社会との共有価値 【解説記事】大学の取り組み事例から見る。SDGsの達成に向けてできること

大学の取り組み事例から見る。SDGsの達成に向けてできること 大学の取り組み事例から見る。SDGsの達成に向けてできること

日本政府をはじめ、企業や大学など、多くの組織でSDGsの達成に向けた取り組みを進めている。大学の講義でさまざまな組織の取り組み事例を知り、興味を抱いた学生もいるのではないだろうか。

この記事では、大学に焦点をあてて、大学がSDGsのゴールに向けた取り組みを進める意味、事例を紹介する。

多くの大学がSDGsへの取り組みを行っている

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)とは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された開発目標だ。2015年9月に、国連サミットで採択された。

誰ひとり取り残さない社会の実現のため、各国政府をはじめ、さまざまな主体がSDGsの達成に向けて役割を果たすことが求められている。

大学などの各種教育機関も例外ではない。STI for SDGs(SDGs達成のための科学技術イノベーション)推進への期待のなか、さまざまな分野の研究機関が整った大学の存在は大きいからだ。

大学が、SDGsのゴールに向けた取り組みを進める意味は大きく、さまざまな期待がされている。

「THEインパクトランキング2021」に日本の大学が多数参加

THEインパクトランキング2021」は、イギリスの高等教育専門誌である「Times Higher Education(THE)」が発表しているランキングである。

大学が実施している社会貢献の取り組みについて、SDGsの枠組みでランキング化したものだ。2021年においては、世界の以下の大学が上位3位に上がった。

順位 大学名 スコア
1位 マンチェスター大学(イギリス) 98.8
2位 シドニー大学(オーストラリア) 97.9
3位 ロイヤルメルボルン工科大学(オーストラリア) 97.8
出典:「Impact Rankings 2021別ウィンドウで開きます」(Times Higher Education)

日本の大学は上位3位を取得していないものの、スコアを大きく改善したことで注目された。

総合ランキングにおいては、2021年に対象になった94の国地域にある1118校のうち、日本の大学は75校が対象。ランキングの101~200位には、広島大学、北海道大学、京都大学、岡山大学、東北大学、筑波大学、東京大学の7大学がランクインした。

なお、同ランキングでは総合的な評価だけでなく、SDGsの17の目標ごとのランキングも発表している。ランキングによる、日本の大学において躍進が目立ったのがSDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」であった。

分野別のランキングのうち、SDGs9では、東北大学が前年に引き続き、9位タイでランクインしている。

なお、「THEインパクトランキング」の発表は、今回で3回目だ。2020年は100位以内にランクインしている日本の大学もあったので、順位だけ見れば少し後退している。

しかし、大学全体でのSDGsの取り組みを評価するスコアは上がっており、日本の大学のSDGs達成に向けた取り組みは増加してきていると評価できる。

日本の大学が実施したSDGs達成に貢献する5つの取り組み事例

SDGsの達成を目指して、高等教育機関あるいは研究機関として、大学ではどのようなことができるのか。日本の大学がSDGsの達成に向けて進めている取り組みを5つ紹介する。

事例1.慶應義塾大学「キャンパスSDGs」プロジェクト

「キャンパスSDGs」プロジェクトに取り組んだ慶應義塾大学の事例を紹介する。「キャンパスSDGs」プロジェクトは、個々の学生がSDGsをはじめとした社会問題を知り、アクションを促すことを目的としたプロジェクトだ。

SDGsは国際目標ではあるものの、個々人の行動が目標達成に影響することに注目した。まずは人々に認知してもらおうというのがプロジェクトの趣旨である。

「キャンパスSDGs」プロジェクトでは、SDGsを身近に知ってもらうことに主眼を置き、ステッカー制作が行われた。制作されたステッカーは、2500枚。学生が集まる教室や食堂、トイレなど、キャンパスのあらゆるところに貼られた。

ひとめで見てわかるように、ステッカーにはSDGsのロゴのほか、ロゴに関連するターゲットと一言メモ、SNS連携も記載。認知するだけでなく、次の行動に移すきっかけを作ったこともポイントだ。

プロジェクト開始から数週間後の調査では、SDGsの認知度が高まったことがわかり、プロジェクトの成果が見られた。

事例2.早稲田大学「地球環境問題への貢献」

早稲田大学環境総合研究センターに設置された「W-BRIDGE」の事例を紹介する。

W-BRIDGEは、地球環境問題への貢献のため、早稲田大学と株式会社ブリヂストンとの共同で設置された。設置年は2008年で、SDGsが採択される前のMDGsの時代から存在することになる。

