ペイシェント患者さんと医療従事者が最適な治療を選べる環境を目指して――メディカルアフェアーズ部担当者インタビュー

「メディカルアフェアーズ」をご存じでしょうか?一般になじみの薄い言葉ですが、医療従事者や患者さんとのかかわりを通じて医療ニーズを把握し、その解決に向けた取り組みを推進する役割として、製薬業界で広がりを見せています。

協和キリンでも、メディカルアフェアーズ部がその役割を担ってきました。どのような取り組みを行い、何を目指しているかをお伝えします。

プロフィール

協和キリン株式会社 メディカルアフェアーズ部 メディカルサイエンス2グループ マネジャー
吉澤繁(よしざわ しげる)

国内製薬会社を経て、1999年、前身となるキリンビール医薬事業本部に入社、医薬情報担当者、がん領域学術担当などを経て、2018年よりマーケティング部製品研修グループ(現 人材育成室)にて、がん・骨ミネラル代謝製品の社員教育に携わる。2024年より現職。

協和キリン株式会社 メディカルアフェアーズ部 メディカルサイエンス2グループ マネジャー
蒲生優(がもう まさる)

2004年、前身となるキリンビール株式会社 医薬事業本部に医薬情報担当者として入社。その後、がん専任担当グループやマーケティング部などでがん領域に関する業務に携わる。2023年より現職。

患者さんが主体的に医療に参加できる環境を作るには

―メディカルアフェアーズ部の役割を教えてください。

蒲生優(以下 蒲生) メディカルアフェアーズ部は医学・科学の専門家として、医療をより良くするために活動するチームです。科学的根拠に基づき、承認後の医薬品や治療に関する情報が正しく理解され、適切に使われるよう支えるとともに、研究で得られた知見と医療現場の実情をつなぐ「架け橋」としての役割を担っています。そうした活動に加えて、私たちは、患者さんが主体的に治療に参加し、最適な治療を医師と一緒に選べる環境を作ることも目標にしています。

医療従事者と患者さんの間には、気づかれにくい認識や理解のギャップが生じることがあります。こうしたギャップの中にも「アンメットメディカルニーズ(未充足な医療ニーズ)」があります。そのギャップを埋めることを起点に、患者さんと医療従事者が対話できる環境を整えることも、メディカルアフェアーズ部の重要な役割です。医療を取り巻く環境全体にどう貢献できるかを考える部署だと捉えています。

画像:蒲生優

患者さんと医療従事者の「ギャップ」を可視化

―今回、再生不良性貧血についての取り組みが行われました。

吉澤繁(以下 吉澤) 再生不良性貧血は、造血幹細胞※1がうまく血液を作れなくなる希少疾患であり、国が定める指定難病の1つです。医師にとって遭遇する機会が少なく、診断や治療の判断に悩むケースも多い疾患だと思います。そのため、再生不良性貧血と確定診断され、適切な治療か開始されるまでに時間がかかることも珍しくありません。患者さん側に目を向けると、治療が長期化するケースが少なくないため、診断や治療選択、治療継続の過程の中で、仕事や日常生活と通院を伴う外来治療の両立など、さまざまな不安を抱えています。それでも「忙しそうだから」「聞いてよいのかわからない」といった理由で、医師に不安を伝えきれないケースがあると事前の患者団体との対話で耳にしていました。

蒲生 患者団体の主催する講演会に参加した際も、診察時に語られること以上に、不安や医師に伝えたい思いがあるのではないかと気づかされました。さらに、患者さんへの個別インタビューを通じて、その内側に抱えている思いが少しずつ見えてきました。

吉澤 そこでメディカルアフェアーズ部として、「患者さんと医師の考え方を整理し、そのギャップを埋めることが、再生不良性貧血の治療全体の質を高めることにつながる」という考えのもと、まず患者さんと医師双方へのアンケート調査を行うことにしました。正解を探す調査ではなく、対話のきっかけをつくる調査にすることを意識し、同じ問いを医師と患者さんに投げかけ、医師と患者さんの考え方のギャップや共通する課題を浮き彫りにしようと考えたのです。

アンケート実施後には、メディカルアドバイザリー会議※2を開催しました。医師と患者団体が同じデータを共有し、診断、初回治療、治療継続という診療の主要な局面について多角的な議論を行いました。医師同士によるメディカルアドバイザリー会議は珍しくありませんが、患者団体が参加することはこれまであまりありませんでした。アンケート結果という数字だけでなく、その背景に何があるのかを互いの立場から伝え合い、どうすれば埋めていけるのかを話し合えたことは、自分にとっても貴重な経験となりました。このように、患者団体と医療従事者の声をつなぐ場を設けることは、今後に向けて重要な取り組みであると考えています。

