ペイシェントメディカルアフェアーズ部(MA部)のペイシェントセントリシティ活動の強化に向けて:患者さんを招いたセミナーを実施

目次
協和キリンのメディカルアフェアーズ部(MA部)は、医療従事者や患者さんとのコミュニケーションを通じて、アンメットメディカルニーズ(いまだに満たされていない医療ニーズ)の把握やアンメットメディカルニーズ解決に向けた取り組みを促進する役割を担っています。協和キリンのMA活動に携わる従業員として、より一層患者さんに寄り添ったペイシェントセントリシティ活動を行うことを日々目指しています。今回は、その取り組みの1つとして2024年12月に行ったセミナーを紹介します。
メディカルアフェアーズ部(MA部)の活動
MA部は主に以下の取り組みを行っています。
- 医療従事者や患者さんの「アンメットメディカルニーズ」の把握
- 把握したアンメットメディカルニーズに対して、医薬品の価値を最大化・最適化するための計画立案
- 計画に基づいたエビデンスの創出(臨床研究など)
- 創出したエビデンスを活用し、アンメットメディカルニーズの解決への貢献と、疾患に関する理解促進を目的とした情報提供
日本ではこれまで、製薬企業が患者さんと話す機会が限られていましたが、近年、規制等の変化により患者さんから悩みやニーズを聴く機会が増えています。この状況を追い風に、MA部ではペイシェントセントリシティ活動(PC活動)※1を強化。「PC活動ワーキングチーム」を立ち上げ、活動を展開しています。
- ※1ペイシェントセントリシティ(Patient Centricity:PC)活動:患者さんを常に中心に捉え、患者さんに焦点をあて、最終的に患者さん自身の判断を最大限に尊重する理念(ペイシェントセントリシティ)に基づく活動
多様なステークホルダーの声を集め、医薬品の価値を高める(医療開発基盤研究所より)
「PC活動ワーキングチーム」は、MA部におけるPC活動の一環として、患者さんの声に耳を傾け、PC活動について一人ひとりが考える機会を増やし、自分ごととして活動に取り組んでいけるよう、2024年12月に社内向けの研修を企画しました。この研修では、一般社団法人医療開発基盤研究所(Ji4pe)の代表理事である医師の今村恭子先生と、Ji4peの理事であり、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)※2友の会
事務局長の岸紀子さんをお招きし、それぞれの活動発表とMA部への期待をお話しいただくと共に、患者さんご自身のペイシェントジャーニー※3や疾患についてもお話を伺いました。
- ※2シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease):遺伝子変異による末梢神経疾患の総称で、主な症状は、末梢神経障害による四肢遠位部優位の筋力低下や感覚低下などです。
- ※3ペイシェントジャーニー:患者さんが自身の病状や疾患とどのように関わり、経験してきたかを時間の経過に沿って可視化したもの。

今村先生が代表理事を務めるJi4peは、患者さんや市民に向け、医薬品開発の過程を体系的に学習するコースを提供しています。その背景には、PPI※4(Patient and Public Involvement)の重要性が認識され、患者団体への期待が高まっていることがあります。患者団体が、医療・医薬品承認の仕組みや法制度の知識を持つことが求められているのです。また、製薬企業や医療現場向けには患者市民参画推進のための職場トレーニングを行い、職場の意識改革を推進しています。

患者さん、医療者双方の視点を熟知している今村先生は、製薬企業のMA部の課題について次のように話しました。「一番の課題は、接触する機会の少なさです。患者さんが薬について質問したい時に思い浮かぶのは医師や薬剤師です。製薬企業はなかなか出てきません。また、問い合わせても対応部門が分からず、たらいまわしにされる不安を持っている方もいます。安心感を持っていただくために、より多くの出会いの場があるとよいと思います」
続けて、「検索以外でもウェブサイトを患者さんが見つける方法を模索してみては。気軽に質問やコメントができるウェブサイト上の仕組みがあるのもよいと思います。MA部は企業の『顔』として困りごとはなんでも相談できるような部署になってください」と激励をいただきました。
- ※4 PPI(Patient and Public Involvement):患者や市民の意見を取り入れ、意思決定プロセスに関与してもらう取り組み
難病当事者として、製薬企業に伝えたいこと(CMT友の会より)

