったりすることから、統一した試験計画、試験デザインを設定するのは困難をきわめます。

どのような試験計画にすれば世界中の患者さんに有効な医薬品を最速で届けられるか、各地域、関係会社のメンバー、医療関係者の方々などとディスカッションを交わしながら日々模索しています。

私が担当しているがん領域ではアンメット・メディカル・ニーズも多く、医療関係者の方々からは標準治療がない、あったとしても有効性に満足できない、副作用が強くて使いづらいといった声をよく聞きます。

新規の治療法に対する期待が大きく、こうしたアンメット・メディカル・ニーズを満たす医薬品を少しでも早く医療現場に届けたいと常に強く願っています。

それだけに、私が臨床開発に携わった医薬品を患者さんに処方した医師から、「効果があった」「QOL※4の向上につながった」といったお話をうかがうと、「がんばってきてよかったなあ」としみじみ思います。

当然のことながら、こうした成果は私1人の力で達成できるものではなく、所属する部署やプロジェクトのメンバー、海外のメンバー含め多くの人々のコミュニケーションと努力があってこそ得られたものだと実感しています。

  1. ※4Quality of Lifeの略称で「生活の質」「人生の質」と訳されている。QOLの向上とは、治療により症状が改善し、苦痛や不安がやわらいで生活が楽しめるようになることを意味する。

若手のチャレンジを一致団結して応援する社風

当社の研究開発本部は研究部門と開発部門が同じ組織として存在するため、両部門のメンバー同士の距離が近く、連携しやすいと感じています。

研究と開発の業務はバリューチェーン※5で強いつながりがあるものの、実際の業務内容や折々に解決すべき課題、評価軸が大きく異なることがあります。開発段階に至るにはまだまだ遠い新規のテーマであっても、将来を見据えて忌憚なく意見交換できるのはよいことだと思います。

たとえば、「研究開発合同発表会」で研究部門のメンバーが新規のテーマについてポスター発表しているのを見聞きし、臨床開発を担当する立場から実現性や現場のニーズなどをコメントして、ともにディスカッションする機会などもあり、連携しやすい環境になっています。

画像:榎谷光熙 (協和キリン株式会社)

もう1つ、協和キリンのよいところは若手のうちから責任ある業務を任され、それぞれの創意工夫によるチャレンジを上司や同僚、部下が受け入れ、ともに取り組んでくれる雰囲気があることです。

先ほどもお話しした通り、私自身も入社3年目にモニタリングリーダーとして国際共同試験のマネジメントを経験しましたし、入社5年目からは臨床計画責任者としてグローバル開発戦略の検討に携わっています。

任された当初は経験不足もあって業務を遂行するのがたいへんなこともありましたが、上司はもちろん同僚や後輩たちにも助けてもらいながら乗り越えることができました。

チャレンジとしては、協和キリンで前例のない新規の治験デザインを提案したときに、多くの方々に前向きに受け入れていただいた経験があります。

従来、当社でよく使われていた治験デザインがあるのですが、本当にこれがベストなデザインなのかと疑問に感じ、他社の事例や文献などを調べて別のデザインにも検討を広げていきました。

統計部門のメンバーにも相談し、協力していただいた上で当社としてはまったく経験のない新規のデザインを提案しました。当社としては初めてのデザインであったことから懸念も大きいと想像されましたが、プロジェクトメンバーは新規デザインの採用に向けて前向きに検討にのっていただき、会議で上層部にも認めていただきました。

臨床開発の仕事は忙しく、心身ともに負担が大きいという印象をお持ちの方もおられるかもしれません。

実際には当社ではスーパーフレックス制度が導入されており、コアタイムもありませんので、社員それぞれの業務特性やライフスタイル、趣味などに合わせて働きやすい環境にあると思います。

私自身のことについていえば、早朝や深夜に海外との会議があったときには途中で休憩をはさんだり、朝遅めに業務を開始したり、夕方早めに業務を終了したりしており、ワーク・ライフ・バランスはとりやすいと感じています。

日によっては、早めに業務を切り上げて趣味のバレーボールやバドミントンを楽しむこともあります。

画像:榎谷光熙 休日にバトミントンを楽しむ様子
  1. ※5バリューチェーン(Value Chain:価値の連鎖)とは、製品の製造や販売、それを支える開発や労務管理など、企業のすべてのセクションの活動を価値の連鎖としてとらえる考えかたのこと。1985年にハーバードビジネススクール教授のマイケル・ポーターが、著書『競争優位の戦略』で提唱した。

臨床開発が変革期を迎えたいまだからこそ

近年、臨床開発の手法が変革期にあり、業界全体としても開発のスピードが早くなって新薬がどんどん登場しています。こうした状況のもと、当然のことながら既存の方法を模倣するだけでは効果的な臨床開発を行うことは望めません。

私自身も既存の方法にとらわれることなく、新たな手法やしくみづくりにチャレンジすることを心がけています。

最近では、がん領域に限らず1人ひとりの患者さんに対して有効性が高く、副作用の少ない医薬品をお届けする個別化医療※6が主流となりつつあります。

同じ病気であっても、患者さんの年齢、性別、合併症、既往歴、遺伝的素因、腎臓や肝臓の機能、生活習慣などによって治療薬の効果や副作用は異なります。

このため、治験の段階でも遺伝子解析やバイオマーカーなどの手法を用いて1人ひとりの患者さんの特徴(患者背景、病態など)をくわしく調べ、その特徴ごとに新薬候補の有効性、安全性を確認しています。

常に念頭に置いているのは、担当している医薬品の臨床開発をいち早く成功させ、世界中の患者さんにお届けすることです。ほかの人が思いつかない私自身のアイデアや貢献により、効率的かつ効果的に治験を遂行してアンメット・メディカル・ニーズを満たしていきたいと考えています。

その上で担当するプロジェクトだけに固執することなく、私の経験やアイデアをほかのメンバーや後輩たちに伝えていきたいと思っています。

将来的には、これまでの臨床開発のさまざまな業務で得られた知識や経験をもとに、グローバルプロジェクトリーダーとして、臨床開発の枠組みを越えた、より広い視点から世界中の患者さんに貢献できたらと夢見ています。

協和キリンの魅力的な開発品のグローバル開発に携わることにより、日本にいながらにして世界中の患者さんの健康と福祉に貢献できることを誇りに思います。

アンメット・メディカル・ニーズを満たす医薬品を世界中の患者さんに可能な限り早くお届けできるよう、今後ともたゆまずにチャレンジを続けていきたいと考えています。

  1. ※6個別化医療とは、1人ひとりの患者さんの詳細なプロファイルに基づいて個別に最適な診療を行うこと。年齢や性別、既往歴などだけでなく、遺伝子情報や性格、行動パターン、喫煙、仕事、ストレスといった生活全般にわたる詳しい情報をもとにオーダーメイドの治療を行うという、これから期待される医療を指す。

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