社会との共有価値 【解説記事】風力発電の特徴とは?わずか0.87%の導入割合を上げるには

世界的に枯渇性エネルギーから再生可能な次世代エネルギーへの転換が進んでいる。枯渇性エネルギーは埋蔵量の決まっている原料由来のものを指し、石炭や天然ガスなどのほか、ウランを使用した原子力エネルギーも含まれる。

一方の次世代エネルギーは、太陽光や水力、地熱など自然界より生み出されるエネルギーのことだ。

緑に恵まれた日本においても、さまざまな次世代エネルギーの導入が進められている。広く知られるエネルギー生産方法のひとつが風力発電だ。

そもそも風力発電とは?

日本における自然エネルギーを利用した発電方法といえば、太陽光発電を思い浮かべる方が多いだろう。太陽光と同じく、環境負荷の軽減が期待できる発電方法として、風力発電も日本各地で導入が進んでいる。

北海道や青森県、鹿児島県など、多くの地域で風力発電用の施設が稼働している。風力発電と一口にいっても、発電方法は設置場所によってさまざまだ。

ここでは風力発電とはどのような仕組みなのか、日本国内における導入状況とともに解説する。

風の力を使って電気をつくりだす発電方法

風力発電とは風を活用した発電方法を指す。巨大なブレードと呼ばれる羽で風を受け、風車内部のタービンを回転させることで発電する仕組みだ。ブレードと接続されている軸部分には増速機がついており、一見緩やかに見える回転でも効率的な発電ができる仕組みになっている。

風の運動エネルギー量は受けるブレードの幅に比例する。よって風力発電用の風車も巨大で、回転するブレードも1本で旅客機に匹敵するほどのサイズだ。風車全体のサイズは、陸上風力用でおよそ30階建てのビルに相当する。

現在、日本各地で運用されている風力発電機(風車)は陸上風力が主流だ。一方で、近年は洋上風力の開発も進んでいる。

陸上風力

風力発電機や運転監視施設、変電所など関連施設がすべて陸上に設置されたタイプのこと。上空の強い風や広大な土地を必要とすることから、山頂部や高原などに設置されるケースが多い。

洋上風力

風力発電機が(海底に固定する形で)洋上に設置されており、運転監視施設などは陸上に設置されているタイプを指す。変電所は風力発電機付近に同じく洋上へ設置されている場合もあれば、運転監視施設などとともに陸上へ設置されていることもある。洋上と陸上の施設はそれぞれ海底の送電・通信ケーブルでつながっている。

陸上風力と洋上風力、それぞれの構造に大きな違いはない。洋上風力には保守管理時にボートで近付けるように着船設備が取り付けられている程度だ。

相応のスペースを要するものの、環境負荷が少ないことから風力発電はクリーンエネルギーのひとつとして注目されている。クリーンエネルギーとは、二酸化炭素や窒素酸化物、放射能廃棄物など環境負荷の原因となる物質の排出がない、または少ない方法で生み出されるエネルギーの総称だ。

風力発電のほかにも、世界的に注目されているクリーンエネルギーは複数あげられる。クリーンエネルギーの種類や課題についての詳細は、下記の記事を参照していただきたい。

日本の風力発電の割合はわずか0.87%

日本においては、2020年末時点で2,554基の風力発電機が導入されており、うち3割は東北地方が占めている。

参考:資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告別ウィンドウで開きます

一方で、生産されているエネルギー全体のうち、風力発電は1%にも満たない割合だ。日本におけるエネルギー生産の主力となっているのは火力発電であり、全体の71.7%を占める。

前述のとおり2,000基以上の風力発電機が設置されているが、需要を考えると十分な数とはいえないのが現状である。風力発電の活用が進まない要因としてあげられるのは、日本の地形が複雑であることや、設置できるような平地が少ないことなどだ。

風力発電のメリット

1997年度より実施された国の設備導入支援をはじめ、多くの後押しにより、国内における風力発電導入は着々と進んできた。風力発電が注目される理由のひとつは、下記にあげる複数のメリットである。

燃料を必要とせず二酸化炭素を排出しない

前述のとおり、風力発電は自然界の風力エネルギーをブレードで受け、タービンを回すことでエネルギー生産を行っている。火力発電のように発電時に石炭などの物質を燃焼させる必要がなく、二酸化炭素が排出されない。

発電方法ごとに二酸化炭素の排出量をまとめると、下記のとおりである。

発電方法 二酸化炭素排出量(g-CO2/kWh)
火力 474~943
太陽光 38
風力 26
原子力 19
地熱 13
水力 11

参考:一般財団法人日本原子力文化財団「【2-1-09】各種電源別のライフサイクルCO2排出量別ウィンドウで開きます

火力の二酸化炭素排出量に幅がある理由は、使用する燃料(石炭、天然ガスなど)によって排出量が異なるためだ。

上記の表では、太陽光や風力などいわゆるクリーンエネルギーに該当する発電方法も二酸化炭素を排出しているが、発電にともなうものではなく、監視施設など関連設備の建設や保守運用の際に発生するものだ。

ほかのクリーンエネルギーと同じく、風力発電機のエネルギー生産そのものにともなう二酸化炭素の排出はない。

変換効率が良い

風力発電を利用するためには、風力発電機の軸部分に設置したタービンの回転エネルギーを電気へ変換させる必要がある。

運動エネルギーを電気エネルギーに変換するとき、どの程度の割合で変換できるのかを表すのが変換効率だ。

風力発電のエネルギー変換効率は、発電機に取り付けられたブレードの大きさなどによって多少異なるが、最大で30〜40%程度だ。火力発電が35〜43%程度のため、大差ないことがわかる。

