社会との共有価値 【解説記事】【SDGs】目標8「働きがいも経済成長も」とは?世界・日本・個人の取り組み

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )の達成を目指して17の目標が掲げられており、世界各国では達成に向けたさまざまな取り組みを行っている。

その中でも目標8は「働きがいも経済成長も」と題されているもので、労働環境や生産性、経済成長や労働者の健康問題など幅広い面に関わりがある課題だ。

では、働きがいも経済成長も実現するには、なにを目的にして行動を起こせば良いのだろうか。

この記事では、国や自治体、企業の取り組み事例について触れながら、私たちが個人で貢献できることについて考える。

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは?

SDGs目標8の「働きがいも経済成長も」とは、なにを意味する目標なのだろうか。まずは目標8のターゲットや働きがいのある人間らしい雇用とはなにか説明する。

すべての人に生産的で働きがいのある雇用を

目標8は、すべての人に生産的で働きがいのある雇用を実現する目的で設定されたものだ。包括的かつ持続可能な経済成長には、すべての人の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)が必要との考えをもとに、目標8は設定されている。

スキルが身につかない単純労働や低賃金下で働かせる雇用は、人間らしい雇用にならないうえに生産的な労働活動とは程遠い。

目標8では、達成に向けて以下のようなターゲットが設定されている。

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8-1 各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。
8-2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
8-3 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。
8-4 2030 年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する 10 年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。
8-5 2030 年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。
8-6 2020 年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。
8-7 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終わらせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025 年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。
8-8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
8-9 2030 年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。
8-10 国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。
8-a 後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。
8-b 2020 年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する。

数字で示されているものは項目ごとの達成目標であり、アルファベットで示されているものは達成に向けた手段である。

では、目標8のターゲットが設定されたのは、なにが理由になっているのだろうか。

働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)とは?

SDGs目標8は働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)が必要との考えがベースになっていると説明した。日本において、ディーセント・ワークは、次の4つの戦略目標を達成することで実現できると考えられている。

  1. 仕事の創出
    国や企業が仕事を作り出す支援をすること
  2. 社会的保護の拡充
    安全で健康に働ける職場の確保と生産性の向上を図ること
  3. 社会対話の推進
    職場の紛争などを平和的に解決するための政・労・使の対話を促進すること
  4. 仕事における権利の保障
    不利な立場にある人を守るための権利の保障すること

ディーセント・ワークについてはこちらの記事で詳細を取り上げている。

目標8が生まれた背景

なぜ、SDGsで目標8が設定されることになったのだろうか。目標8設定の背景には、失業者の増加、児童労働、男女の就業格差がある。

失業者の増加

目標8が生まれた背景には、世界的な失業者数の増加がある。2000年に1億8,000万人だった世界の失業者は、2017年には2億100万人を超えた。

さらに、働いていても貧しい人は2017年で14億人にのぼり、これは全就業者の4割強だといわれている。

世界人口の約半数が1日約2ドル以下で生活している現状からも目を背けられない。

これは、仕事をもつすべての人が必ずしも安定した生活ができるとは限らず、強制労働や低賃金といった労働力の搾取が横行していることが原因のひとつだろう。

失業や貧困は社会不安の増大や他国への移民増につながる問題でもあり、結果的に国の経済成長を鈍化させる要因にもなりうる。

児童労働

2016年には5~17歳の子どもの10人に1人(1億5,200万人)が児童労働をしており、児童労働における課題も解消していかなければならない。

意思に反する強制労働による児童の成長や教育の阻害要因となる児童労働は、人権侵害であるためだ。

児童労働が行われている背景には、親が収入を満足に得られておらず、生活のためにやむを得ず働きに出ているケースも少なくない。

また、児童労働は教育機会が得られなくなり、安定した収入が得られる職業へ就くために必要な知識が得られず、貧困スパイラルから抜け出せなくなる要因と指摘する声もある。

世界の紛争や災害の影響を受ける国々では、15歳~24歳のうち読み書きができない人の数はおよそ10人に3人といわれており、世界の非識字率の3倍にものぼる。

男女の就業格差

男女の就業格差の問題も背景にある。家事やケア労働の負担が女性に偏りやすく、それが女性の労働市場への参加を阻んでいるためだ。

女性の家事やケア労働の負担が特に大きいのは南アジア、西アジア、北アフリカで、1995年以来、男女の労働参加率の差はなかなか埋まってこなかった。

日本においては、近年、男女ともに就業率が伸びており、2020年の15~64歳の就業率は、男性が83.8%、女性が70.6%となっている。女性に関しては、2020年に減少へと転じたものの、2013年以降は増加している形だ。しかし、OECD諸国と比べるとまだまだ男女間の就業格差には開きがある。

就業率だけでなく、女性の給与水準の低さも大きな課題だ。2020年では、男性を100としたときの女性の所定内給与額の水準は74.3で、男性より25.7ポイント下回っている。

出典:第1節 就業をめぐる状況|男女共同参画局別ウィンドウで開きます

SDGs8の達成に向けた世界の取り組み

SDGs8のターゲットや目標設定の背景について説明してきた。それでは、SDGs8の達成に向けて世界ではどのような取り組みが行われているのだろうか。ここでは、アフリカやドイツの事例を取り上げる。

