社会との共有価値 【解説記事】SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」日本の現状と解決策とは?

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )の達成に向けて、17の目標が掲げられているが、その中でも9番目の目標は「産業と技術革新の基盤に関する目標だ。

SDGs9の具体的な目標、どのような取り組みが行われているのであろうか。今回は、自治体や企業で行われている取り組みについて紹介していく。

SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」とは?

SDGsとは2030年までを達成に向けた期間と設定し、経済成長や社会開発を世界規模で実現する取り組みだ。資金面や資源、あるいはインフラ整備など、どれかひとつの分野ではなく、SDGsの達成に向けて総合的に整備や技術力などの向上を進める狙いがある。

SDGsの9番目の目標は「産業と技術革新の基盤をつくろう」と題し、大きく8つのターゲットとなる指標が示されている。

ここからは、SDGsにおける目標9の目的や、目標9が掲げられた背景について解説する。

目標9のターゲット

目標9達成のために、次の5つのターゲットが設定されている。インフラ、産業、イノベーションに関する目標で構成されているのが特徴だ。

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9.1 すべての人が安価で公平にアクセスできることに重点を置いた質の高い信頼できる持続可能、かつ強靭なインフラを開発する。
9.2 2030年までに各国の状況に応じ、雇用やGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増やす。途上国は倍増させる。
9.3 途上国の小規模製造業などを中心に、金融サービスやバリューチェーン、市場統合へのアクセスを拡大させる。
9.4 2030年までに、資源利用効率の向上と環境に配慮した技術や産業プロセスの導入拡大により持続可能性を向上させる。
9.5 2030年までに、途上国をはじめ、すべての国の産業セクターの科学研究を促進し、技術能力を向上させる。

出典:「JAPAN SDGS Action Platform|外務省」別ウィンドウで開きます

インフラに大きく関連しているのが、9.1や9.4のターゲットだ。9.1では、交通インフラを含めた経済活動を支える強靭なインフラの整備をターゲットとして設定している。9.4では、クリーン技術や環境に配慮したインフラの改良も盛り込まれた。

産業に関連しているのが、9.2や9.3、9.4だ。9.2では、産業セクターの雇用者を増加させることで経済発展を進めていくことがターゲットとなった。経済発展を遂げた国は、共通して製造業が伸び、製造業の雇用者が増加したためである。途上国においては、2030年までに2016年との比較で倍増させることが目標となった。

9.3では、金融へのアクセスやグローバルバリューチェーン拡大による国レベルでの産業構造の多様化がターゲットとなっている。9.4では、クリーン技術や環境に配慮した産業プロセスの導入も盛り込まれた。

イノベーションとの関わりが深いのが、9.5である。9.5では、イノベーションを促進するために、研究開発従事者数を大幅に増やすことが目標となっている。

さらに、ターゲットには、次の9.a、9.b、9.cのように、途上国への産業面における具体的な支援について設定されている。9.aは途上国のインフラ支援、9.bは途上国の研究開発やイノベーション支援、9.cは後発開発途上国のインターネットアクセスに焦点を当てたものだ。

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9.a 開発途上国の金融・テクノロジー・技術支援強化を通して、持続可能かつ強靭なインフラ開発を促進する。
9.b 政策環境の確保などを通して、途上国の技術開発や研究、イノベーションを支援する。
9.c 後発開発途上国の情報通信技術のアクセスを大幅に向上させ、普遍的かつ安価なインターネットアクセスを提供する。

出典:JAPAN SDGS Action Platform|外務省別ウィンドウで開きます

目標9の目的

持続的な経済成長には、「インフラ」「産業」「イノベーション」の3つの要素が必要不可欠である。これら3つの要素は相関関係にあり、3つの要素を満たすことによって目標9の達成、ひいてはSDGsの達成につながる仕組みだ。

これら3つから構成されているSDGs9の目的は、強靭(レジリエント)なインフラ整備による持続可能な産業化とイノベーションの促進である。強靭(レジリエント)なインフラとは、自然災害があっても早急に復興ができるインフラ整備のことだ。

