People & Culture 「わたしのSDGs」意識をしているたった1つのこと

「わたしのSDGs」意識をしているたった1つのこと 「わたしのSDGs」意識をしているたった1つのこと

”SDGs”という言葉はずいぶん身近になってきました。しかし、重要なことは分かっていても、普段の生活ではなかなか意識できていない人や、達成にむけ、自分がどのように行動すればよいのか分からない人は多いのではないでしょうか。

今回は、大学院にて国際教育開発論を修め協和キリン株式会社に入社した、高梨眞子に「SDGs」達成への向き合い方を聞きました。

大学院生時代の研究を通して感じたSDGs達成への課題や、私たち一人ひとりができることについて考えていきます。

高梨眞子

協和キリン株式会社 研究開発本部 富士リサーチパーク 研究推進グループ

上智大学総合グローバル学部を卒業後、同大学院 総合人間科学研究科 教育学専攻 博士前期課程を修了。国際教育開発論を専攻し、専門は紛争後社会における教育政策、特に東ティモール民主共和国の教育政策について研究した。2021年協和キリン入社。事業場人事として、勤怠管理や就業規則など人事諸制度の運用、産育休や退職・再雇用手続きなどの諸手続き、労働組合窓口を担当。

社会課題への取り組みと経済活動は両立できる

―――まずは会社全体の取り組みについてお話しいただけますか?

協和キリングループは、社会課題への取り組みと経済的価値の創造を両立することで企業価値を高めるCSV(Creating Shared Value)経営を実践するため、取り組むべき優先課題を特定し、2021-2025年の中期経営計画に組み込んでいます。製薬企業として新薬創出でグローバル企業として病気に向き合う世界中の人々にその価値を提供することはもちろん、未来世代のことも考え、企業経営することも課題のうちのひとつです。

―――高梨さんが所属されている富士リサーチパーク(以下FRP)では、どんな取り組みをされているのですか?

FRPは静岡県駿東郡長泉町にある協和キリンの研究拠点です。研究所ではLife-Changingな価値を提供するための研究を行っていますが、事業活動が外から見えにくい事業場ですので、 周辺環境に配慮すること、地域の方々との交流を通じて地域に溶け込むことを大切にしています。

環境面では具体的に、廃水は適切に処理してから排出し、特定の化学物質についても排出の基準を遵守しています。パートナーシップを醸成する活動としては、地域の清掃活動に積極的に参加したり、地域の小学生を対象にした「バイオアドベンチャー活動」という科学実験教室を開いたりしています。私はその事務局も担当しています。今はコロナ禍で中断しているものもありますが、コロナが終息次第、再開する予定です。

そのほか、研究所内で育てた野菜を収穫し、食堂に出したり、研究員のお子さんたちが職場見学をしたりといった活動もしています。

善意からの行動が、結果的に悪影響を生まないために

―――高梨さんがSDGsに興味を持ったきっかけはどんなことでしたか。

今思うと、小学生のときに読んだアンネ・フランクの自伝から受けた衝撃が、私の根幹にあるように思います。隠れながら生き、15歳で餓死したアンネ。当時の私は同年代の少女の壮絶な生きざまに「世界ではこんなことがあったのか」と打ちのめされる想いから、紛争や貧困問題に関心を持ち始めました。そして、国際科の高校での経験を通じて、発展途上国の教育に強い関心を持ち、大学で専攻することを決めました。私自身の「教育は誰にとっても欠かせない、大切なもの」という軸はSDGs、特に目標4「質の高い教育をみんなに」へとつながっています。

