People & Culture 【解説記事】SDGs6「安全な水とトイレをみんなに」の達成により改善されることとは

日本では水を安心して使える環境が整っており、トイレも清潔に利用できるよう整備されている。しかし、世界的に見ると、このように恵まれた環境を持っている国はごくわずかである。

2030年の国際的な達成目標として、2015年の国連サミットで掲げられたSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )には17のゴールが示された。17の目標のうち、目標6として掲げられているのが「安全な水とトイレをみんなに」という水質汚染など水に関する目標である。

目標6は具体的にどのようなゴールを表しているのか、SDGsの目標6の概要と取り組み事例を紹介する。

SDGsの目標6「安全な水とトイレをみんなに」とは?

生命の源である水は人間が生きていく上で必要不可欠だ。日本はインフラが充実しているが、世界に目を向けると世界人口の40%は水不足の状態での生活を強いられている。

また、トイレがなく屋外で排泄する人は全世界で7億人近く存在しており、不衛生な環境も人に悪影響を与える問題だ。

感染症を引き起こす危険な水を飲料水として使用しなければならない地域も多く、安全でアクセスしやすい水の確保は世界的な課題である。

今後は温暖化などの影響を受けてさらに問題が深刻化することが予想されており、SDGsとしても2030年までにすべての人が水を安全に利用できることを目標に掲げた。

SDGs目標6が目指すターゲット

  • 6.1 2030年までに、すべての人が安全で手軽に飲料水を確保できる状態にする。
  • 6.2 2030年までに、すべての人がトイレで排泄できる設備を整える。特に女性や女の子、弱い立場の人が何を求めているかに注意を向ける。
  • 6.3 2030年までに、汚染を減らしてゴミの投棄をなくし、自然に有害な化学物質の放出は最小限に抑え、未処理の排水を半分にしながら、世界的に水を安全に利用・再利用できる仕組みを作ることで水質を改善する。
  • 6.4 2030年までに、水の利用効率を全体的に改善し、持続可能な方法で淡水を利用して水不足に悩む人の数を大きく減らす。
  • 6.5 2030年までに、国境に関係なく協力し合い、あらゆるレベルで統合して水源管理を行う。
  • 6.6 2020年までに、山、森林、湿地、川、地下水のある地層、湖や沼などの水に関連する生き物の保護と回復を実施する。
  • 6.a 2030年までに、海水など集めた水を淡水化する方法や、効率的な水の利用、リサイクルや再利用技術など、開発途上国の水や衛生に関連する活動や計画に対して国際的に協力して能力構築を支援する。
  • 6.b 水やトイレなどの衛生管理ができるよう、地域コミュニティへの参加を支援して強化する。

SDGs6で解決すべき現状の問題

現在起こっている水やトイレに関する問題について確認しておこう。

世界中の4人に1人が安全な水を使えない

2020年時点において、世界の20億人が安全に管理された飲み水を使えず、このうち1億2,200万人が未処理の地表水を使用している。まだまだ安全に管理された水を手に入れられない人も多いのが現状だ。

それでは安全に管理された飲み水とはどのような水なのか、水に関して定義されている以下の6つの分類をもとに紹介する。

  • 安全に管理された飲み水:排泄物や化学物資の汚染がない改善された水源から得られる飲み水。自宅で必要なときに入手可能な水。
  • 基本的な飲み水:自宅から往復30分以内(待ち時間含む)で調達できる改善された水源から得られる飲み水。
  • 限定的な飲み水:自宅から往復30分(待ち時間含む)を超えて調達できる改善された水源から得られる飲み水。
  • 改善された水源:水道をはじめ、外部汚染から十分に保護された構造を備える水源。
  • 改善されていない水源:井戸や地表水など、外部からの汚染から十分に保護されていない構造の水源。
  • 地表水:川や湖、池などにある水 。

このうち、安全に管理された飲み水の利用は2000年の62%から2020年には74%に増加した。これにともない、基本的な飲み水、改善されていない飲み水、地表水の利用割合は減少してきている。

しかし、サハラ以南のアフリカ、アジア各地においては未だ水の整備が十分でない。特に、サハラ以南のアフリカでは地表水を直接利用している人口が多く、安全に管理された飲み水の供給が不足している状況だ。

出典:ユニセフの主な活動分野|水と衛生別ウィンドウで開きます|unicef

人口の半数が安全なトイレが使えない

ユニセフのデータ(家庭用飲料水、衛生、衛生に関する進展2000—2017)によると、2017年の時点で42億人もの人たちが衛生的なトイレを使用できていないことが分かった。