W-BRIDGEは、MDGsからSDGsへ目的を変化させた。「自然との共生」、「資源の循環の仕組み」、「2050年視点からの二酸化炭素の削減」、「環境保全の知見や手法の広がり」を主な目的としたプロジェクトを実施している。

プロジェクトは2009年1月から始動。1年単位で地球環境に注目した取り組みが行われている。第12期にあたる2019年7月から1年間は以下の分野での研究が行われた。

  • 天然ゴム生産やゴム農園周辺の森林保全
  • 森林減少をなくすためのサプライチェーン管理
  • 条件不利地域の公共交通モデル
  • SDGs達成を目指すアクションと社会価値の創設
  • 大規模環境破壊からの地域再生

事例3.東北大学「社会にインパクトのある研究」

SDGs達成に向けた取り組みとして、東北大学では「社会にインパクトのある研究」に取り組んでいる。

「社会にインパクトのある研究」とは、持続可能な世界を構築するのに必要な課題を整理し、東北大学の伝統や強みを活かして構成された分野統合と学際研究プロジェクト群のことだ。

2011年3月に起きた東日本大震災のあと、東北大学では全学年を対象にした「災害復興新生研究機構」が組織され、独自の取り組みへと発展した。

スタートしたプロジェクトのひとつ、災害科学国際研究推進プロジェクトにおいては、国際アジェンダの「仙台防災枠組」において貢献した。

さらに、国内外での防災強化において包括的なISO規格が必要なことから、防災ISO規格の作成にも取り組んでいる。

ほかにも、東日本大震災で地域の子どもたちが学習の機会を失われてしまった経験から、科学技術社会の未来の担い手となる次世代人材育成にも取り組むようになった。

カタール政府の協力で、「東北大学・カタールサイエンスキャンパス」の名で、子どもたちを対象にした体験型科学教室、教育セミナーといった、人材育成も実施している。

東北大学サイエンスキャンパスの体験型教室についてのインタビューはこちら

事例4.立命館大学「Sustainable Week」

立命館大学ではSDGsを体験できるイベント「Sustainable Week」の取り組みを行っている。2017年にスタートした日本初の学生主催のSDGs体験イベントで、2019年4月17日には学校法人立命館で「立命館SDGs推進本部」が設置された。

立命館SDGs推進本部設置の背景にあるのが、立命館学園の2030年に向けたR2030学園ビジョン「挑戦をもっと自由に」の体現だ。学園の設置校である2大学、4中学校と高等学校、1小学校の、学生、生徒、児童、教職員、卒業生まで、横断型の教育を実施している。

2020年においては、新型コロナウイルス感染拡大もあり、オンラインツールを最大限に活用して「Susteinable Week」が開催された。

期間中に配信された主なイベントは以下のとおりだ。

  • 大学の枠を超えた学生の交流
  • 地域でのSDGs視点の取材や記事の発信
  • オンライン授業の是非
  • 有機農法とSDGs
  • 地域密着活動とSDGs など

カジュアルなテーマとして、持続可能な恋愛やマジックショーなどもオンラインで配信された。

イベントの目的は、より多くの人がSDGsのような社会課題を自分ごとにしてもらうことにある。立命館大学のほかにも、多くの学生団体、企業の協力のもとイベントが実施されている。

事例5.北海道大学「食と健康の達人」

北海道大学は、筑波大学、北里大学ほか、30社を超える企業と機関とともに、「食と健康の達人」拠点をつくった。

本拠点が目指すのは、個々人の健康状態にあった食と運動によって、女性や子ども、高齢者にやさしい社会を実現することである。

少子高齢化の進む日本においては、子どもを出産する女性が安心して子育てができること、子どもが周囲に見守られて健康に成長できること。そして、高齢者が健康を維持しながら暮らし、病気になってもすみやかに社会復帰できる社会の構築が急務とされる。

そのために、北海道大学が必要と考えているのが、自分の健康がリアルタイムでわかること、未来の健康度を測れること、健康コミュニティがあることなど、人々が食と健康の達人になることだ。

実現のために、「セルフヘルスケアプラットフォーム」、「健康ものさし」、「美味しい食・楽しい運動」、「健康コミュニティ」、4つの研究開発テーマを掲げ、他大学や企業などと協力して研究や開発を進めている。

また、2020年9月には、北海道総合研究機構などと協力して、「フードロス削減コンソーシアム」も設立された。同組織では、食品のサプライチェーンにおいて、フードロス問題の解決と歩留まり(製造段階での良品の割合)向上による、製造段階でのロス削減を目指している。

