People & Culture【製薬企業人事対談】ポストコロナ時代、女性はキャリアをどう描く?

「女性が第一線で働き続けるにはどうすればいいか。」

この問いは、女性だけでなく日本社会全体の課題といえます。もちろん、製薬業界も例外ではありません。

今回は、開発職やMR職といったそれぞれの経験を経て、現在は協和キリン株式会社人事部で活躍するお2人に「女性のキャリア」への向き合い方を聞きました。

過去にご自身が直面した課題や会社としてのダイバーシティへの取り組み方、コロナ禍で激変した働き方など、製薬企業として取り組むべきことについて考えていきます。

  • Medical Representative(医薬情報担当者)。医薬品の適正使用のため、病院などの医療現場に対して情報提供活動等を行う。営業部門所属。

対談者プロフィール

武藤裕美子(むとうゆみこ)
協和キリン株式会社
人事部/多様性・健康・組織開発グループ

2004年、同社の前身となるキリンビール医薬カンパニーに入社(開発企画部)。2005年には開発業務部にてQC(Quality Control)担当長、2008年にはプロジェクト統括部にて新薬開発のプロジェクトリーダーを歴任。2014年に人事部に異動。女性活躍をはじめとするD&I(Diversity & Inclusion)を推進する。

真下慶子(ましもけいこ)
協和キリン株式会社
営業本部/営業企画部人事グループ 兼 人事部/多様性・健康・組織開発グループ

埼玉県出身。2005年MRとして入社。基幹病院や透析クリニックを中心に千葉で約6年間、京都で約6年間(産休・育休期間2年を含む)勤務。その間、別居婚や子連れの単身赴任も経験。現在は東京本社在籍。

学生時代からあった「働き続ける」というヴィジョン

–製薬業界でキャリアを積んできたお2人ですが、学生時代は自身のキャリアにどのようなヴィジョンを持っていましたか?

武藤裕美子(以下、武藤)私が学生の頃は、女性がキャリアを持つこと自体への理解が薄い時代でした。薬学に進んだのは「女性だからこそ手に職を」という思いからです。薬剤師という選択肢もありましたが、「若いうちは企業で揉まれてみたい」と考え、製薬会社を選択しました。

画像:武藤裕美子

正直なところ、当時はライフイベント後のキャリアまで想像しておらず「その時が来たら乗り越えるしかないかな」と漠然と思っていた記憶があります。

仕事を通して社会貢献や自己実現を達成したいという思いは当時から変わっていないですね。

真下慶子(以下、真下)私も(武藤さんと)同じように、働き続けたいという思いはありました。

MR職を選んだのは親族に医療従事者が多かったこと、大学時代にがん抑制遺伝子の研究を行った経験などからです。将来は医療に貢献できる仕事をと製薬業界が自然と候補に挙がりました。

希望の業界とはいえ、入社当時は焦っていました。院卒で同期より年齢が上だったこともあり、今後のライフイベントを考慮して「少しでも早く経験を積んで、実績と信頼を獲得したい」と考えていました。

ライフイベントで感じた周りとの温度感

–これまで、自身のキャリア形成にハードルを感じたことはありましたか?

真下結婚当初から別居婚(2年)を選択した事、さらに未就学児を連れての単身赴任(1年)に対しては、周囲からは様々な反応がありました。

別会社に勤務する夫が京都に転勤することになって。会社は(夫と)同じ地域への配属替えが可能かどうか検討してくれたのですが、私は千葉に残ることを選択しました。『まだここでやり残したことがある』と感じていたからです。

その後、妊娠8か月まで働き、出産のタイミングで京都へ引っ越して2年間の育休を取得し、京都でMRとして復職しました。2017年に営業企画部への異動に伴い、現在の東京本社勤務になった際は、単身赴任という形で子どもと2人で関東に戻ってきました。

周りからは、『何でついていかないの?』『子どもではなく自分のキャリア優先なのか?』などの声がありました。別居婚は家族で話し合った結果ですし、自分でも納得した選択だったので、当時は複雑な想いを抱きましたが、今でも全く後悔はありません。

女性活躍が推進される中で、キャリアを積んでいく事、多様な働き方を選択していく事が好意的に受け止められる社会になってほしいと思っています。

同期入社のメンバーは今もそれぞれの場所で生き生きと働き、活躍しています。彼女達の存在や頑張りは、私にとって大きな支えとなっています。

–そうだったのですね。MRは激務というイメージがありますが、お子様もいる中で実際はどうでしたか?