―――SDGs達成に向けた取り組みについて教えてください。

私は学生時代、SDGsの目標4である「質の高い教育をみんなに」について研究していました。大きなテーマは「紛争を経験した地域の教育政策」。紛争時、子どもたちは長期にわたって教育を受けられないだけではなく、社会的弱者であるために、人権侵害の被害を受け、常に安全や生命が脅かされています。そのような経験を持つ子どもたちにとって、紛争後の教育は極めて重要であり、また、紛争後社会にとってもその社会の将来を担う子どもたちの教育は大切です。私は、独立投票に際して紛争を経験した東ティモールを対象とし研究を行いました。その研究の出発点には「Do No Harmの原則」があります。「Do No Harmの原則」は、善意で実施する支援活動が結果的に支援を受ける社会の人々を苦しめる状況とならないよう、社会的インパクトに配慮すべきという考え方です。教育支援の分野では、教育内容がどの集団に対しても平等であるか、教科書の配布や教育の実施は公平にできているかといった細かいところまで考えて支援します。新しい社会制度や教育政策が作られる紛争後の地域では、「Do No Harmの原則」の視点、および紛争後社会の教育にフォーカスして考える「紛争(要因)に配慮した教育 (CSE, Conflict Sensitive Education)」の考え方がさらに重要となります。

紛争後の地域では、教育支援は重要だけれども、その在り方については批判的かつ多角的に検討することで、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」が実現できるのではないか、という考えを研究の軸としています。そこから、紛争を経験した地域の教育について、支援をする側・受ける側の意図や価値観の違いについて大学院で研究しました。時に教育開発支援が支援対象地域に意図しない影響を与えてしまうのは、根本に支援をする側・受ける側の意図や価値観の違いや、両者の関係性があるのではないかと考えたからです。これらの考えの違いや関係性を整理し理解することで、「質の高い教育をみんなに」の実現に貢献できると考えました。

SDGsをブームではなくムーブメントに

―――SDGsの取り組みに関して、日本の社会課題はどんなところだと思いますか?

テレビなどのメディアも、一企業も、「SDGs」をまるでブームかのように取り入れているケースが見られる事です。SDGsが周知されていくのはいいことですが、SDGsの背景や課題の本質に迫ろうとする働きかけは薄いように感じます。企業は「SDGsを推進している」と言うと体裁がいいので、既存の活動に対して、SDGsの17の開発目標から適当に選んで「やっています」と出しているだけだと表面的な印象を与えてしまうと思います。

また、日常生活や企業活動で取り入れやすい環境の取り組みは盛んに行われていますが、それと比較して日本社会の課題の一つであるジェンダーや、数値化しにくく効果がすぐには表れにくい教育課題などはあまり目を向けられていない印象を持っています。SDGsは日本や先進国を含めた地球規模の課題を取り扱っています。ところが、課題を他人事だと考えている雰囲気があるように感じています。日本にも、SDGsに挙げられている社会課題に苦しんでいる方たちがいることを、忘れがちなように思います。

―――では、日本の企業はどう変わっていくべきでしょうか。

SDGsには数値目標があります。当社もCO2削減について数値目標を立てて実行し、情報開示もしています。SDGsの達成に向けてアプローチするのであれば、SDGs項目に対して、自社なりの数値目標を策定し、新たな行動ができるところまで体系的に落とし込むことが大切だと思います。

SDGsで掲げられている社会課題に対して、自社ではどのようなアプローチができるのか、していくべきなのかを考え、施策を立て活動に落とし込んでいくという創造性の有無が分かれ目だと感じます。SDGsを深く本質的に考えている企業は、SDGsが成立した背景、社会課題により苦しんでいる方々、現在の状況やその課題感を理解し、社会課題を自分事として捉えているのではないでしょうか。自社で提供できる価値を模索し、新しい価値を創出できている企業は、SDGsの達成に貢献できると思います。そのように本質的な深掘りができる企業がもっと増えるといいですね。

―――社内目標は日常業務のなかにどのように落とし込まれていますか。

研究所や工場では、自分たちが使う電力量や排出する廃棄物量がつぶさに分かるので、年間の削減目標を掲げ、月単位でどれだけ目標に達しているかを認知できます。各グループでエネルギーや暖房などの使い方を月会議などで話し合い、事業場での活動に活かしています。

そのほかの取り組みとしては、例えば事務用品の購買時にはグリーン購入を行い、環境に配慮するなどです。全社的な目標が掲げられており、CSR推進部が旗振り役となり推進している状況です。