また、SDGs9は、SDGs8「雇用の創出」やSDGs2「食料の安全」とも相乗効果が期待されている。加えて、SDGs9達成に欠かせないインフラ整備も、SDGs1「農村における貧困」やSDGs11「都市・農村のリンケージ」と密接な関係にある。

つまり、SDGs9の達成を実現することは、ほかの目標達成につながる基盤づくりになるといえるだろう。

目標9が生まれた背景

SDGs9が生まれた背景には、世界全体におけるインフラや産業を含む生活水準の格差がある。

インフラの整備は、生活水準の向上によって安定した生活を実現し、持続可能な産業発展に注力できる環境づくりの基盤になるものだ。そして、インフラ未整備の状態では、企業の生産性も約40%損なわれるといわれている。

しかし、多くの開発途上国では、道路や水、電気、情報通信(インターネット)、衛生施設などのインフラが未整備だ。

世界人口のおよそ1/3が、全天候型道路へ簡単にアクセスすることができない環境で生活しているとされている。全天候型道路とは、振動や騒音の発生がなく、道路全体が耐熱・耐衝撃に優れた安定的な道路のことだ。

また、世界の23億人が基本的な衛生施設を利用できず、12億人が電話サービスを利用できていない現状である。加えて、生活に必要不可欠である水へのアクセスがない人が8億人にも及んでいる状態だ。

電気供給については、開発途上地域の約26億人が安定した電力供給を受けられていない。

ただし、インフラの問題は開発途上国だけの問題とはいえなくなっている。近年増加している自然災害による産業や社会機能へのダメージは、先進国でも懸念されているためだ。

SDGs9を達成することによって、災害によるダメージから早期復旧にもつながることから、災害に強いインフラを整備することも推進されている。

SDGs9に関する日本の現状と解決策

2022年のSDGs達成度ランキングにおいて、日本は、目標9は達成済みと評価されている。しかしながら、未達成の目標ほどではないものの、目標9に課題が残っているのもまた事実だ。ここでは、目標9に関連する日本の課題の現状と課題解決の取り組みについて取り上げる。

インフラの老朽化

国内において、高度経済成長期に整備された道路橋やトンネル、河川、港湾、下水道などのインフラの老朽化が問題となっている。今後20年の間で、建設から50年以上経過する施設の割合が急速に高くなる見込みであるためだ。

老朽化の程度は年数だけでなく、立地や利用条件にもよるが、大規模な補修や修繕などが行われないことで、損傷が進んで事故のリスクも増す。

このような中で策定されたのが、「インフラ長寿命化計画(行動計画)」だ。他省庁に先駆け、平成26年5月、国土交通省において策定された。計画では、国交省の役割や計画の範囲(国交省が制度など所轄するすべての施設など)、取り組みの方向性が示されている。

さらに、2021年6月には、これまでの取り組み状況などを踏まえ、今後推進していくべき取り組みなどがまとめられた第2次の計画が策定された。

研究開発費の伸び悩み

OECD諸国と比較して、日本の研究開発費は第3位となっている。しかし長年、研究費の額は横ばいが続いており、1位のアメリカや2位の中国との差は大きく開いていくばかりだ。

日本の研究力強化のために整備されたのが、各種事務手続きのルールの統一化である。2020年1月の総合科学技術・イノベーション会議により決定した「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」においては手続きの簡素化も図られた。

手続きにおけるルールの統一化や簡素化によって、研究者が研究に集中できる環境の整備が進められている。

SDGs9の達成に取り組む企業や自治体の事例

ここからは、SDGsの達成に向けて実際に取り組んでいる企業や自治体の事例について紹介する。

NGP日本自動車リサイクル事業協同組合

NGP日本自動車リサイクル事業協同組合は、自動車リサイクル会社によって構成されている組合だ。組合では、廃車にする自動車の部品を業界全体でリサイクルする取り組みを行っている。