真下最近は、ドラマでも主人公の女性MRが深夜まで頑張っているシーンがありましたね。仕事内容がリアルに描かれている面もある一方で、業務時間などはドラマ的な演出の部分が大きいと思います。

少なくとも当社では連日深夜まで仕事をしている人はいませんし、時間休の取得なども比較的自由です。

子どもがいると、保育園へのお迎えはもちろん、呼び出しなどの不測の事態も起こるわけですが、MRという職種は個人の裁量が大きい分、柔軟な対応も可能なことがあると個人的には思います。

実際、当社で働く約180名の女性MRのうち、結婚、出産などのライフイベントを経験している方は55%。そのうち、子どもを持つ『ママMR』は3割を超えています。ライフイベントを経ても働き続けることを選択する女性が増えているんです。

ロールモデルの不足とキャリアに対する覚悟

画像:真下慶子

–ご自身のキャリアについて深く考えられている真下さんですが、最初からそうだったのですか?

真下入社当初から将来にわたるキャリアを具体的に描けていたわけではありません。キャリアを見つめ直すきっかけとなったのは、当社の親会社となるキリンホールディングス主催の『KWC(キリンウィメンズカレッジ 2014年~)』の受講です。

KWCは、次世代の女性リーダーを育成するための研修です。関連会社の若手女性社員(希望者)を対象に、女性特有のマインドや課題を乗り越え、経営職を目指す意識を高めることを目的としています。

約7か月にわたり濃厚な課題をこなす簡単ではない研修ですが、今後リーダーとして活躍するための基礎力をつけてもらったと感じます。「経営職を目指そう」という自分のキャリアに対する覚悟ができたのはこの頃でした。

同じ受講者の中には、すでに多くの部下を抱えて第一線で活躍をしている女性もいるんですよ。

武藤これまでは女性が企業でキャリアを築きたいと思っても、そのための“ロールモデル”が圧倒的に不足していました。社内でも、「前例がないから、どのようにキャリアを重ねれば良いのか分からない」という声が多かったのです。

そういった状況を打開していくための施策としてKWCのような研修はとても意義のあるものだと感じています。KWCとは別に当社主催で、女性経営職育成を目的とした研修(FFLT:Future Female Leader Training)を2016年から実施しています。

おかげさまで、真下さんのようにライフイベント後も主戦力として活躍したいと考える女性社員も増えており、関心の高まりを感じます。こういった研修が、若いころからキャリアを考える1つのきっかけとなれば嬉しいですね。

制度面だけではない、マインド醸成の大切さ

–ダイバーシティ経営や女性の活躍を推進する上で感じた課題はどんなものでしたか?

武藤マインド醸成の大切さ、難しさですね。いくら(女性社員)本人がキャリア意識を高め、会社が両立のための仕組みや制度を整えても、周囲の理解や協力がなければ健全な運用は困難です。

まずは上長の意識から変えていくことを目標に、社長を含め部長級以上の社員全員が参加する「ダイバーシティセミナー」(2017)を開催しました。

本セミナーは、組織のリーダーがメンバー一人ひとりの多様性を受け入れ、活躍してもらうためのノウハウを習得するもの。セミナーを終えたみなさんからは「目から鱗だった」「自分のやり方がいかに昭和的だったか分かった」「無意識のうちに持つ思考スタイルや偏見に気がつくことができた」などの声が聞かれました。

この他にも、当社のマインド醸成のための取り組みには、「イクボス企業同盟」への参画などが挙げられます。

ワークライフバランスや多様性への理解は、これからの企業成長にとって欠かせない要素です。制度とマインド。この2つが揃って初めて歯車は動き出す、そう考えています。

  • 部下のワークライフバランスを考え、その人の人生を応援しながら結果を出し、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司の育成を目指す活動。 NPO法人ファザーリングジャパン主催。

ポストコロナ時代、働き方はより柔軟に

–現場ではマインドの変化は感じますか?

真下男性社員の育児参加への意識も少しずつ変わってきたと感じます。新型コロナウイルスの感染拡大により、これまでの働き方を見直す必要が出てきて、改めてワークライフバランスを考える社員も多いのではないでしょうか。

MR職に関して言えば、コロナ禍において在宅勤務が可能となり、医師とオンライン面談をする機会も増えています。アフターコロナの環境においても今後はリモートでできる仕事もさらに増えてくるのではないでしょうか。新しい働き方と合わせて、適正な労働時間管理の在り方についても検討が必要だと考えています。

武藤ダイバーシティへの関心の高まりもあり、製薬業界は今後、より女性が働きやすい環境へとシフトしていくと思います。当社の女性管理職の比率も順調に伸びており、ライフイベントへの理解も大きく前進しています。

すべての人にとって、キャリアとライフ、どちらも実現できる土壌を実現していきたいですね。

–今後のご活動にも期待しています。

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