社会との共有価値 【解説記事】SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」の現状と取り組み例

あなたは日常生活において、食べきれなかった食品を廃棄したり、着なくなった服をそのまま捨てたりしたことがあるのではないだろうか。こういった些細なことの積み重ねが、今地球に大きな負荷を与えることになっている。

2015年の国連サミットで採択されたSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )における17の目標のうち、12個目の目標として掲げられているのが「つくる責任 つかう責任」である。

この記事では、目標12の概要と取り組みについて解説していく。

SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」とは?

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )の17の目標のひとつ、目標12は「つくる責任 つかう責任」である。持続可能な消費と生産のための目標だ。概要と背景をそれぞれ説明する。

持続可能な消費と生産のパターンを確保する

経済成長はわたしたちの生活を豊かなものにした。しかし、今までのような生活を継続することはできない。人が豊かさを得ることと引き換えに、地球環境にさまざまな影響が及んだためだ。

そこで、SDGsでは目標12として「つくる責任 つかう責任」が設定されている。「つくる責任 つかう責任」とは、持続可能な消費と生産を構築するための目標だ。

持続可能な消費と生産を支えるための、省エネと資源効率の促進、インフラ整備、人々の生活の質の向上、環境にやさしい働きがいのある暮らしを意味する。つまりは、より少ないものでより多くを作り、より良い未来に変えていくことだ。

目標12では、“つくる人”である生産者から、“つかう人”である最終消費者まで、あらゆる人々を巻き込んだ供給連鎖(サプライチェーン)を重視している。

企業が持続可能な社会のためにつくる責任を果たすこと、消費者が持続可能な社会のために消費を理解し社会に参画することを期待して設定された。つくる側、つかう側、それぞれが責任を意識することが目標達成の第一歩である。

目標12のターゲット

SDGs12には詳細な目標として8つのターゲットが設定されており、それに加えてa~cの具体的な対策を3つ掲げている。

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12−1 開発途上国の開発状況や能力を勘案しつつ、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組み(10YFP)を実施し、先進国主導の下、全ての国々が対策を講じる。
12−2 2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。
12−3 2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。
12−4 2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物資質や全ての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。
12−5 2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。
12−6 特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する。
12−7 国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣行を促進する。
12−8 2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする。
12−a 開発途上国に対し、より持続可能な消費・生産形態の促進のための科学的・技術的能力の強化を支援する。
12-b 雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する。
12-c 開発途上国の特別なニーズや状況を十分考慮し、貧困層やコミュニティを保護する形で開発に関する悪影響を最小限に留めつつ、税制改正や、有害な補助金が存在する場合はその環境への影響を考慮してその段階的廃止などを通じ、各国の状況に応じて、市場のひずみを除去することで、浪費的な消費を奨励する、化石燃料に対する非効率な補助金を合理化する。

目標12の現状「多大な食品ロスの発生」

目標12の背景のひとつに多大な食品ロスの発生がある。世界における食品ロスの現状と、解決に向けてどのような目標が設定されているかを見ていこう。

世界の食料の3分の1が捨てられている

現在、開発途上国などでは食料不足や貧困が危惧されている。一方で、世界で生産されている食料のうち毎年3分の1は捨てられている現状がある。その量は13億トンにも及び、金銭的な価値としては1兆ドルに相当するといわれている。

廃棄される食料は野菜や果物の割合が多く、生産から消費までの過程で45%の量が腐敗したり傷んだりして捨てられている。

廃棄の要因には消費者や小売業者の管理不足や売れ残り、劣悪な輸送環境や収穫時の乱雑な作業、加工過程でのミスなどが考えられる。

食料に関連したエネルギー消費量は世界全体の約3割に相当し、食品ロスの量を考えると必要以上に使われている部分も多い。

食料は水分含有量が多いため、廃棄物として焼却処理する場合はよりエネルギーを必要とする。そのため、食品に関連した温室効果ガスの排出量も全体の2割以上を占めている。

食品ロスは天然資源を無駄に消費する行為であり、自然環境の悪化にもつながる。これが続けば、最終的には地球の食料供給能力の低下を招いてしまうだろう。

少しでも現状を改善して食品ロスを減らすためには、効率的な生産と消費者に届くまでの過程であるサプライチェーンを効率化することが重要だ。

安定した食料の確保は資源の効率的な活用にもつながり、エネルギーの消費を最小限に抑える効果にも期待することができる。

解決に向けた目標

多大な食品ロスの解決に向けた目標は、先に取り上げた12-3の目標だ。12-3では、2023年までに世界全体の食品廃棄物の半減と食料損失の減少をターゲットとしている。