また当社は、自社に対しても常に批判的な目を持ち、さらに良い活動を模索しています。手前味噌ですが、受け取り側の目線、特に患者さんをはじめとした病気に向き合う人々の視点で考えているところは素敵だと感じます。

「世界中の子どもたちがポジティブな気持ちで暮らせるように」との思いから、大学院まで一貫して教育に関する研究をしてきました。しかし、個人の研究で創出できるインパクトには限界があるため、企業という組織で世界中に価値を提供できる一員になりたいと考え、就職活動をすることにしました。

私は発展途上国の教育について研究してきたので、就職活動をするにあたって世界中の苦しんでいる、助けを必要としている人たちに手が届く企業で働きたいという大きな軸がありました。当社は企業目線ではなく病気に向き合う人々の視点から、人々の想いに誠実に向き合っています。その姿勢が私自身大切にしてきた教育に対する考え方と同じであることに惹かれ入社に至りました。

就職活動の際は、発展途上国の教育課題を中心としたグローバルイシューの研究をバックグラウンドに持つ私が入社することで、会社に貢献できる部分があるのではないかと感じました。社会人になり、先輩方を見ていて「日々勉強することが何よりも重要だな」と思います。直接的に関わる方が増え、ひいては間接的に自分の仕事は患者さんを含め病気に向き合う方々につながっているということに対して、製薬会社の一員として責任の大きさを感じています。そして、その一員であることを嬉しく、誇りに思います。

私はよく、企業におけるSDGsの課題や今後の活動について、上司と話し合います。上司や先輩方は未熟な私の意見や価値観を否定せずに受け止め、尊重してくれていますし、私自身の研究やバックグラウンドに関心を持ってくれたり、同じ会社にいて心強いですと仰ってくれたりする所員さんもいて、すごく嬉しく思います。

―――今後、どのような社会を目指したいとお考えですか?

SDGsで誓っている、「誰一人取り残さない(No One Left Behind)社会」を実現していきたいですね。そのためには、自分とは異なる考えにも耳を傾けたり、ときには自分が享受している利益を手放してでも、他者のために行動したりすることが必要だと思います。そして、自分の軸である「教育」をこれからも大切にしていきたいと考えています。研究からは離れましたが、教育への関心を持ち続け私ができる、すべき行動は起こしていきたいと思います。世界中の子どもたちが安心して前向きに生きていける社会にしたいと考えています。

私は学生時代に「支援は”してあげる”のではなく、対等にその在り方を検討していくもの」だと気づきました。発展途上国の研究をしていると、どこか自分が「何かをしてあげたい」という気持ちを持ってしまいます。しかしながら、「この人は辛くてかわいそう」と勝手に想像するのも偏見の一種であると気がつきました。もちろん、辛さを想像するからこそ、他者への共感や配慮はできるものなのですが。

SDGsを達成するためには、他者を大切に思う気持ちや他者の視点に立って想像する姿勢は常に大事にしつつ、偏見は排除して真に求められるものを他者と創造することが必要です。この考えは先ほど述べた「Do No Harmの原則」に通じています。

―――偏見をなくすのは難しいことです。どのように心がけると良いでしょう。

偏見は自分でも気づかないうちに抱きがちなものです。ですから私は「自分には偏見がある」と自覚することを常に心がけています。「自分は偏見も持っていないし、差別もしない」という考え方は、自らを見つめなおすこと、内にある偏見と向き合うことをシャットダウンしてしまうし、知らず知らずのうちに、だれかを傷つけてしまうのではないかと思います。日々、内省のための自分自身への問いかけや他者を理解するための相手への問いかけを大事にしています。学生時代の友人と話すとき、意図せず偏見を感じさせてしまうような言葉を使わないよう気をつけています。例えば、「女性だから」などジェンダーバイアスを感じさせる発言はしない、「あの人はきっとこう考えている」と他者のことを決めつけない、ということです。そうして話をしていると、自分の内にある偏見や、考え方に気づかされることが多くあります。

―――SDGsを達成するために、まずは相手の視点に立ち、何が必要かを本質的に考えていくことが重要ですね。ありがとうございました。

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