SDGsの達成に向けて大学生にできる活動

ここまで、大学のSDGs達成に向けた取り組みは国際的にどのように評価されているのか、実際に大学ではどのような取り組みが行われているのか説明してきた。

大学という組織においてできる取り組みは大きいが、学生個人でもSDGs達成に向けた取り組みを行うことができる。大学生として、SDGs達成に向け、どのような取り組みができるのか、ここではふたつの取り組みを紹介する。

学習支援ボランティアに参加する

大学生である個人ができる取り組みのひとつが、学習支援ボランティアに参加することだ。教育の格差は、先進国と途上国の間だけではない。

日本では、親の経済力が子どもの進学や就職に影響することが問題となっている。貧困により十分な教育を受けられなかった子どもは就職が不利となり、収入の高い仕事に就けないことから貧困から抜け出せず、貧困の連鎖が生じてしまう。

近年では、子ども手当の支給、公立高校の無償化など制度が整備され、子どもが高等教育を十分に受けられる機会は増えてきたが、まだまだ十分とはいえない。これ以上の貧困の連鎖を生まないためも、学力格差を是正していくことが重要である。

学習支援ボランティアは、子どもたちに学習の機会を与えることで、子どもがチャンスをつかむ手助けとなるだろう。

無理のない範囲で募金や寄付を行う

無理のない範囲で募金や寄付を行うことも、SDGs達成に向けた取り組みのひとつになる。少額の募金であっても、募金額が集まればさまざまな支援ができるようになる。

数百円程度の募金でも、何十人分ものワクチンや栄養治療食といった物資を支援が必要な人々に調達できる。支援内容は保健や栄養以外にも、教育や人道支援など活動団体によって異なるため、関心のある団体を調べてみると良いだろう。

また、募金だけでなく、不要になった日用品や衣類を寄付するのも支援のひとつだ。日本ではまだ使えるものがどんどん廃棄されている。寄付する団体によっては住んでいる地域や社会にも貢献できるだろう。

大学卒業後もSDGsの活動は続く…

ここまで、日本の大学でSDGsの達成に向けて行われている取り組みをいくつか紹介してきた。「できることからはじめてみたい」、「SDGsにもっと興味を抱いた」という学生もいるかもしれない。

もちろん、取り上げた事例のように大学での取り組みは重要だが、SDGsの活動は大学在学中に限られた話ではない。

前述したように、SDGsは誰ひとり取り残さない社会を目指しているからだ。誰ひとり取り残さないためには、より多くの人がSDGsに関心をもち、取り組みを始める必要がある。

SDGsについて調べてみると、大学に限らず、企業や公共団体など、さまざまな組織がSDGsの達成に向けて活動していることがわかる。大学卒業後もSDGsの活動は続くだろう。

SDGsに取り組む企業へ就職する人は多い

大手企業をはじめ、今やさまざまな企業がSDGsのゴールに向けた取り組みを進めるようになった。外務省の運営する「JAPAN SDGs Action Platform」では、企業の取り組み事例を調べられるが、掲載されている企業だけでもかなりの数になる。

企業に就職してからも、SDGsの達成を意識した取り組みにふれる機会は十分にあるのだ。

また、最近では、就職先選びの新たな基準として「SDGs」を上げる就活生も見られるようになってきた。

社会に対する意識が高い企業という点でSDGsの達成に向けた活動を行っている企業は魅力的だからだ。

協和キリンの目指す持続可能な社会

協和キリンでも、CSV経営をとおして、積極的なSDGsのゴールに向けた取り組みを行っている。CSV経営のCSV(クリエイティング・シェアード・バリュー)とは社会と共有できる価値のことだ。

SDGsの取り組みをとおして、社会的価値の創造、経済的価値の創造の両立を行い、企業価値を上げるCSV経営を行っている。

協和キリンがSDGsと関連するCSVの重点課題として上げているのが、人権、職場づくり、環境、公正な事業環境、消費者課題、コミュニティだ。重点課題を軸に、協和キリンでは社会的な要請を認識し、適切な取り組みが行えるようにしている。

協和キリンのCSV経営についてはこちら

まとめ

2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に盛り込まれたSDGsは、政府機関だけでなく、さまざまな組織に広がりを見せた。

記事で紹介した慶応大学の事例などのように、大学でもSDGsの達成に向けての取り組みが行われている。学生間の認知度も高まってきているのではないだろうか。

SDGsの取り組みは、大学などの研究機関だけでなく、企業でも行われている。持続可能な開発を目的としたSDGsと企業の関係は、企業の将来性という点でも関心が高い。一部の就活生では重視する項目のひとつとなっており、企業とSDGsの関係は今後ますます注目が期待される。

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