日本でも、2000年度比で2030年度までに事業系の食品ロスを半減することが目標として掲げられた。

目標達成のために制定されたのが食品ロスの削減の推進に関する法律(食品ロス削減推進法)だ。令和元年10月1月施行された法律で、食品ロス削減を国民運動として取り組めるように制定された。

なお、食品ロス削減推進法では法第11条に基づいて、食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針が設けられている。

基本方針では、共通事項のほか、食品製造業、食品卸売・小売業、外食産業、農林漁業、消費者別に求められる役割と行動が示された。例えば、共通事項として定められているのは以下の事項だ。

  • 食品ロスの状況と食品ロス削減の必要性の理解
  • 食品廃棄物などの継続的計量
  • 包装に傷や汚れがあるが、中身に問題のない商品の販売
  • フードシェアリングの活用
  • フードバンク活動の理解と食品の提供

など

以上のように、それぞれの主体がどのような役割をもち、どのような行動をしていくべきかが具体的に設定されている。

目標12の現状「水質・土壌汚染」

目標12の背景には、世界的な水質汚染や土壌汚染の問題もある。水質汚染や土壌汚染の現状と解決に向けた目標について見ていこう。

水や土壌の汚染は深刻化している

水質汚染や土壌汚染は世界規模で問題となっている。それぞれの現状は次のとおりだ。

水資源を取り巻く現状

地球は水の惑星と呼ばれることもあり、水資源が豊富というイメージを持つ人も多いのではないだろうか。特に日本は水道インフラが整備されていることもあり、日頃から水が不足していると感じることは少ない。

確かに地球の大部分は海に覆われている。しかし、実際に飲用できる淡水は全体の3%に満たない。2.5%は南極などの氷河が占めているため、世界の人たちは0.5%の淡水を分け合っている状態だ。

しかも、淡水の70%は農業で使用されているため、直接的に飲用水として用いられている水分はごくわずかである。

淡水にアクセスできない地域に住む人々は10億人を超え、感染症の危険性が高い不衛生な水の使用などから死亡するケースも多い。また、水を確保するために数時間の労力を必要とすることや、高額な費用を要する場合などもある。
インフラを整備することで、手軽に安全な水を手に入れることができるようになるが、多額の費用が必要になるため簡単ではない。

水は貴重な資源であるにもかかわらず、化学物質や汚染物などの有害な廃棄物によって、世界的に水質汚染の問題が深刻化している。

基本的に淡水は自然の力によって濾過し浄化されているが、現状では水が再生するスピードを上回る早さで汚染が進んでいる。

そのため、個人単位での節水やゴミの削減、有害物質の廃棄をできる限り無くしていくことが重要だ。

土壌資源を取り巻く現状

工場跡地などの再開発によって、重機金属類や揮発性有機化合物などの土壌汚染が表面化するようになった。2020年度の土壌汚染の調査では、調査結果が報告された263件のうち114件と、約半数に土壌汚染が見つかっている。

参考:令和2年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果|環境省水・大気環境局別ウィンドウで開きます

土壌汚染の問題は、汚染が長期間にわたり続くことだ。特に揮発性有機化合物は土壌深くまで浸透し、地下水にまで汚染が拡散してしまう特徴がある。

汚染された土壌や地下水に直接または間接的に接することで、人や農作物、生態系にも影響が及ぶおそれがある。

解決に向けた目標

土壌汚染や水質汚染の解決に向けた目標が12-2と12-4だ。12-2では2030年までに天然資源の持続可能な管理や効率的利用を実現すること、12-4では2020年までに環境に配慮した廃棄物や化学物質の管理を行い、排出を大きく削減することを目標としている。

水質汚染に関して、日本で設定されているのが環境基本法に基づく環境基準だ。全国一律の基準として、公共用水域や地下水で項目ごとの基準値が定められている。

さらに、全国一律の対策として設けられているのが汚水の排出施設から公共用水域に排出される分についての基準だ。都道府県によっては、全国基準よりも厳しい基準を条例で定められていることもある。