これは世界人口の半分以上の人数だ。その多くは農村部の地域で、後発開発途上国では基本的なサービスも不足しているほど深刻な地域も多い。

トイレが使えない環境では、生活に関わる周辺が不衛生な状況になるため健康状態に支障をきたすことがある。

また、周囲が汚染されている場合は安全な水を確保するために遠方へ汲みにいく必要があり、勉強や仕事など生活を豊かにする活動に時間を割くことが難しくなる。

当然、不衛生な環境での生活は命に関わる可能性があるため、衛生的にトイレが使える設備を整えることは、その地域で暮らす人々の命を守るためにも重要である。

水質汚濁・水質汚染

安全な水を確保するために設備を充実させることは大切だが、同時に水質の悪化を食い止めることも必要だ。

人間の手によって管理されていない河川や湖は、生物の排泄物で汚れていたり、菌や寄生虫が発生したりすることで飲み水としては危険性もあり不適切である。

しかし、人が生活する中で排出しているゴミや工場の排水などが原因で水質汚濁・水質汚染が進行している現状も忘れてはいけない。

これはインフラが整っている日本でも見逃せない問題で、国内は河川・湖沼が都市用水の水源の75%を占めている。そこで、水質汚濁防止法や湖沼水質保全特別措置法などの自然を守る規制が行わるようになった。

自然が汚染されると生活用水の確保が難しくなるため、開発途上国でも規制や法律の整備が重要となっている。

SDGs6は日本にとっても重大な課題のひとつである

ここまで全世界の水問題について触れてきたが、日本においても水は重要な課題のひとつに位置付けられている。

1人が1日に使う水の量は平均214リットル

家庭で1日に使用する水の量は、1人につき平均214リットルといわれている。単純計算すると、4人家族なら1日に約856リットルもの水が使用されるということだ。

実際、水を使用するシーンは、手洗いや、歯磨き、食器洗い、入浴や洗車など日常生活のなかで頻繁にある。それぞれの用途別に1人が使用する水の量の目安は以下のとおりだ。

この表はスクロールしてご覧いただけます

用途 使用量の目安 使い方(1分間で約12リットルの水が流れると仮定)
手洗い、洗面 約12リットル 1分間流しっぱなしで使用する場合
歯磨き 約6リットル 30秒間流しっぱなしで使用する場合
食器洗い 約60リットル 5分間流しっぱなしで使用する場合
シャワー 約36リットル 3分間流しっぱなしで使用する場合
洗車 約90リットル 流しっぱなしで洗車した場合

出典:東京都水道局|もっと知りたい「水道」のこと別ウィンドウで開きます

渇水が起こる可能性がある

水資源賦存量(ある国などで水をどれだけ使えるか)を人口1人当たりの数値に換算した数値を水ストレスという。日本は、インフラが整備されており、世界の国々や地域と比較すると水ストレスは少ない。

しかし、日本でも東京などの人口が集中する地域では水ストレスが高くなることがある。人口密集地域での水ストレスを回避するために、郊外や他県に貯水池を造って賄っているが、枯渇する可能性もあるためだ。

東京を例に挙げると、群馬県に貯水池を造っているが不足する可能性もある。群馬県の貯水池は数ヶ月雨が降らなければ枯渇してしまうためである。

このように、日本においても天候によっては渇水が起こる可能性があることも理解しておかなければならない。

他国の水資源を消費している

日本は、他の先進国と比べてひとり当たりの水資源の必要量が少ない。これは、日本が節水に取り組んできたからではなく、バーチャルウォーターによって水不足を間接的に回避しているためだ。

バーチャルウォーターとは、農畜産物を輸入することを水資源的観点から、水を輸入しているのと同様とみなした言葉だ 。

農畜産別のバーチャルウォーターの輸入量は、小麦17.6億㎥/年、大豆15.6億㎥ /年、とうもろこし21.5億㎥ /年に及ぶ。

このようなバーチャルウォーターの輸入量に国内の水資源の利用量を加えると、ほかの先進国よりも水資源を消費していることになる。

出典:第2章 水の需給の動向別ウィンドウで開きます|文部科学省

世界のSDGs6達成に向けた取り組み

SDGs6の達成に向け、世界ではさまざまな取り組みが行われている。実際に行われている取り組みについて、ウォーターエイドとユニセフを例に紹介しよう。

ウォーターエイドの取り組み

ウォーターエイドはイギリスで設立された国際NGO団体で、世界34ヶ国に拠点を置く。ウォーターエイドの活動の特徴は、水の問題を抱える現地に合った解決策を実行することだ。

