社会との共有価値 【解説記事】生物多様性の問題の原因と世界・日本の取り組み

地球上の生物たちは、常に変化する環境に適応するために進化を繰り返している。その結果、3000万種の多種多様な生物たちが生まれており、それぞれに個性が存在する。この生まれ持った個性を活かして、生物たちは互いに相補的に利用しながら生態系は形成されている。このような状態を「生物多様性」と呼ぶ。

しかし、昨今では、人為的な影響で生物多様性の豊かさが減少していることが問題になっている。今回は生物多様性が失われつつある原因と取り組みについて解説する。

生物多様性はたった50年で69%減少している

WWF(世界自然保護基金)とロンドン動物園協会(ZSL)が公表している「Living Planet Report 2022」によると、1970年からの50年間で野生生物の個体数が平均69%減少していることが分かった。

1年間におよそ4万種類もの生き物が絶滅している状況だ。

(参考:WWF「Living Planet Report 2022別ウィンドウで開きます」)

日本国内に絞った話でも、野生動植物の約30%は絶滅の危機に瀕している。環境省によると、現在、絶滅危惧種と指定されている日本固有の動植物は3,500種類以上におよぶ。

生物多様性は、数多くの種が互いに影響しあい、ときには食物連鎖や共生関係を築いて成り立っている。一部の種が失われれば、関連性の高い種も存亡を脅かされかねない。

生物多様性が失われている原因

本来、自然は絶妙かつ綿密な関係性で構成されており、ただ生きるだけで絶滅の危機を迎えるリスクはないだろう。それではなぜ、生物多様性が急速に失われているのだろうか。

主に4つの外的要因が考えられる。

原因1.開発や乱獲

絶滅危惧種の中には、人間の乱獲によって絶対数が減少した生き物も多く含まれている。食用として使用されるのではなく、鑑賞用、ステータスの象徴など、所有することを目的とした乱獲や採取も生物多様性の減少を招いている要因だ。

森林破壊の例をあげると、日本国内の宅地面積は1960年代から2000年代にかけた約40年間で2倍程度に拡大された。宅地面積が拡大する一方で、必然的に自然の面積は減少しているだろう。

(参考:環境省「生物多様性国家戦略 2012-2020pdfが開きます」)

森林破壊について、詳しい現状や世界での取り組みについては、下記のページで詳述している。

原因2.森林などの手入れ不足

生物多様性が失われる原因のひとつに、人間による森林の手入れ不足もあげられる。

現在、日本中に所有者不明の山林が増加している。2023年より「相続土地国庫帰属制度(望まぬ相続で得た土地を国庫へ返す制度)」が施行されるほど問題視されている。

(参考:法務省「相続土地国庫帰属制度について別ウィンドウで開きます」)

山林が放置され手入れが行き届かないと生態系のバランスは崩れてしまい、動植物が絶滅の危機にさらされる。長年の人間活動が作り上げた環境に依存している生態系の種は多く存在する。たとえば、過去に人間が狩猟していたサルやクマ、イノシシなどが、人間活動の低下によって、個体数が増加し、自然生態を破壊している。

また、人間によって管理されていた山林が放置されることで、木々が増えたり、枝が伸び過ぎたりすることで日光を遮ってしまう。その結果、山林の中は暗くなり、植物は枯れて植生が荒れてしまい、生息していた生物たちが姿を消している。

農用林や採草地、人工林が使用されなくなり、放置されても自然らしい環境に戻ることはない。

一度、人の手で開拓した土地は、半永久的に手入れを行う必要がある。手入れする人間がいなくなれば、森林は荒廃し、生物多様性を失う原因となってしまう。

原因3.外来種や化学物質の持ち込み

運搬技術の発達により、多くの外来種が日本国内に上陸している。身近な外来種だと、ブラックバス、マングース、アライグマ、セイヨウミツバチなどがあげられる。日本人が慣れ親しんでいる風景の中に、すでに溶け込んでいる外来種は多い。

外来種が増加するのは、家畜やペットの野生化、運搬物に紛れ込んでいた生物の繁殖などが原因だ。外来種が問題視される理由のひとつは、日本固有の種をエサとしたり住処を奪ったりすることだ。

野生化した外来種により絶滅した日本固有の種は少なくない。豊富なエサや住処を得た外来種は確実に数を増やし、生態系に影響を及ぼしている。

また、人間が持ち込んだ殺虫剤や塗料などの化学物質も、生物多様性を失わせる要因だ。意図的に持ち込むことがなくとも、アウトドア体験で山林に踏み入れるとき、殺虫剤やキャンプ用品などの化学物質を使用する機会は多い。

原因4.地球環境の変化

地球環境の変化も、生物多様性に大きく影響している。地球温暖化は南極の氷を溶かし、一部の島国を飲み込みつつある。

たとえば、南極の氷が解ければ氷上で生きる動物の住処が奪われ、生態系にも影響する。水温上昇にともない、本来は南に生息すべき魚がまったく異なる海域で発見される例もたびたびニュースとなっている。陸上でも永久凍土が溶け出すなど、かつての姿とは大きく変化した地域は多い。