土壌汚染対策として重視されているのは、汚染状況の把握と健康被害の防止措置だ。土壌汚染法により、調査後の汚染区域の指定と都道府県知事による除去等の指示、運搬等の規制が法律として制定されている。

目標12の現状「エネルギー消費の増大」

目標12の背景にはエネルギー消費の増大もある。世界のエネルギー事情と解決のための目標について見ていこう。

世界のエネルギー消費量は増加している

近年において、エネルギー関連の技術は世界的にも目覚ましい進歩を遂げ、効率的で省エネルギーな製品も多く生産されるようになった。

しかし、世界のエネルギー使用量そのものは増加傾向にある。

世界のエネルギー消費量は増加しており、石油換算で2019年には139億トンとなった。1965年以降は平均2.5%程度で年々増加している。

課題は増加するエネルギー需要への対応が難しいことだ。エネルギー資源は、将来的に枯渇するといわれている。テクノロジーの進化によって延長される余地はあるが、2020年時点の可採年数は、石油が53.5年、天然ガスが48.8年、石炭が139年とされている。

現在使用されているすべての電球を省エネタイプに切り替えるだけでも、年間に世界で1,200億ドルの節約になるといわれているが、国や地域の経済状況の違いや手間とコストなどから早急な対応は難しいだろう。

世界のエネルギーのうち29%が家庭で消費されており、二酸化炭素の排出量も全体の4分の1以上を占めている。そのため、大きな組織や企業だけではなく、個人レベルでの対策も重要だろう。

解決に向けた目標

目標12で解決に向けたターゲットになっているのが12-2と12-cだ。12-2では天然資源の持続可能な管理や効率の良い利用、12-cでは化石燃料の補助金の合理化が目標に設定されている。

日本における目標で関連性が高いのが「2050年までのカーボンニュートラル達成」だ。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出をできるだけ抑えたうえで、吸収や除去により全体として温室効果ガスの排出をゼロにすることだ。

カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーの導入や原子力発電の技術開発、火力発電の脱炭素化が進められている。

人類がいまの暮らしを続けるためには地球が1.7個必要

地球環境を改善させるためにはあらゆる取り組みが必要だが、目標や目安がなければ具体的な活動も行えない。

そこで注目されているのが、「エコロジカル・フットプリント」だ。エコロジカル・フットプリントとは、人の生活が自然環境にどれほど依存しているかを分かりやすく示した指標である。

エコロジカル・フットプリントの数値は国や地域によっても異なるが、石油などのエネルギー消費量や経済活動、人口などの影響を強く受けることから、基本的には先進国が高い値を示している。

エコロジカル・フットプリントから導き出されたのが、「人類が現状と変わらない生活を続けると地球が1.7個分必要」という答えだ。

資源の消費量が地球の生産量を超えたのは2019年7月29日とされ、この日は「アース・オーバーシュート・デー」と呼ばれている。このまま何の対策もしなければ、いずれ地球は枯渇状態になるといわれている。

エコロジカル・フットプリントにおいて、現在の日本は世界で38番目に大きな数値となっており、これはアメリカの0.6倍に当たるが、人口が遥かに多い中国の1.4倍に相当する。

日本国内の数値は2000年頃から減少傾向にあるが、それでも世界の人々が日本人と同じ生活をした場合、地球が2.9個分は必要になるといわれている。

そして、人間が過剰に資源を使い込む行為は、生態系や自然の破壊にもつながる。

世界的な環境保護団体が行った調査によると、地球上の生物の著しい減少が確認されている。1970年~2014年の間に、さまざまな生物の個体数が約60%減っており、数十年後には約100万種類の生物が絶滅の危機に瀕すると記載されている。

人類が資源を消費するスピードが早まったことで、伐採された森林は回復できず、多くのエネルギー使用で発生する二酸化炭素の排出量も増え、結果的に地球温暖化も進んでいる。

これらのような、さまざまな危険因子をエコロジカル・フットプリントによって数値化し具体的に把握することで、より明確な取り組みにつながるだろう。

エコロジカル・フットプリントについては、以下の記事でより詳しく解説している。

SDGsの目標12達成に向けた自治体と企業の取り組み事例

SDGsの目標12の達成に向けて、日本国内でもさまざまな活動が行われている。自治体における取り組みや企業における取り組みについて、いくつか事例を紹介したい。

自治体の取り組み

茨城県つくば市の取り組み

つくば市は、「つくる責任 つかう責任」における循環型社会実現のため、農作物を地元で作り消費する地産地消の取り組みを掲げた。地元での生産と消費は、生産農家の意欲向上、農地の活性化、フードマイレージ(食品の 輸送距離)の抑制を期待したものだ。

