ペイシェント患者さんやご家族との対話の場「Healthcare Café」 第10回のテーマは輸血療法

「Healthcare Café(ヘルスケアカフェ)」は、患者さんやご家族との対話を通じて、真のニーズを知るための取り組みです。協和キリン株式会社、武田薬品工業株式会社、第一三共株式会社の3社が合同で実施しており、2025年12月に行われた第10回は、協和キリンが企画・運営を担当しました。当日の様子をお伝えします。

製薬企業が知らない、患者さんの本当の思いを聞く

第10回Healthcare Caféは、会場で100名以上が参加し、オンラインでも600人を超える視聴がありました。司会を務めるのは、今回のリーダーであり当社研究員の新見大輔です。新見は冒頭、Healthcare Caféの意義をあらためて説明しました。

「Healthcare Caféが目指すところは、患者さんの本当の思いや必要なことを理解し、その声をもとに価値のある薬をできるだけ早く届けることにあります」

画像:鳥居義史(左)新見大輔(中央)馬場麟太郎(右)

今回は、「輸血療法」がテーマです。挨拶に立った、協和キリン株式会社研究本部長の鳥居義史は次のように話し、対話の意義を強調します。

「協和キリンでは2024年2月に3つの重点疾患領域を設定しました。そのうちの一つが血液がん・難治性血液疾患であり、精力的に研究活動を行っています。輸血療法に関わる方々との対話を通して理解を深め、今日の気づきを研究活動に活かしていきたいと思います」

続いて、プロジェクトメンバーで研究員の馬場麟太郎が、輸血療法をテーマに選んだ理由を説明。輸血療法にまつわるデータを紹介しつつ、こう話しました。

「輸血療法は、多くの血液疾患における治療法として確立されています。一方で、輸血療法に伴う体調変化や定期的な輸血の負担など、私たち製薬会社が知らないニーズやインサイトが存在します。今日の対話を通じて、輸血療法とその背景にある社会的課題について深く理解し、医薬品にとどまらない価値の創出につなげたいと考えています」

骨髄移植をした日は「二つ目の誕生日」 輸血療法にも大いに助けられた

講演では、俳優の樋口大悟さんに、ご自身の闘病経験をお話しいただきました。タイトルは、「急性骨髄性白血病と骨髄異形成症候群の闘病を通じて感じたこと、支えとなった輸血療法」です。樋口さんは、アクション俳優を志して稽古に励んでいた25歳のとき、急性骨髄性白血病を発症。抗がん剤治療に臨みました。

画像:樋口大悟さん

1年ほどで寛解するも、27歳のときに再発し、骨髄異形成症候群を発症します。医師からは「今度は抗がん剤が効かないので、生きていくためには骨髄移植が必要です」とはっきりと言われたと、樋口さんは振り返ります。有効な薬がないため、退院後3年間は一時的に輸血療法を受けながら、日常生活を送りました。

「赤血球がないため貧血で倒れやすく、血小板がないためケガをすれば血が止まらない。本当にちょっとしたケガでも命を落としかねない状況でした。それを輸血療法で回避することもありました」

30歳を迎えた2008年、病状が急激に悪化し、骨髄移植を急がなければならない状況に。骨髄バンクでドナーが見つかりました。

「骨髄移植をした日を『二つ目の誕生日』と呼びます。僕も『17歳』になりました。25歳のとき、僕の人生はもうここまでだと思いましたが、それから22年。おかげさまで生かしていただきました」

樋口さんはご自身の経験をもとに、映画『みんな生きている~二つ目の誕生日~』を制作。2023年に劇場公開され、現在も全国の市民ホールや学校で上映会が開催されています。

画像:映画『みんな生きている~二つ目の誕生日~』予告編を視聴

「僕はドナーさんに助けてもらいました。でも、感謝の気持ちを直接伝えることはできません。映画という形でドナーさんに届いていてくれたらと願っています。また、今この瞬間に苦しんでいる方の勇気や希望につながれば、とも思っています。僕がそうしてもらったように、次の誰かの命につながってほしいのです」

樋口さんは今、献血の普及啓発にも力を入れています。

「僕自身、25歳まで健康だったのに、献血をしたことがありませんでした。今となっては、献血しておけばよかったと思います。病気になってかなりの方の献血に助けられてきました。その分、献血を知ってもらう活動を続けていきたいと思っています」

患者さん・医師・患者支援団体・製薬企業で話し合う「輸血療法」

パネルディスカッションでは、樋口さんに加えて、大橋晃太医師(トータス往診クリニック院長)と橋本明子さん(NPO法人血液情報広場・つばさ理事長)、協和キリンの馬場麟太郎が登壇し、「輸血療法の恩恵と現在の取り組み」をテーマに意見を交わしました。

画像:パネルディスカッションの様子

パート1「急性骨髄性白血病における輸血療法」

赤血球輸血と血小板輸血を経験した樋口さんは、輸血前後を振り返り、体調の変化をお話しくださいました。大橋医師によると、血液疾患による赤血球の減少は、動悸やふらつきの他、気持ちにも影響するとのこと。大橋医師は、ご自身が骨髄異形成症候群を発症した経験を振り返り、「うつ病だと思ったらヘモグロビン値が低下していました」とご共有してくださいました。