【アフリカ】低所得者の口座開設支援

アフリカ諸国では、地方から都市部、あるいは海外へ出稼ぎに行く労働者が多い。しかし、そうした途上国では、先進国のような銀行の支店やATMが存在しないことも多く、銀行口座自体を所有しない人も多く存在している。

近年、アフリカ諸国などで広がりを見せているのがモバイル送金サービスだ。携帯電話を利用して、預金・引き出し・支払いなどの取引が可能となっている。

特に、途上国では主流のプリペイド式のSIMカードにも対応しているモバイル送金サービスの普及が著しい。モバイル送金サービスにより、これまで銀行口座を持っていなかった貧困層も金融取引へアクセスしやすくなった。

【ドイツ】移住労働者への支援

ドイツは、外国人の流入がアメリカに次いで多い国である。移民の流入数の増加により、ドイツ語能力が十分にない人も相当数となった。

ドイツ語能力が十分にない移民が増えることで、コミュニティ内での無理解や誤解が生じやすくなる。このような社会におけるコミュニケーションの問題を減らすため、ドイツをはじめとしたヨーロッパ諸国では言語問題の解決が図られた。

ドイツで進められた政策のひとつが、ドイツ語の授業「統合コース」の実施である。コミュニケーションの問題や就業問題解決のため、ドイツ語能力が十分でない移住労働者に向けたドイツ語の教育が進められてきた。

SDGs8の達成に取り組む企業事例

ここからは、SDGsの目標8達成に向けて取り組む企業の事例について紹介する。

日本郵政株式会社

日本郵政株式会社では、働きやすい職場づくりを行っている。時間外労働の削減やテレワークの推進など、多様な働き方に対応できる仕組みづくりにも積極的だ。

また、ダイバーシティの推進として女性の活躍推進による女性管理職比率アップや、高齢者や障害者の就業促進にも力を入れている。

さらに、労働者の意欲や働きがいの向上につながる人材育成も積極的で、企業の成長に貢献できる人材育成を行い、継続した企業成長の実現に向けて取り組み続けている。

フィード・ワン株式会社

フィード・ワン株式会社では、働き方改革として有給休暇の連続取得や時間単位での取得など、労働者が有給休暇を取得しやすい仕組みを構築して取得推進を行っている。

また、育児や介護のための短時間勤務や復職制度の設置など、継続して働きやすい環境整備にも積極的だ。

社員教育制度では、ステップアッププログラムによって階層別に適切な人材育成を行う仕組みを取り入れている。

さらに参加費の一部が国連WFPの学校給食支援にあてられる「WFPウォーク・ザ・ワールド」というチャリティーウォークにも参加している。

協和キリン

協和キリンでは、職位や目的に合わせた人材育成プログラムを設定し、独自の人材育成制度を設けている。

女性育成研修や年齢別キャリア研修、自己啓発支援などにも積極的だ。また、スマートワーク推進プランを策定し、働き方改革にも取り組んでいる。

労働時間管理への啓もう活動、労働時間の管理・意識調査などの職場状況の見える化、働き方に関する制度やルールの見直しなどが一例だ。

社員一人ひとりが、効率的な働き方や適正な労働時間管理に関する意識を高められる工夫を取り入れている。

「働きがいも経済成長も」を達成するために私たちができること

目標8の「働きがいも経済成長も」の達成は、途上国だけの問題ではない。日本でも長時間労働の是正やワークライフバランスの推進など、働き方の見直しが進められている。

ここからは「働きがいも経済成長も」を達成するために、私たちにできることについて紹介する。

普段から購入する企業を選ぶ

企業には多くの人が労働に従事しており、企業の商品やサービスを購入することは企業の応援につながる。

そのため、企業がどのような課題に対して取り組んでいるのか、積極的に情報を公開している企業を応援することであれば個人にもできる貢献だ。

働き方改革を推進している企業だけでなく、商品の売り上げの一部を途上国の教育支援に寄付している企業なども良いだろう。

フェアトレード認証の商品を選択することも、児童労働や違法な労働に頼らない企業の支援になる。フェアトレード認証商品は、主に立場の弱い開発途上国の生産者から適正な価格で取引された原材料などで作られた商品であるためだ。

ESG投資をする

目標8達成のために私たちにできることのひとつが「ESG投資」だ。ESG投資は、財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を考慮して収益を追求する投資のことを指す。

大きな資産を超長期で運用している機関投資家から広まった概念で、企業経営のサステナビリティ(持続可能性)を評価するものだ。

ESG投資によって、企業の人権や雇用、従業員への配慮など、目標8達成に欠かせない労働面での企業対応が評価されることになる。

日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG 指数に基づく運用を開始しており、個人向けの上場投資信託(ETF)の販売もスタートしている。

ESG投資を個人でも行うことで、目標8達成のために貢献することができるだろう。

まとめ

SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」を達成するためには、各国それぞれの労働環境や教育の課題に取り組む必要がある。

企業で行われている労働面への対応や環境整備に協力すること、世界で活動している支援組織に寄付を行うことであれば、私たち個人でも貢献できるのではないだろうか。

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