地産地消の取り組みが、地域でうまく循環できるように、つくば市は地産地消レストランの認定件数を2020年までに100件に引き上げることを目標として設定した。

石川県小松市の取り組み

石川県小松市は、目標12達成のため、2017年時点で21.5%のリサイクル率を2030年には35%に引き上げることを目標として設定した。

目標達成のための取り組みとしてまず取り入れたのが、ごみダイエットである。超過重量方式による指定ごみ袋を導入することで、市民の意識向上、分別やごみの減量化を図ってきた。

加えて食品ロスを減らすため、フードドライブ事業や食べきり運動も展開。焼却炉も発電機能を備えたものに造り替え、効率の良いエネルギー生産にも役立てている。

また、人口不足が進む同市では人手不足の解消が課題だ。問題解決のため、今後、外国人の住民が増えると予測される。同市に住むことで身に付けた知識を母国で役立ててもらうことも、国際協力の一環として期待されていることだ。

企業の取り組み

ユニクロの取り組み

大手衣料販売店のユニクロは、服のリサイクルやリユースを実施。服から服へのリサイクル、服から燃料・素材へのリサイクルのほか、支援としてリユースを行っている。

ユニクロのリユースは、店舗で回収した衣料を、ニーズに合わせて被災地や難民キャンプに届ける取り組みだ。限られた資源の循環と二酸化炭素排出削減に貢献している。

協和キリンの取り組み

協和キリンでは、生産・研究活動で使った機器を再利用等することによる産業廃棄物の削減や、研究活動に用いる実験道具の廃棄量削減を行っている。このような取り組みで、ゼロエミッション(最終埋立処分量を廃棄物発生量の0.1%以下にする)を毎年達成してきた。

また、グリーン購入を全社的に推進したり、「協和キリングループ調達基本方針」のもと、サプライヤーとのコミュニケーションにより協力関係を築いたり、地球環境に配慮した調達活動の実践も続けている。また、キリングループのグループ会社として、使用量がわずかであるものの生態系への影響が大きい原料であるパーム油にも着目し、持続可能なパーム油の利用を推進している。

SDGsの目標12の達成に向けて個人ができること

ここまで、SDGsの目標12に関して、地球規模での目標、自治体や企業が取り組んでいる目標達成に向けての取り組みを紹介してきた。

目標12の「つくる責任 つかう責任」は、つかう側である消費者も深く巻き込んだものであるため、わたしたち消費者も問題について意識する必要がある。ここでは、個々人でもできる取り組みをいくつか紹介しよう。

ゴミを減らす

ひとりひとりがゴミを減らす心がけをすれば、食品ロスを減らせるだけでなく、環境汚染の原因になるものも減らせる。具体的には、以下のようなことを意識して行動すると良い。

  • 買い物では再利用可能なバッグを利用し、ビニール袋はもらわない
  • 店頭で飲料を購入するときは詰め替え可能なボトルやコーヒーカップに入れてもらう
  • 食べきれる分だけを購入するよう心がける
  • 食品ロスになりやすい規格外の食品も購入する
  • 食品が余ったら冷凍して後日利用する

何を買うべきかよく考える

「つかう責任」は、自分の消費に責任をもつことだけでなく、商品の選択に責任をもつことでもある。日々使っている商品が、どのようにして作られているか、環境に配慮した取り組みを行っているか興味をもつことが重要だ。

商品を購入するときは、持続可能で環境にやさしい取り組みを実施している企業の商品を選ぶように心がける。消費者が、取り組みを実施している企業の商品を選択することで、より良い循環が生まれ、持続可能な社会の実現に一歩近づけるだろう。

まとめ

SDGsの目標12は、「つくる責任 つかう責任」で、生産と消費を持続可能なものにするために国際目標として設定された。目標12は、ごみの問題、購入する商品の選択など、日々の暮らしにも深く結びついている。消費者は、生産者の取り組みに意識的に目を向けることが必要だ。

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