また、樋口さんは、血小板輸血によるアレルギー反応についても言及し、「輸血はありがたいことなのですが、また苦しむかと思うと萎縮して血管が細くなり、針が入りにくくなりました」と経験をお話しくださいました。

画像:樋口大悟さん

パート2「支持療法としての輸血療法」

支持療法とは、病気に対する根本的な治療ではないものの、病気に伴う症状や副作用などを軽くする治療のことです。樋口さんは、再発後に一時は輸血療法を受けながら経過観察をしていた期間を「あの3年間以上に精神的に辛いときはありません」と振り返ります。

大橋医師は、樋口さんのような骨髄異形成症候群の低リスクの病態の方について、こう話します。
「『治療方法がなく悪化を待っているだけ』と捉えている方が多いと感じます。周囲の方から『通院が減って調子が良さそうだね』と言われ、複雑な思いで孤独を抱える患者さんが多いです。また、輸血は、他人の物を譲り受けて生きていると強く意識するもの。他人に頼らないと生きていけないのだと、考え込んでしまう方もいます。ですから診察では、1か月頑張って過ごしてきた患者さんを労う言葉をかけたいと思っています」

続いて、輸血療法のための通院頻度の話題では、患者さんご自身の負担から付き添う家族の負担に話が及び、仕事と通院の両立は社会で考えるべきテーマだという議論がありました。

画像:大橋晃太医師

パート3「輸血療法の将来性」

薬では「神経毒性」のように、副作用の表現として「毒性」という言葉を使います。大橋医師は、輸血療法における時間的・経済的負担は「時間毒性」「経済毒性」と呼べるほど、大きな課題だと考えていると話します。この課題に取り組むべく、大橋医師は、全国どこでも在宅輸血を受けられる体制を構築しようと尽力中です。これを受けて橋本さんは、「大橋先生が在宅輸血を始めたとき、すごいと思いました。応援しています。課題もありますが、みんなで一緒に進めば夢は叶うと思っています」とエールを送りました。

樋口さんは、講演先の高校で生徒が献血推進活動をしているのを見て、「輸血がなければ自分は移植に至らなかった」と気づき、普及活動に力をいれるようになったと言います。橋本さんは、献血の仕組みという「文化」に言及。支え合いでこの仕組みが成り立っているという考えを示しました。

画像:橋本明子さん

以上のように、パネルディスカッションでは活発な議論が交わされました。会場から投げかけられた質問や感想からは、参加者それぞれが大切なメッセージを受け取ったことがうかがえます。第1部の終わりに、協和キリン株式会社開発本部開発企画部長の水谷昌人が挨拶に立ち、こう話しました。

「本日、ご登壇いただいた皆様から生きた知見として大切なことを教えていただきました。本日の話を心の羅針盤として、患者さんの視点に立って、真に必要とされる医薬品を届けていく決意を新たにしました」

画像:水谷昌人

少人数での対話会は、深い思いを共有する場に

画像:対話会は6つのグループに分かれて実施

対話会は参加者を絞って、6つのグループに分かれ、樋口さん、大橋医師、橋本さんを囲んで実施しました。それぞれのグループでは、個人的な経験の共有やご登壇者への質問、反対にご登壇者から3社の研究員に質問する場面もありました。各グループからのコメントの一部をご紹介します。

「お話を聞きながら、製薬業界を志したときの気持ちを思い出していました。薬学生時代の病院実習で、『私は患者さんの周りの人も支えたい』と思ったシーンがよみがえり、初心に返ってがんばろうと思いました」

「『あと一歩が欲しい』と大橋先生が話されていました。医師だけではなく、さまざまな職種の人がそれぞれ『あと一歩』を踏み出し、みんなの分を合わせれば、より大きな一歩になるのだと思いました」

「アンメットメディカルニーズを見極めるうえで、患者さんの生の声を聞くことはとても大切だと感じました。1つの企業だと患者さんの声にアクセスしづらいので、3社が協力して行うことに意義があります」

「今日は皆さんがご自身のことをお話しくださって、研究へのモチベーションをいただきました。自分について話すことはお互いを知ることにつながり、その循環が幸せへと巡っていくのだと、今日の対話会を通じて気づきました」

画像:それぞれの経験や思いを共有する
画像:少人数ならではの濃密な対話が交わされる

第10回Healthcare Caféを終えて

対話会を経て、司会を務めた新見は「正直なところ、ここまで深い感想を皆さんから共有していただけるとは思いませんでした。やってよかったです」と話し、第10回Healthcare Caféを次のように締めました。

「私たちは、どうしても「疾患」や「治療法」という医学的・技術的な側面から物事を捉えがちです。ですが、今日のお話には生活の中での困りごとなど、人間的な物語がありました。今日の驚きや共感をぜひ持ち帰って、日々の業務でふと思い出してほしいと思います。『患者さんとともに歩む』とは、言葉にすれば簡単に聞こえるかもしれませんが、今日のような具体的な時間の積み重ねで形になるものです。ぜひ、職場でも共有してほしいですし、どんな行動をしたのか、次回のHealthcare Caféでお互いに共有できたらと思います」

共に運営を進めたコアメンバーからも、感想が寄せられました。詳しくは以下の記事をご覧ください。

今回のHealthcare Caféも、皆様のご協力により、貴重な対話の場になりました。協和キリンはこれからも患者さんの声を真摯に聞き、価値ある薬を少しでも早くお届けできるよう取り組んでいきます。

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