  1. ※1骨髄中にある赤血球、白血球、血小板の元となる細胞
  2. ※2専門家が意見を出し合い、改善点や次の方針を考える会議
画像:吉澤繁

立場を超えた対話で、より良い医療は実現する

―この取り組みを通じて、どのようなことがわかりましたか。

吉澤 医師は限られた診療時間の中で、より効果的な治療を選択しています。患者さん側も、治療効果を期待しています。ただし、そこには少しだけ違いがありました。多くの患者さんは治療効果だけでなく、通院が長くなることへの不安や、生活への影響も重視しています。一方で、医師がそこまで踏み込んで話すケースは多くないのが現状でした。

メディカルアドバイザリー会議では、「しっかりコミュニケーションを取ったうえで何を選択すべきか」「生活をこう変えたいなら別の選択肢はあるのか」といった問題提起がなされていました。このようなディスカッションによって、医療がより良くなる可能性があります。こうした可能性を広く社会に伝えること。それが、私たちが医療に貢献できる価値だと感じました。

画像:メディカルアドバイザリー会議の様子

蒲生 例えば、通院回数は少ないほうが楽だろうと一般的には思われがちですが、ご自身の体調に関する不安感などから、「頻回のほうがいい」という患者さんも一部にはいます。個別最適な医療を届けるためには、やはり患者さんと医療従事者とのコミュニケーションが円滑に行われることが不可欠です。再生不良性貧血のように治療期間が長い疾患では、治療開始時や治療中など、時期によって患者さんのニーズが多様化するため、これらのニーズはより広く共有されるべきだと改めて認識しました。また、こうした視点を医療従事者と共有し、治療を医学的な正しさに加え、患者さんにとって続けられるものにしていく支援が、私たちメディカルアフェアーズ部が貢献できる価値だと感じました。

吉澤 メディカルアドバイザリー会議の内容は、医学雑誌「血液内科」に掲載され、医師と患者さんのギャップをどう埋めるかというテーマは医療従事者にとって新鮮に受け取られました。ただ、専門医以外の医療従事者や患者さんには届きづらいので、専門的な内容をかみ砕き、患者さんが医療従事者と話す際のヒントとなる情報として整理し直したうえで、協和キリンの再生不良性貧血に関する疾患情報サイトにも掲載しました。

アンメットメディカルニーズの把握から、計画立案、エビデンスの創出、そしてエビデンスを活用した情報提供まで、この一連のサイクルがメディカルアフェアーズの役割です。ですので、疾患情報サイト上で患者さんに伝えることまで意識して、今回の取り組みを設計しました。患者さんと医療者の懸け橋になれたらうれしいですね。

画像:公開した疾患情報サイト

「ハブ」としてのメディカルアフェアーズ

―お二人がこの取り組みで得たこと、今後のビジョンを教えてください

蒲生 課題を明らかにすることの重要性と同時に、それが「どう届くか」がいかに大切かを改めて実感しました。浮き彫りになった課題を、皆が「確かにそうだね」と共有できる環境をどう作るかは、ずっと悩んできた点です。

まだ十分ではない部分もあるものの、今回の取り組みで医師だけでなく患者団体も含めて疾患の現状を共有する場を設けられたことで、「届ける」ために一歩前進できたと思っています。私たちにできることがある、という自信が持てました。これからもこのような取り組みを続けていきたいですし、他の疾患にも広げていく上での一つの事例を作れたのではないかと思います。メディカルアフェアーズ部は、患者さんに最も寄り添っている部署、患者さんのことを最もわかっている部署になりたいですね。

吉澤 私も強く共感します。医療従事者が患者さんの声に寄り添うこと、患者さんが自ら積極的に医療にかかわっていくことの両方が大切です。患者さんと医療従事者が治療方針を話し合い、共同決定するプロセスは、シェアードディシジョンメイキング(SDM)と呼ばれています。私たちは、SDMが医療に浸透していくための基盤を作っていけたらと思っています。

メディカルアフェアーズは開発や営業とは異なり、その役割がわかりにくい側面もありますが、患者さんと医療従事者の間に立つからこそ、両方の視点を大切にしながら治療全体を支える「ハブ」になれると感じています。その役割をこれからも果たしていきたいです。