根本的な原因の見極め、住民の参加、政府などの能力向上、システムの強化を重視し、問題の解決にあたっている。物資や資金の支援をするだけでなく、問題を抱える地域が今後継続して安全な水を利用できるような取り組みを実施しているのが特徴だ。

たとえば、技術面であれば、電気ポンプ、ソーラーポンプ、ピット式簡易トイレなど、現地で入手しやすくメンテナンスしやすい技術を提供している。

また、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大したことを受け、感染対策としての活動も開始した。

後発開発途上国の人口の約3/4は、清潔な水と石鹸などで手を洗える設備がなく、感染予防として効果的な手洗いが行えない人が多く存在している。

そこで、安全な水の確保だけではなく、手洗いができる設備の充実と衛生習慣を普及するための取り組みも実施しているのである。

ユニセフの取り組み

ユニセフでは、2030年までに世界中のすべての子どもたちが身近な場所で清潔な水を使えるようになるのを目標に、以下のような取り組みを行っている。

  • 給水設備の設置
    家の近くで安全な水を入手できるように、井戸などの給水設備を設置している。これまで水汲みに費やしていた時間を学校に通うなどの教育に充てることができる。
  • トイレの設置
    現在、世界では36億人もの人が、安全に管理されたトイレを使用できていない。うち4億9,400万人は、家の近くに利用できるトイレがなく、草むらや道ばたなどに用を足しているのが現状だ。そうした状況を改善するため、トイレの設置を進め衛生的な生活を送れるようにしている。
  • 衛生習慣指導
    学校などで石けんを使った手洗い方法などを指導して、衛生習慣を身に付けられるようにサポートしている。地域にできた井戸も、子どもたちが自ら係を決めて清掃するため、井戸を長く大切に利用できる。

日本国内のSDGs6の取り組み

日本でもSDGsの推進を実施しており、より効率的に活動を広めるためには企業の協力が必要である。国内企業がSDGs6を達成するために実施している取り組みについて一部紹介しよう。

ユニセフ×LIXILの取り組み

2018年にユニセフと企業のパートナー支援のためにLIXILとの連携が開始された。

ユニセフとLIXILがそれぞれの強みを活かしながら活動を実施し、協力して世界の環境を大幅に改善することを目指している。

パートナーシップは「Make a Splash!みんなにトイレを」と名付けられ、SDGs6のターゲット6.2「2030年までに、すべての人がトイレで排泄できる設備を整える。特に女性や女の子、弱い立場の人が何を求めているかに注意を向ける。」は特に重視されている。

活動内容としては、衛生市場を確立しながら低価格で安全なトイレを提供するため、エチオピア・タンザニア・ケニアの3ヶ国でプログラムが開始された。

より一層プログラムが拡大できるよう、LIXILは資金調達と啓発活動も同時に行いながら支援を続けている。

コカ・コーラの取り組み

コカ・コーラ社は水を守るために「ウォーター・ニュートラリティー(Water Neutrality)」というコンセプトを立て、世界中でさまざまな取り組みを行っている。

特に水の源である森林保護は重要視しており、水資源の保護を行なっている22団体に売り上げの一部を寄付して支援している。また、スタッフが直接水源の調査や植林作業なども行い、森林と水源の保全に努めているのだ。

大量の水を使う工場だからこそ、コカ・コーラ社では小さな節水にも心がけ、容器を洗った後の水も無駄にしない。

水の再利用や削減を地道に検証しながら節水し、全工場が10年間で削減した水量は672万トンにも及ぶ。

伊藤園の取り組み

環境への影響を抑えるため、伊藤園では、製造委託先の排水状況と水使用状況の把握、社内での水使用量の削減、などが行われている。

富士フイルムの取り組み

富士フイルムグループは、映画や写真フイルムの製造に多くの清浄な水を使用してきたことから、早くから水のリサイクル利用や利用削減に取り組んできた。

2014年からは、水ストレス地域と水投入量を踏まえた事業影響度を評価し、水リスクのある拠点を中心とした水管理や削減に取り組んでいる。

具体的な目標値は、2030年度までに2013年比の30%の自社水投入量を削減すること、製品やサービスを通じた水処理量35百万トン/年の貢献をすることのふたつを掲げている