たとえば、リユース部品の販売によって得た収益から、瀬戸内オリーブ基金を通じて香川県豊島環境保全再生活動に寄付しているのもそのひとつだ。

また、リサイクルについて将来を担う子どもたちに向けて、環境問題をわかりやすく伝えるブースをエコプロなどのイベントに出展する形で行っている。

NTTインフラネット株式会社

企業が事業としてSDGs9の達成に向けた取り組みを行っている事例のひとつに、NTTインフラネット株式会社の浸水検知やネットワークカメラ監視がある。

NTTインフラネット株式会社の浸水検知は、リアルタイムで各種センサから浸水情報を取得し、担当者にメール配信するシステムだ。これにより、迅速に道路管理情報に浸水情報が反映され防災に役立てられている。

ネットワークカメラ監視は、ネットワークを使った防災システムソリューションだ。気象情報や多数地点のマルチライブ映像により、現地に直接赴かなくても災害発生状況をリアルタイムで把握できるようになる。

長野県伊那市

長野県伊那市は、MONET Technologies、フィリップス・ジャパンと協業して、モバイルクリニック実証事業を開始している。

これは、日本の地方都市が抱える医療課題の解決に向けた取り組みのひとつだ。

医療機器を搭載した移動診療車「INAヘルスモビリティ」の活用により、遠隔診療が可能な医師の乗らない移動診療車の運用をはじめている。

遠隔地の医師がテレビ電話を通じて患者の診療を行い、移動診療車に同乗している看護師が診療の補助を行うものだ。

長野県上伊那医療圏での人口10万人当たりの医師の人員は151.92名となっており、全国平均237.28名と比べて少ない。

また、山間部など通院や往診にかかる移動コストが高い場所も多く、こうした課題に対してテクノロジーを活用する形で解決を目指している。

SDGs9の達成のために私たちができること

SDGsの達成に向けた取り組みは、企業や自治体、国など規模の大きいものだけではない。

たとえば、イノベーションによるリサイクル技術の向上や、インフラ整備によって食品流通やゴミの回収処分の効率化が進んでも、個人が協力しなければ効果を引き出すことができない。

つまり、個人の小さな努力の積み重ねが、結果的に国や世界規模でのSDGsの達成につながる推進力になるといえるだろう。

では、私たち個人ができる取り組みには、どのようなものがあるのだろうか。ここからは、SDGsの目標9達成や、SDGs全体の達成に向けて個人でできることについて紹介する。

新たな技術が生活のどんな役に立っているのか考える

まずは、新たな技術が日常生活の中で、どのような役に立っているのかを考えることが重要だ。「地方にいても医療が受けられるようになる」「自動車部品のリサイクルを行っている企業がある」など、企業や自治体の取り組みに目を向けてみるのも良い。

技術をどう生かすことでより便利になるのかを考え、新たな活用方法のアイデアを創出し、発信していくことであれば個人でもできるだろう。

SNSなどで声を上げる

個人でSDGsの達成に向けてできることのひとつに「SNSでの発信」がある。たとえば、人や地球にやさしい取り組みを見かけたらシェアする、政策立案者に対してSDGsの達成を優先課題とするよう求めることも方法のひとつだ。

また、SNSでは日本国内だけでなく海外のユーザーとも情報交換・共有できるため、海外の取り組みにも目を向けることができる。海外で実施されているSDGs達成に向けての取り組みを日本でも同様に実施できないか考えてみよう。

SNSを活用できるのは、インターネットなどの通信インフラが整備されているためだ。技術を利用できる機会をうまく活用し、生活の中でできる範囲のことからSDGsの達成に向けた協力をしていくと良いだろう。

まとめ

SDGsの達成には、目標9を含めてターゲットとなる数多くの要素を総合的に推進・向上させなければならない。

しかし、個人や企業単位では、それらすべての目標達成に協力するのは不可能に近いものだ。

だからこそ、私たち個人が身近にできることを探して協力することは、小さな一歩の積み重ねになり、SDGsの達成に向けた大きな推進力となりうるものでもある。

「個人」「企業」「自治体」「国」それぞれにできることを分担して取り組んでいくことこそが、SDGsの達成に必要になるものではないだろうか。

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