発電コストがかかりにくい

風力発電の発電コストは、現時点では課題があるものの、今後、コスト低減が期待されているのも大きな特徴だ。年々、風力発電による発電コストそのものが下がりつつある。行政が発表した2020年の試算と2030年の見通しも下記のとおりだ。

2020年の発電方法ごとのコスト
発電方法 発電コスト(円/kWh)
火力(石炭・LNG・石油) 10.7~26.7
太陽光(事業用・住宅) 12.9~17.7
風力(陸上・洋上) 19.8~30.0
原子力 11.5~
地熱 16.7
水力(小・中) 10.9~25.3
2030年の発電方法ごとのコスト見通し
発電方法 発電コスト(円/kWh)
火力(石炭・LNG・石油) 10.7~27.6
太陽光(事業用・住宅) 8.2~14.9
風力(陸上・洋上) 9.8~25.9
原子力 11.7~
地熱 16.7
水力(小・中) 10.9~25.2

(参考:資源エネルギー庁「電気をつくるには、どんなコストがかかる?別ウィンドウで開きます」)

上記の表は、行政発表の数値をもとに発電方法ごとにまとめた数値である。例えば火力発電など、使用する燃料が複数ある場合は、最低値と最高値を表記した。

2030年に予想されている風力発電の発電コストは、2020年時点の試算よりも大幅に低減していることがわかる。傾向としては陸上風力の方が大きくコストを落としており、1 kWh あたり19.8円だった数値が半値以下の9.8円まで低減する見通しだ。

今後の技術発展および普及率によっては、さらなるコストカットも期待できる。

夜間も発電できる

代表的なクリーンエネルギーといえば、住宅にも設置できる太陽光発電があげられる。風力発電と同じく、発電時は二酸化炭素を排出しない。一方で、太陽光がない曇天や夜間は発電そのものが不可となる。

しかし、風力発電の場合は曇天や夜間でも問題なく発電できる。あくまで必要なのは風の運動エネルギーのみである。

時間を問わず、適切な風さえ吹いていれば発電が可能だ。

風力発電の課題点

企業のみならず個人レベルで環境問題への配慮が求められる現代において、風力発電をはじめとするクリーンエネルギーへの注目度が高い。しかし、自然を利用する以上、さまざまな課題点もある。

風力発電に関する課題点として、次の2点があげられる。

安定した発電が難しい

風力発電機は、風の力によってブレードが回転しなければエネルギーは生産されない。発電量が天候に左右されるため、安定供給が困難な方法である。

安定性の危機を考えるうえで参考となるのがオーストラリアの例だ。2016年、南オーストラリア州では風力発電が全供給量のうち5割を占め、火力発電が2   割、残りの3割は近隣の州から電力供給を受けて賄っていた。

9月に複数個所で落雷が発生し、送電線が損傷した結果に起こったのが急激な電気の品質・流れの変化である。電気の品質に明確な定義はなされていないが、周波数や電圧、フリッカなどのパラメータを用いて表される。本来、維持すべき電気の品質レベルは、電気事業法施行規則44条によると、「標準電圧100Vの場合、101Vの上下6Vを超えない値、標準電圧200Vの場合、202Vの上下20Vを超えない値」とされている。

南オーストラリア州では、これらの電気の品質や流れが何度も変化したため、設備を守るために風力発電機は稼働停止され、電気の質低下による影響を懸念した近隣の州によって、連携線も閉鎖された。

唯一稼働できた火力発電のみでは十分な供給が叶わず、出力増加も間に合わなかった結果、大規模停電を招いた。

膨大な需要に対して適切な電力量を安定的に供給するためには、天候の影響を減らす技術が不可欠だ。南オーストラリア州のように、落雷によって送電や発電そのものが止められる状態は安定性があるとはいえない。

加えて、万が一送電線の損傷が起こった際に、電気の品質および流れの変化にも対応できるような技術の発展や対処法の確立が求められる。

設置できる場所が限られる

風力発電所の設置には広大な面積の土地が不可欠だ。加えて、安定的に発電が期待できるほどの風況がある環境でなくてはならない。年間平均風速で表すと、風力発電機の設置には7m/秒以上の風況が必要である。

日本国内において、7m/秒以上の風況を得られる地域は少ない。さらに地形の複雑さ、台風や地震の多さも影響して、設置できる場所は必然的に限られてしまう。

しかし、2021年に開催された「再生可能エネルギーの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会」によって、下記のとおり風力発電所の規模要件を緩和することが決定した。

環境影響評価法の対象となる、風力発電所に係る規模要件

  • 第一種事業:「1万kW以上」から「5万kW以上」に改正
  • 第二種事業:「7,500kW以上1万kW未満」から「3万7,500kW以上5万kW未満」に改正

引用:環境省「「環境影響評価法施行令の一部を改正する政令」の閣議決定及び意見募集の結果について別ウィンドウで開きます

2021年10月よりすでに適用されており、旧条例では新規の風力発電所を設置できなかった地域にも新たな検討候補地へ加えられるようになった。今後は新たに設置可能となった地域を中心に、風力発電所の建設が行われる可能性が大いにある。

まとめ

風車しかり、水車しかり、古より風や水などの自然エネルギーを活用する考え方は多くの国や地域に存在していた。かつて製粉や精米などの装置を直接動かす動力として利用されてきた自然の力は、近代技術によって電気エネルギーを生み出す手法のひとつとなり、現在もなお活用されている。

一方で、自然エネルギー頼りの発電方法は天候に左右されやすいという課題がある。持続的な社会を作るために風力発電などのクリーンエネルギーを利用する場合は、課題やデメリットも考慮したうえで適切に運用することが重要だ。

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