上記の目標に対して、2020年には水投入量の16%削減、年間水処理量8百万トンを達成している。同社の進捗評価は、自社水投入量削減、水処理への貢献、いずれも良好で、目標達成に向け着々と取り組みが進められているところだ。

出典:CSR活動報告別ウィンドウで開きます|富士フイルムホールディング

協和キリンの取り組み

協和キリンでも、社会と共有できる価値を重視したCSV経営を通じて、SDGsの目標6の達成を目指している。

具体的に実施しているのは、製造工程における水使用量の削減による水資源保全の取り組み。製造プロセスの改良や排水処理施設の積極的な設備投資による、水質汚濁防止の取り組みだ。

また、キリングループとしては「水のめぐみを守る活動」も展開している。同活動は、主力工場のある群馬県で実施しているもので、間伐作業などにより水資源に関わる生態系を維持し守る活動だ。10年以上の継続的な活動が評価され、2018年には群馬県環境賞を受賞した。

協和キリンが行っている目標6の具体的な取り組み事例についてはこちら

SDGsの達成に向けてわたしたち個々人ができること

水は企業だけではなく個々人も多く使用するものであるため、ひとりひとりの心がけが水を守ることにつながる。ここからは個人がSDGs6の達成のためにできることを紹介していく。

国や地域の水事情を知る

さまざまな国や地域の水事情を知ることは、水を大事に使うために大切なことである。

日本は水が豊かでインフラも整備されているため、生活する上で水がなくて困ることは少ない。しかし、世界には安全な飲み水がない地域もあり、汚水が原因で命を落とすこともある。

インターネットや本で調べてみて、多くの人に情報をシェアすることで、水の大切さを改めて認識し合う機会になる。

節水を心掛ける

家庭でも節水のために一人ひとりにできることはある。具体例を紹介するので、毎日の生活で実践してみよう。

台所でできること

水を流しながら食器を洗うと、1分間で約12リットルもの水が使用されてしまう。節水には、蛇口をこまめに閉めることが大切だ。

水の使用量を減らす工夫も取り入れてみよう。食器の油分は先に紙などで拭いたり、水をためてつけ置き洗いをしたりすると、食器洗いに使用する水の量を減らすことができる。また、米のとぎ汁や野菜を洗ったあとの水は、植木などの散水に再利用できる。

入浴・洗濯でできること

シャワーの出しっぱなしを避けることはもちろん、お風呂にお湯を張るときは、必要以上に溜め過ぎないことも大切だ。

溜めた風呂の温度が熱いと、温度を下げるために余分に水を使わなければならず余分に水を使用するため、温度設定にも気を配る必要もある。また、お風呂の残り湯は、掃除や洗濯、植物への散水に再利用すると良い。

衣類を洗濯するときは、なるべくまとめて洗うと節水につながる。衣類が溜まると洗剤を多く使用したくなるが、洗剤の量が多すぎるとすすぎの際に落としきれず、すすぎの回数を増やさなければならなくなる。節水のためにも、洗剤も適量を守ることが大切だ。

トイレでできること

トイレの水を流すときは、大小レバーを使い分けると節水になる。トイレによって洗浄水量は異なるが、一般的に大レバーは小レバーよりも約2Lも多く水を使うといわれているためだ。

また、臭いが気になるからと何度も水を流すのは控えよう。原則1回だけと決めて、臭いが気になる場合は、消臭スプレーで対処することをおすすめする。

支援団体への寄付

前述したユニセフやウォーターエイドなど、水の問題に取り組んでいるNPOやNGOなどの支援団体へ寄付を行うのも個人にできる取り組みのひとつである。

支援団体は、十分に活動を行うためにも資金が必要だ。現地ボランティアとして活動が難しくても、寄付により間接的な支援を行うことも大切な取り組みである。

支援団体では、水の問題についての理解を深めるためにイベントを実施していることもあるので、イベントに参加してみるのも良いだろう。

まとめ

SDGsの17のゴールのひとつ、目標6「安全な水とトイレをみんなに」について取り上げた。安全で安価な水の供給については、日本国内においては深刻な問題とはなっていないかもしれない。しかし、世界に目を向けると数多くの人々が水不足や不衛生に悩んでいるのが現状だ。

国内にいてもできることはあるので、目標6を達成するために、節水や排水に対する意識をまずは意識するようにしたい。個人でできることと合わせて、企業や組織が行っている取り組みを知ることも重要だ。

協和キリンの「People & Culture」についてもっと知る

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