CMT友の会の岸さんは疾患の説明の後、ご自身の経験やCMT友の会の活動、製薬企業との関係性、今後の展望を語りました。
「CMTは遺伝子の変異を原因とする遺伝性・進行性の神経疾患です。末梢神経からの信号が徐々に伝わりにくくなるために手足の先から筋力が衰える疾患で、確立された治療法はなく指定難病に認定されています。CMTは進行が緩やかで命に影響するものではないので、医薬品や医療技術の開発は緊急性が低いと判断されることが多いです。そのため、治療法やリハビリプログラムの研究・導入の進展が遅く、患者の症状の改善が十分に進んでいません。
こうした課題の解決に向け、CMT友の会ではCMTの患者さんやその家族が互いを支え合い、生活の質を向上させることを目的に、定期的な交流会やオンラインサロンを開催し、医療情報および体験談を共有しています。また、医療機関や研究者と連携しながら、最新の治療情報の収集や研究の促進に努めています」

岸さんは20年以上、企業に勤めながら患者会の活動に取り組んできました。大学卒業後は金融関係の専門誌の取材・編集・研究活動に従事。その後、会社経営を経て個人信用情報機関で事業や統計、経営企画の構築に携わってきました。
岸さんのCMT患者としての人生は、33歳で診断を受けた時にスタートしました。CMTは進行が遅く治療法がないので「定期通院の必要がない」と病院で言われ、患者としてのあり方を模索し続けたそうです。そうした中で同じ疾患を持つ同志に出会い、語り合える場の必要性を実感。7人の仲間と共にCMT友の会を設立しました。定年退職後の現在は、CMT友の会をはじめとするソーシャルセクター※5を主軸において活動しています。
次に、岸さんはCMT友の会と製薬企業のこれまでの関わりと課題を話しました。同会では製薬会社が提供する助成金を活用し、ホームページの開設などを行ってきました。ただ、助成金は単発的な新規事業が対象で、基幹事業の資金援助にはつながらないため、人員や時間が足りない状況では活用しきれないという課題があり、「運営そのものを支援するような伴走支援も必要」だと訴えました。また、製薬企業からの依頼を受け、創薬関連のヒアリング協力などをした経験も多くあります。ただ、CMTは治療法がない希少疾患であることや、様々な規制や企業側の要望との相違から「こちらから協力関係の構築を持ちかけると断られることが多い」という課題もあるそうです。岸さんは、それを解決するきっかけとして製薬企業の従業員と患者会が交流し、お互いの理解を深めることを提案しています。「最近では、学会に患者会が展示ブースを出展することも増えているので、展示会場にも足を運び、患者会ブースにぜひ立ち寄ってください」と笑顔で語りかけました。
- ※5 ソーシャルセクター:社会課題の解決を目的とした組織や団体
MA部の今後の展望:患者さんのことを最も理解している部門を目指して
研修の最後に、MA部長の高橋健は「製薬企業として改善すべきポイントのご指摘は、大変大きな学びになりました。MA部を患者さんが気軽に相談できる窓口にするために『まずはMAへ』を合言葉に活動を進めていきます。ありがとうございました」と感謝を述べました。
研修後、PCワーキングチームリーダーの鈴木康平はMA部の今後について次のように語りました。
「協和キリンのPC活動は、世界各国でその国の患者さんのニーズや規制に合わせ、様々な形で展開されています。そうした中、日本において、私たちMA部は、患者さんのことを最も理解している部署になることを目指しています。そのためには、PC活動などを通じて、患者さんのアンメットメディカルニーズを深く理解する必要があります。そして、そのニーズを満たすためのメディカルプランを策定します。そのうえで、プランに基づいてエビデンス※6を創出し、患者さんや医療従事者に適切に発信・提供していきたいです。このように医療ニーズの把握から育薬までの活動を通じ、協和キリンがビジョンで掲げる『病気と向き合う人々に笑顔をもたらすLife-changingな価値の継続的な創出』の実現に向かっていきます」
また、セミナー後のアンケートでは、「企業、医療従事者、患者さん/患者団体が、“一緒になって“課題を見つけ、その解決に向かうという姿勢が大事だと改めて痛感しました」といった、前向きな声が集まりました。
今回の活動で、MA部は重要な学びを得ることができました。今後もMA部として患者さんとの大切な接点を担い、協和キリンのビジョン実現に向かい邁進していきます。
- ※6エビデンス:有効性や安全性を調査した臨床研究から得られる信頼性の高い証拠