地球温暖化は、単純に気温が上昇するのみに留まらない。海面上昇や水質の変化、動植物の生息域の変化など、互いに影響しあって生態系を崩す原因となっている。

生物多様性を守る世界の取り組み

前述のとおり、生物多様性を失わせる原因は複数あり、ひとつの問題に対処すれば解決できるものではない。また、一度人の手が加わった人工林のように、かつての状態まで回復させることが困難な部分も多い。

重要なのは、一つひとつの対策を継続的に行い、変化をゆるやかにすることだ。ここでは、生物多様性を守るために行われている世界的な取り組みを紹介する。

30by30(サーティ・バイ・サーティ)

2022年12月に開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された新しい世界目標が30by30だ。2030年を目標に、世界全体で陸地と海の30%以上を健全な生態系として保全することを目指している。

現状、日本国内において生物多様性が保全されている地域は陸域で20.5%。海域では13.3%だ。環境省は「生物多様性のための30by30アライアンス」を2022年4月に立ち上げており、今後は民間や自治体が所有している生物多様性の高い地域を自然共生サイトとして認定することで、生物多様性の保全エリアを30%に拡大しようと取り組んでいる。

  • 「民間等の取り組みによって生物多様性の保全が図られている区域」として環境省の認定を受けた区域の名称

キリンホールディングス株式会社は「生物多様性のための30by30アライアンス」に2022年4月に加盟しており、メルシャン株式会社の「シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード」で自然共生サイトの後期実証事業に参加し “認定相当”に選定されている。日本ワインのためのブドウ生産という事業を通じて生物多様性を回復している唯一の事例であり、自治体や地元の小学生など多様な関係者と共に生態系保全活動も行っていることが高く評価された。2023年には制度の正式運用の開始が予定され、正式認定に向けて準備中だ。

独自に掲げる「キリングループ環境ビジョン2050」のもと、生物資源・水資源・容器包装・気候変動の4つの課題に統合的に取り組むことで、生物多様性の保全への貢献を目指している。

SDGs(持続可能な開発目標)

世界中の誰ひとりとして取り残さないための持続可能な開発目標として、SDGsが掲げられている。貧富や衛生環境の差、労働環境、性差別などあらゆる観点から、より良い未来を実現するための17の目標だ。

17の目標のうち、15番目には「陸の豊かさも守ろう」が掲げられている。陸上の生物も海や川の生物も守り、回復させて、自然の恵みが持続可能な状態で利用できるようにすることだ。

また、森林や土壌の回復も目標に含まれており、自然環境の保護保全が人間の健全な生活につながる仕組みとなっている。SDGsは国や地域のみならず企業も注目しており、すでに企業単位でプラスチックスプーンの廃止など具体的な施策を導入しているケースも多い。

生物多様性を守る日本各地での取り組み

生物多様性を守る取り組みは、日本各地の自治体や民間企業においても活発に行われている。ここでは3つの例を紹介する。

埼玉県:エコロジカルネットワークの形成

埼玉県朝霞市では、都市のエコロジカルネットワーク化が推進されている。エコロジカルネットワークとは動植物の生育・生息環境におけるつながりのことで、各生態系が共生状態にあることを指す。

朝霞市は中核地区、緩衝地区、回廊地区、拠点地区となる河川や公園を整備することで、都市部のエコロジカルネットワーク化に取り組んでいる。4つの地区それぞれが、動植物が他地区へ移動する中継地や回廊となったり、生息する拠点となったりしている。

都市の利便性を失うことなく、自然と人間社会が寄り添い合い、エコロジカルネットワークが構築されているのが特徴だ。

愛知県:緑化地域制度

愛知県名古屋市では、市内の1,643haもの緑地が転用などで失われたことをきっかけに、新たに緑化地域制度を施行した。2008年に施行されて以来、わずか1年で市内の緑地は50ha確保されている。

緑地の保全はもちろん、建築物の外壁や屋上なども積極的な緑化が取り組まれ、小売店やビルにデザインの一環として緑が取り入れられるようになった。

大分県:藻場の保全活動

大分県佐伯市では、漁業協同組合の協力を得て藻場の保全活動が行われている。藻場は、生活排水などに汚染された水質を浄化するはたらきがある。同時に多様な生物の生息地としても活躍しており、藻場の保全は水質のみならず生態系保護の観点からも画期的な施策だ。

水産庁の「磯焼け対策ガイドライン」をもとに、専門家や行政、研究機関の力を借りて藻場の保全が行われた。

現在は漁業協同組合が食害生物の除去を定期的に行うなど、回復した藻場の保全が行われている。

まとめ

生物多様性が急速度で失われていく問題に対して、世界中の国や地域、企業が対策をとっている。

人間社会および自然環境を持続させるためには、人間にとっての心地良さや利便性のみならず、生物多様性の保護につながる取り組みが欠かせない。日本国内においても環境省が生物多様性の危機をアナウンスしており、民間企業も力を入れているため、今後の動向に注視したい。

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